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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
第一章 異世界で生き延びろ
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#17 二人きり

 ここがプラムが一人で生活してる部屋か。なんの変哲もない部屋だな。特別豪華でもないが安っぽくもない。

 パッと目につくのは、二つの二段ベッド(本来四人部屋だからな)。木製のクローゼット、いくつかのソファーにローテーブル。あとはプラムが雑に置いた荷物がチラホラ。


 居場所が見つからない俺はとりあえずソファーに座る。案外フッカフカだな。プラムは一直線にベッドの方へ向かい、


「着替えるから、目つぶっててよ!?」


「はいはい」


 掌で顔を覆う。普段プラムは暗い赤色の……なんつーか大きめのセーターみたいなのと黒タイツの姿だが、ちゃんと部屋着もあるのか。


「終わった」


 白いタンクトップ的な服と、ベージュの短パン姿に。部屋の中だけだしこんなもんか。


「ずっと一人なのか、ここに」


「うん。もう慣れたけど」


 プラムは今、二段ベッドの下の段に座って脚をパタパタ動かしてるが、二段ベッド二つもあって使うのは一人ってところに寂しさを感じる今日この頃。

 慣れたとか言ってるが、強がりか。


「ねぇマコト。ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」


「ん?」


 こっちへ歩きながら珍しく真剣そうな顔をしてプラムが聞いてくる。普段がおちゃらけてるとこういう表情に信憑性が出るな。


「魔法がなかなか上達しなくてさ。だから楽しくなくて、毎日おんなじ訓練の繰り返しが嫌になってきちゃって。これっておかしいのかな?」


「…………いいや、いつまでもできないと楽しくならないのは当たり前だ。たぶんな。毎日毎日無駄なことをしてるだけじゃないかと感じるようになるもんさ」


「ほんと?」


 俺の隣に座ったプラムの表情が少し明るくなる。


 仕事だって、勉強だってスポーツだって、自分がなかなか成長しなかったら辛いだけだ。努力すれば本当に報われるのか、どこまで努力すれば報われるのか。いつまでもできないとそういう変な気が起きてきて、努力するのが嫌になったりしちまう。

 それでもやっぱり成長したいなら足掻かないとならない、それが人間の辛いところか。


「だが、魔物と戦える程の実力すらまだ無いんだろ? それなのに誰にも相談せずに早まって魔物と戦おうとした、その判断は間違いだな」


「う」


「ルークがあんなに可愛がってくれてんだから、あいつに言ってみればよかったんだ。一番信頼できる人に思い切って聞けばいい、次からはな」


「そうだよね……でも」


 俯くプラム。俺の顔を横目にチラチラ見ながら。


「ルークは本当に私のこと好きなのかなって……最近考えちゃって」


「おいおい、考える必要もないだろ。あいつはお前が大好きだ。数時間しか一緒にいない俺でもわかるんだから、相当だぜ?」


「う〜ん、でも……ルークが指導する見習いは何人かいるんだけどね、ほとんどは()()に通いつつ魔法の訓練をしてる人達なの」


「学園?」


 文字通り、だよなきっと。この世界にも学校の概念があるのか。こんなファンタジー世界に。


「みんな講義が終わると一目散にここに来て訓練を始めるの。でも私は学園に通わないで、ずっとここに」


「あ、義務じゃねぇのか?」


「一応任意だけど入学するのが当たり前って一般常識みたいな感じ」


 プラムの歳でも入学できる、高校や大学みたいなもんか。何でこいつは入らなかったんだ?


「お前は、一度も通ったことないのか?」


「一瞬だけ入ったよ。でも同級生とはうまく行かないし、ルールに縛られるのがなんか嫌でさ。やめちゃった」


「まぁ気持ちはわかる。良くも悪くも学校は、同じ教室に同じじゃない人を集めて集団生活させる所だからな。はぐれ者が出たって不思議は無い」


「えっ、その感じわかるの?」


「少しな」


 しかし学生時代の自分の記憶だってもちろん無い。友達はいたのかなぁ。大学出てたのかなぁ。だが少なくとも学校が好きでは無かっただろうことは想像できる。この考え方から。


「学園に通ってる同年代の見習い達は、みんな将来の夢とか勉強のこととか難しい話ばっかりしてて。それに比べて私は何も……魔法だって上手くないし。だから、ルークも私のこと『後のこと考えてなさすぎだ』って思ったりしないかなって……」


 出たよ。『将来の夢』の話。


「まずルークはそんなこと思うヤツじゃないし、本当にやばいなら手を貸す。たぶんそうだろ? さっきも言ったが……会ったばかりの俺でもわかるんだ、お前が一番よく知ってるはずだ」


「まぁ、ね」


「んでもう一つ……夢は、あった方がいいに決まってる」


「だよね――」


「だがもし考えても思いつかないなら、無理してまで今決めなくてもいいじゃねぇか。と俺は思ってる」


「えっ」


 もう俺は、誰にも何も言わず傍観するだけの人間をやめたい。

 誰にどう思われても構わないって思える人間になりたい。

 だから、持論を展開させてもらう。


「俺が前住んでた所にも、その学園と似たようなのがあった。そこの四十代前半の先生はこう言ってた、『教師になろうと決めたのは三十歳くらいの頃で、本当は小さい頃から別の夢があった』とな」


 本当の話だ。誰からか知らないが、聞き覚えだけある。どうやら俺自身のプロフィールの記憶は消されても、見たこと聞いたことくらいは覚えてるようだ。これまで何度かそれがわかる機会があったような……気づくの遅かったな。


「それがどうしたの?」


「つまり、今からなにか夢を持ってもそれが叶うとは限らないし、日々を生きてる内に別の道が示される時だってあるってことだ」


「いつも、思う通りにはいかない?」


「そうだ。小さい頃の夢の通りにいくヤツは少ないんだ、選択肢はいくらでもあるんだから。そのはずなのに、大人達は『将来の夢は何だ』『早く決めろ』『努力は必ず報われるんだから』……と言う。まぁかくいう俺も大人だし、ひねくれた考え方だが」


 ネガティブにも程がある、と文句言われても否定はできん考え方。だが今のプラムに必要な言葉だとも思う。

 普通、今みたいなことを親や先生に相談すると、否定され、なんのフォローもされず、適当に諭されて終わるんだから。

 俺みたいな意見だって、時には……悪くないだろ?


「そっか。そんな風にも考えられるんだ……色んな人にこうやって話したけど、誰も肯定してくれなかったよ」


 やっぱりな。


「ま、それが普通なんだから仕方ない。でもみんながみんな普通でいる必要はない。だろ? お前はこのまま毎日を精一杯生きればいいんじゃねぇか。何かを頑張って生きてれば……その内、やりたいことの一つや二つ見つかる」


「……うん」


「お前、寂しがり屋なんだろ? だったら少ない知り合いを、もっと大事にしてみろよ。もっと信じてみろ。そうすりゃ、まぁ、どうとでもなるさ」


「……うん!」


 それ以上言わないプラムは俯いたまま、でもちょっとだけ笑顔を取り戻したような気がする。相当悩んでたんだろうか。

 俺は彼女の悩みを消してやろうなんて微塵も思ってない。ただ、認めただけ。


 ほんの少し認めてもらうだけで、救われる人間がいる。あの世界でもこの世界でも、それは変わらないらしいな。

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