#164 騎士団、フォーエバー
今回含めてあと3話で終わるんじゃないですか?(適当)
キャラクター紹介とか「おまけ」的なの需要無いでしょう。
シリアスが続いてた気がしますが、最後は比較的ほのぼのです。
あ〜、突然だが、ここはサンライト王国騎士団の領地。広場の端っこだ。
俺の隣には青髪の魔術師ルークがいて、俺達の眼前に広がるのは、
「遂に、あいつが……」
「ジャイロが団長か〜!」
「ずっと指導役だったもんなぁ、違和感」
整列する大量の騎士達。もはや広場を占拠してやがる。まぁこいつらの領地だから当然だが。
その騎士達のさらに正面、一番前にはスピーチとかに最適そうな木製の台がある。
それに上ろうとするのは赤髪の騎士ジャイロ……
――バキィッ!!
は? ジャイロが台にちょっと足を乗せただけでその床が抜けたらしい。いや、ハプニングにしてもこんなに雑なのあるか?
「アッッッ! 痛ぇなチクショウ!! おい床が抜けたぞ、誰だこの台作ったの! あっ……そういやオレだったわ」
お前が作ったのかよ。正直なんかショボイなぁとは思ってたが、それなら納得ってもんだ。
「はぁ〜、これからはあれが騎士団の団長ですか。先が思いやられますね、マコトさん」
「そうだな。ジャイロのヤツ、不器用そうだもんな。ってかこんな大事な日に使う台をどうして自作した……」
未だミッシミシと音がする台上を歩くジャイロを、ルークと二人でからかう。遠いからあいつに聞こえねぇだろうし。
注意しながら、ようやく台の真ん中にたどり着くジャイロ。机に置いてある拡声器(みたいな形をしてる物)を手に取り、スピーチを始める。
「よう、お前ら! いい朝……って、もう昼だな……まず謝らせてくれ。この演説を始めるのは二時間前の予定だってことは知ってたんだぜ? どうして二時間も遅れたかっつーと……寝坊した。ごめん」
「「「バカ野郎ッ!!」」」
二時間、なんにもねぇ広場に立たされた騎士達の怒りが炸裂。一応ジャイロは本気で反省しているようで、目線をそらして後頭部を掻いてる。
「僕らも少し遅れたけど、結果、一時間はこうして待ってましたからね……」
「おう、さすがに足が痛ぇ」
隣のルークも、やっぱりジャイロ関係の話だと口が悪くなる。こいつらの場合は仲が良い証拠だが。
「これ以上のムダな話は省くぜ――さてお前ら全員知ってるとおり、魔王軍との戦いから一週間が経ったな。王都だったり東のフェルト村だったりの建物の修復作業も、なかなかいい具合で進んでると思う。だから……」
ジャイロは歯を見せて笑い、指を立てて言う。
「まだ正式に言ってなかったことを、キッパリ言うぜ。今日この演説をもってこのオレ、ジャイロ・ホフマンがサンライト王国騎士団の団長に就任することを宣言する!」
立てた指を閉じ、その拳を高く掲げて声を張り上げた。
周りの騎士達が何も言わねぇのは、たぶんジャイロがまだ喋りたがってるのを察してるからだ。
「――これもお前ら全員知ってるだろう。元団長のエバーグリーン・ホフマン……オレの親父は、一週間前に魔王に殺されちまった。ここ、騎士団の領地のすみっこに墓がある。そこに遺体は眠ってるが、もうもどってくることはねぇ……死ぬ直前に彼は言ったんだ、『お前に騎士団を任せる』……オレに託してくれたんだ」
少し俯き気味にジャイロは語る。聞いてるモブ騎士達の中にも目を閉じていたり、涙を流してる者がいる。
「誰もが憧れてた、みんなに信頼されてたエバーグリーン・ホフマンはどんだけ悲しんでももどってこねぇ。だからオレは精一杯がんばるよ……丸っきり親父の代わりになることはできなくても、なるたけ近づけるように、一生かけて努力するつもりだ!」
良いことを言うじゃねぇかジャイロめ。あいつも随分迷ってたはずだったが、どうやらその迷路からは、ある程度抜け出せたらしい。
「それから団長補佐のことだが、そこにいるウェンディに頼もうと思う」
ジャイロが指差す方向からウェンディが歩み出てくる。ガチガチに緊張してるのか肩が上がってる彼女は、ジャイロと同じ場所に立とうと台に上がるも、
――バキィッ!!
なんというデジャブ感。一歩足を乗せただけで穴が空き、ウェンディは派手に転ぶ。褐色の顔を恥ずかしさで赤く染める彼女は、差し出されたジャイロの手を取り立ち上がる。もう一つの拡声器を構え、
「うぇ、ウェンディだ。その、ジャイロに指名頂いて、その、団長補佐を務めることになった。強さとしてはまだまだ未熟ではあるが、努力は怠らないつもりだ……!」
「未熟なのはオレも同じことだ……団員のみんなからの期待には、すぐには答えられねぇかもしれねぇ。けど必ずその期待通りになってみせる! ――だから、オレらを応援しててほしい!」
すごい勢いで頭を下げたジャイロ。遅れてウェンディも頭を下げる。
かつてのエバーグリーン、かつてのレオンのポジションか。プレッシャーはかかるだろうが、あいつらなら大丈夫だ。俺には確信があった。
「「「うおおお! 頑張れお前らぁっ!!」」」
あいつらは団員達からもう充分愛されてるからな。
安心して笑うジャイロと、涙を流して喜ぶウェンディが台の上にいる。ジャイロはまだ何か言いたげだが――
「まだ話はあるぜ。オレが紹介したいもう一人の男がいる! それは魔王を倒した男、実質この世界の『救世主』って感じの男! マコト・エイロネイアーだ!!」
え、俺!? この流れで急に俺!? 遠くからでも俺のことが見えてるらしいジャイロは手招きまでしてくる。「ふふ」と笑うルークも背中を押してくる。
しゃーねぇ。行くか。
知らんおっさんの名に混乱中の騎士達の脇を早歩きで通り過ぎて、台を下りたウェンディから拡声器を貰い、そして台の
――バキィッ!!
「うおぉっ、すっかり忘れてた!」
俺は台上に三つ目の穴をブチ抜いた。
▽▼▼▽
慎重に台の真ん中まで歩いて、ジャイロと向かい合う形に。それはいいが、
「おいジャイロ、俺に何をしろってんだ。『魔王を倒した救世主』がみんなスピーチ上手だと思うなよ?」
前に出てきたからって特段話すこともねぇし、何をしたらいいんだかサッパリなんだよな。
「ビビんなよ救世主。オレが紹介してやっからさ――みんな!! 知ってる奴もいると思うが、この男がマコト・エイロネイアーだ! 一週間前に魔王をブッ倒した張本人だぁっ!!」
「「「うおおおおすげえええ!!」」」
モブ騎士達が喝采を上げる。いやいや称賛されたって何も出ねぇから、俺がどうしたらいいのか早く教えろ。
「これも知ってる奴いるのかな? オレも聞いただけなんだが、この男は国王様からの勲章の授与を断ったらしいんだ。そもそも王様は『帝国に行った者は死刑』って言ってたから変な話だけどな」
ジャイロは拡声器を通して俺の紹介を続行。ってオイ、今のはマズイだろ。聞いた騎士達は疑問の声を発し始める。
「あれ? そういえば行っちゃダメだったな……」
「魔王が消えたってことに喜んでたら、大事なとこ忘れてた!」
「もしやその男、『救世主』と呼ばれるために国王様に金でも払って無罪放免を保証してもらってから帝国に行ったんじゃ……」
クソったれ、やっぱり変な誤解を招きまくりだ。しょうがねぇから俺も拡声器を構え、
「違う、違うぞアホどもが! ここに至るまでには色んな経緯があってだな――ジャイロお前、余計なこと言うから面倒な騒ぎになるんだぞ!」
「しーらね。あとは何とかしろよマコト。オレはお前が勲章も貰わずこのまま『地味なおっさん』ってだけで終わるのが、ナットクいかなかっただけだから」
「一応俺への優しさだったのか!? 自分勝手の極みだな、ありがとうよ!」
不器用な優しさってのは大抵可愛いもんだが、ここまでくるとただの迷惑だろ。まぁ俺が収めるしかねぇか。また拡声器を構えて、
「俺は正真正銘の犯罪者だった!! 王様には一切何も話さず独断で帝国まで行った! お前らも知ってるだろうが、ジャイロもルークも一緒にな!!」
「おいてめぇ! オレを巻きこんでんじゃねぇよ!」
「どうして僕まで出すんですか!」
隣のジャイロと遠くのルークに怒られた。いやルークはいいがジャイロに怒られる筋合いはねぇぞ。
そうか、まだ一週間しか経ってねぇし復興作業も終わってねぇし、ジャイロやルークも一緒に帝国に行ったことはあんまり伝わってないのか?
「あー……続けるぞ騎士ども! 王様から無罪放免として扱われてたのは魔術師団長のマゼンタだけだった! でもあいつ抜きで、俺達だけで魔王軍をぶっ潰した! その後マゼンタと合流してこの国に帰還した!」
本当の過去の話だ。マゼンタは俺とルークと別れた後も帝国の外で、生み出され続ける魔物どもをずーっと狩ってたんだ。
ツトムを倒した後に帝国を出ると、すぐにマゼンタが現れて合流。一緒に王国まで帰った。問題はその次だな。
「もちろん俺が最初に向かったのは王様のいるお城だった! そして全力で王様に抗議した! ――だって、俺以外にも帝国へ向かった犯罪者がいっぱいいたんだからな! 大切な、俺の仲間達が!」
帝国から帰って、休みもせず俺は城へ無理やり侵入した。ルークやジャイロやウェンディがいないってことはバレてると思ったから(実際バレてたらしい)。扉をこじ開けて、臆病者の王様バルガ・ドーン・サンライトの胸ぐらを掴んで、こう言った。
「『俺はエバーグリーンを追った。俺を殺すのは勝手にしろ。でも、俺みたいなクズについてきてくれた仲間達に罪は無い! 俺だけを殺すならいくらでも殺せ、ただし他のヤツに絶対に手を出さねぇと誓え! もし誓えねぇんなら、俺が貴様を殺す!!』……そう、王様に怒鳴りつけたんだ」
我ながらバカなことをしたと思う。帝国兵達、エバーグリーン、ツトム……色んな命が無慈悲に失われ、俺も失わせた。だからたぶん俺は頭がどうにかなってたんだ。
王様を怒鳴った話をしたのに、目の前の騎士達は意外にも怒ってきたりしない。ただ俺の次の言葉を待ってくれてる。
「直後、取り押さえられた。ワケあって俺にはもう救世主みたいな力が無くなってたから、簡単に兵士に倒されちまった……そこで登場してくれたのがマゼンタだ」
俺の言葉に取り合ってくれそうもない王様に、俺の後ろから話しかけたのはマゼンタだった。あいつには救われたな……
―――
「陛下……いつまで死刑に拘るつもりなのかしら? その人を殺すというのならば、私のことも殺してちょうだい」
「なっ!? 何を言うのだマゼンタ、君とはしっかりと契約を結んだだろう! その男は違うぞ。一歩間違えたら、サンライト王国と魔王軍との戦争に突入して――」
「でもマコトさんはその一歩を違えなかった。でしょ? それどころか、彼が行っていなかったらどうなっていたか……エバーグリーンさんと私は実質、魔王軍に敗北したわ。エバーグリーンさんは死んだの。だから責任を取って私もマコトさんとともに死ぬ。どこにおかしな点があるのかしら」
「おかしいに決まっている! え、エバーグリーンが死んだという噂はあったが…………それが確かなら尚更だ。君がいなくなってしまえばサンライト王国の武力が――まさか、それで!? 君はマコト・エイロネイアーを庇うつもりなのか!」
「どうでしょうね、私が言えるのはここまでよ。彼や関係者を殺すなら私も死ぬわ。死刑にできるものなら、してみなさい」
「ぐぬ……」
―――
あいつのおかげで俺は死刑を免れた。それから、
「何日か経って、王様からの通達で『勲章を授ける』ってよ。そんな掌クルックル野郎から誰が受け取るんだよと思ったワケだ。まぁ、その一件が無くたって俺は貰わなかったかもしれねぇけどな」
そうやって話を締めくくる。
目をパチクリさせてるジャイロとルークはあの時気絶してたから、こういう細かい話は知らねぇんだろうな。
ではモブ騎士達はというと……
「やるじゃねぇか!」
「素晴らしい!」
「根性あるぜ、おっさん!」
拍手の音があちこちから鳴り響き、最初にジャイロが俺を紹介した時にも勝るような大喝采だ。やっぱ良いヤツらなんだよな騎士団。
注目を浴びるのは好きではねぇけど、たまにはこういうのも悪くない。この機会にちょっとハメを外してみるか。
エバーグリーンは「永遠などない」って言ってたけど、
「よーし騎士団よ……(なるべく)永遠なれ!!」
「「「うおおおお!!」」」
ちょっとシリアスな話になっちまってたが、どうにかこうにか明るい雰囲気にぶち込んでやれたな。
俺が雰囲気を戻せたことに気を良くしたジャイロはこの騎士どもの大騒ぎの中、遠くから見守るルークに顔を向ける。
「最後にもう一つ忘れてたぜ! お〜い、ルークく〜ん! オレは団長だってのに、てめぇは二番手のまんまだなぁ〜!! ぶはははっ!!」
満面の笑みで中指をおっ立てて、ルークに今世紀最大レベルの挑発を仕掛けるジャイロ。
やはり青髪も黙ってなくて、
「せいぜい実力で僕に追い越されないように頑張ったらいいですよ、ジャイロくん!」
あいつも中指を立ててる。
ったく、二人して変わらねぇな……ホント、変わらねぇんだから……




