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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#165 日なたぼっこ



―――


「さすがはジャイロくん、退屈しない演説でしたね。ところでマコトさん。僕の趣味に付き合う気はありますか? 聞きたいこともたくさんあるんですが」


「お前の趣味? 初耳だなぁおい。いいぜ、行こう」


―――



 そうルークに導かれるまま壁外に出て、北の森を抜け、俺の通ったことのない道を進んで、現れたのはアホかと思うほど綺麗な草原のスペース。日当たりもよくどこか幻想的で、ここがファンタジーな異世界であると再認識させられる。

 この綺麗な原っぱをベッドにして昼寝をする……それがルークの趣味だという。これを『趣味』と呼べるのか判別できんが、いい趣味してると思った。

 今、二人で吞気に寝っ転がって日なたぼっこしてるワケだが、


「あ。ガチで忘れてたんだが、今の俺ってスライムにさえ殺されるような人間だから頼むな? 魔物出てきたらホントになんとかしてくれ」


「あはは。心配性なのは相変わらずですね! 大丈夫、ここで魔物は見たことありませんよ。もう何年になるかわかりませんけどずっと使ってますから」


 おいおい『相変わらず』じゃなくて『今は特に』だよ。無能力者だぞ。でもわからないくらい長く使ってるやつがいんだ、信じていいだろう。


「いやー日の光が気持ちいいな。ここでゴロゴロすんのたまんねぇよ。ところでルーク、最近ミーナとはどうだ?」


「何ですかその聞き方、もう付き合ってるみたいじゃないですか! ……別に普通ですよ? 普通に仲良しです」


 ま、あの感じだといつかはくっつくだろうし、そんなに心配することでもねぇか。


「それよりマコトさんに聞きたいのはリールさん達のことですよ。いつからエルフと交流があったんですか?」


「ほらアレだ、北の森でカエルと戦った時。俺とジャイロはエルフに捕まってたんだよ。そっから抜け出す時に協力してくれたのがリールだ」


「やっぱり隠してたんですね……」


「まぁ一応『言わないでくれ』って念を押されてたからな、すまん。今回はもうこの際だしお前だし、言っちまっていいかなと」


 そんな話あったなぁ。確かエルフの村から逃げてきた俺らをルークが問い詰めてきて、ジャイロがフォローしてくれたんだっけ。


「その件はもう良しとして、では帝国での戦いの後リールさん達はどうしたんです、無事でしたか? というか帝国の人々や生きていた魔王軍幹部は? さっきのマゼンタ団長の話も僕、びっくりしたんですから」


 あー、ルークはタカオを倒した後ずっと気ぃ失ってたから全部説明しなきゃなのか。


「よしわかった。まず俺が魔王ツトム・エンプティを殺した。それは近くで見てた帝国兵からどんどん伝わってって、帝国全土に広がったんだ。生き残った帝国兵は全員降伏してたな」


「全員降伏……!」


「ああ、俺達の勝利だ。降伏した帝国兵も、元奴隷どもも要塞に集まってきて戦いはあっけなく終わった。ちなみに元奴隷も帝国兵も全員『傷ついた帝国を復興させて元に戻したい』って意見だった」


 つまり王国に移り住みたいってヤツは一人もいなかった。面白ぇもんだ。汚かった帝国が戦いでさらにボコボコになったってのに、どうやらどいつもこいつも逆に愛着が湧いてしまったらしい。


「すぐに王国から食料だの資材だのを届けるってのも難しいと思って、何日かブラッド達に残ってもらうことにした」


「なるほど、帝国の住民達は誰一人外に出ようとしなかったと……え? どうしてマコトさんの子分達を?」


「ブラッドとゼインに近くの動物とかを狩ってもらって帝国の人達に分け与える、あと帝国兵が妙な気を起こさないか監視する目的」



―――


「任しといてくだせぇ親分! 俺らぁ何百人分でも肉とか調達してきやすから!」

「そうっス。帝国兵どもも反逆起こしそうにねぇっスしね。それに俺はプラムちゃん成分を堪能しまくったから――」


―――



「……力技ですねぇ」


 ここからはルークもたぶん知ってるが……何日か後、帝国が復興への道を歩むことをマゼンタやジャイロが全力で支援してくれた。王様に掛け合ってくれて、とりあえず何十人かの騎士や魔術師、食料や資材を向こうへ定期的に届けることになる。

 その騎士や魔術師達と交代するように、ブラッドとゼインも帰ってきた。


「とにかく帝国の未来は暗くないってことですね。良かったです……では、転移者は?」


「それ聞いちゃう?」


「いや聞きますでしょう……」


 タカオを倒した身としても、やっぱ気になるだろうしな。


「まずタコ野郎のタカオと、サメ野郎のヨリヒトは目撃者の証言とかブッ倒れたお前を見て、帝国の地下室に閉じ込めとこうってことになった。もちろん保存食をかなり足しといて、鍵も()()()()()()()()だ」


「……殺しはしなかったんですか」


 失望したって感じじゃなく、純粋に質問してくるルーク。今は寝転がって空を見上げてるが、ルークとしても迷いはあったろう。まぁ普通は殺すわな。だが、



「……もう、こりごりだった。あれ以上、命のやり取りっていうのをやりたくなかった。それだけだ。幻滅するか?」


「まさか。する訳ありません。お二人はドラゴンさんがオエッとやらなきゃ出てこれないんでしょう? 心配いらないじゃないですか」



 『オエッと』なんて普段使わねぇオモシロ言葉を使って、俺の罪悪感を消そうとしてる優しさが見える。ホントいいヤツだ。

 タカオとヨリヒトは帝国、ならばとヒロとアヤメは王国で引き取った。喧嘩両成敗じゃねぇけど、お互いにリスクを背負うことで友好を示した。


「ヒロはな、ナイフ二本取り上げて王国の地下牢に閉じ込めてある。アヤメも同じだが……あいつは、女神様に変なことを頼んでてな」


 アヤメと女神様のやり取り。それに興味津々そうに俺を見てくるルークがいた。



―――


「あなたが神様って……ほんと?」


『ええ』


「ねぇ、もしまだパワーが余ってたらさ、私の能力も消しちゃってくれない? ツトムくんみたいに」


『構いませんが、本気ですか? それとも前の世界に帰るおつもりで?』


「うん、本気。ツトムくんから『いらない』って言われた能力だし……そもそもツトムくんもういないし。あと、帰る気もないよ」


―――



 たぶん深い意図はねぇんだろうけど、ツトムの死後、アヤメは女神様に頼んで自分の二つの能力を消してもらってた。普通のJKになったんだ。

 超スピードが出せるだけの無害なヒロ、無能力者になった無害なアヤメが王国の地下に監禁されてるワケだ。


「自ら能力を捨てたんですか……面白いことをしますね」


「な。あいつツトムのこと好きだったっぽいから、生きる意味とか失ったのかもしれねぇ」


「う〜ん……あ、そういえば女神様やドラゴンさんはどうしたんですか?」


「女神様はしばらく北の森で休んだら、神界って場所に帰ってった。ドラゴンもどっか飛んでった。世界を監視して回るんじゃねぇかなと思ってるけど」


 そういえば王国内でのドラゴンの誤解って未だに解けてなさそうだな。ジャイロやレオン、ドラコなんかが真実を広めてくれれば、ドラゴンと共存もできそうだが。

 あ、この流れだとルークが次聞いてくるのは、


「あ、この流れだから聞きますけどリールさん達は?」


「だよな。最初に話してから放ったらかしだったもんな。リールとルールとバスターは無事で、普通に帰ってったぜ」



―――


「マコトなら魔王を倒してくれるって信じてたわ、私」


「そうかよ。俺もお前がくれた聖水を信じるとするよ……もし効いてなかったらやべぇ」


「何か言った?」


「いや何も? 言ってねぇけど? それよか俺はお前らとドレイクの関係が心配だ」


「それなら大丈夫よ。彼、なんだかんだ私に甘いのよね。『ある事』さえすれば」


「…………」


―――



 リールの言ってた『ある事』ってアレしかねぇだろ。助かるためにはしょうがねぇのか? 余計な世話だろうと思って、それ以上は何も話さなかったが。


「無事でしたか……良かった。タカオさんが想像以上の怪物だったものですから恐ろしくて――あ、すみません! マコトさんのことは怪物だと思ってないです!」


「同じ転移者って括りだからか。はは、大丈夫大丈夫。それくらいわかってるよ。俺は怪物じゃなくて大怪獣って扱いなんだろ?」


「違いますよ! 何言ってんですか……」


 ――俺は見逃さなかった。俺のボケにツッコミを入れるルークは『転移者』ってワードを聞いたとき、視線が一瞬泳いでた。

 だがルークはそこに触れず、


「……あれ? そういえばマコトさんさっき、魔王を『殺した』って言いましたよね。ってことはマコトさん、ひょっとして……!?」


「早まるなって。その辺はかなり入念に対策したつもりなんだ、誰にも迷惑かけたくねぇから、俺とツトムの一騎討ちで終わらせたかったから」


 結果、一騎討ちとは程遠い、もはやバトルロイヤルみたいな状況だったけど。

 エクスカリバーと聖水、闇の心臓を狙ったこと。対策を全部ルークに話すと、


「なるほど。成功してるかどうかは僕にもわかりませんね。魔物の量は前より減った気もしますけど……」


 頷いてはくれなかった。まぁ俺が魔王になっちまってんのかわかんねぇからなー。闇に愛されてる感覚はねぇし、それ以外で試して調べる方法も知らんし。

 先代魔王ギルバルトがマゼンタに封印された時も、なんか魔物が消えることはなかったが量が減ったって言ってたな。こりゃもうわからんな。深く考えなくていいと思うし。深く考えたくねぇし。


「うーん……そろそろ、時間ですねぇ」


「時間?」


「はい。仕事を始めなきゃいけません。復興のお手伝いだったり書類の整理だったり、報告書を書いたりとか、ですね」


「へぇ、騒がしい演説とかおっさんの接待も含めて、盛りだくさんな一日だな」


「そうですね〜……」


 最後のルークの返事は、心ここにあらずって感じ。なんとなく察しが付いてた俺は、



「気になるか? 俺が元の世界に戻るのかどうか」


「……正直、気になります」



 そりゃあ気になるよな。もう『友達』なんて感覚も通り越したような関係だ。ホモじゃねぇよ?



「まだ帰らねぇよ。女神様も万全なのかどうかわかんねぇしな。もし万全でも、しばらくはこの世界で暮らしたい。ただまぁ俺はもうクソザコだから冒険者は無理だな。商人か農家でもやるっきゃねぇ」



 付け加えるなら向こうの家族は俺のこと覚えてねぇし、仕事に復帰できても無能扱い、世間のはぐれ者だ。

 だからそん〜なに急がなくてもいいと思う。ルークもこれには頷いてくれて、


「良かったです。急にいなくなったら、寂しくなりますもん。プラムだってもっとあなたと話したいでしょうし。あなたは『救世主』なんですから、死ぬほど働いたんですから、仕事のことなんてひとまず後で良いじゃないですか」


「それじゃ俺、引きこもり一直線になっちゃうよ。別にいいけど」


 わっはっは……と、いい大人が二人して草原で寝っ転がって笑う。笑う。

 能力が無くても、この世界で生きてきた俺はどうやら『色んなもの』を得たらしい。例えば、目の前で笑ってる青年とか。





次回が最終回です。

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