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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#163 おっさん vs 高校生



「――プラム!?」



 叫んだ俺の目に映るのは、横から飛び出してきたプラムが女神様を押し倒すシーンだ。

 燃え盛る火矢は、もともと女神様が立っていた場所を通過した直後に消滅していった。


『あ、貴方は……マコトさんの……?』


「うん。マコトの親友のプラムだよ。あなたはえ〜っと、女神様だったよね?」


『そうですが……な、何故私を助けたのですか? 貴方とは殆ど面識が無くて――』


「マコトの大切な人なら、私の大切な人だもん」


 床に倒されたまま放心状態みたいな顔をしてる女神様は、プラムの最後の一言で軽く絶句。


 ――クソ、またカオスな急展開続きで頭が追いつかん。簡単に状況を整理だ。

 まず無能力になっちまった俺は、アバラも折れて壁際で立てなくなってる。


『私は……罪を……犯したのに……』

「むずかしくって、私にはわかんない」


 開いた扉の近くには、自殺未遂した女神様と、彼女の体の上から立ち上がるプラム。


「誰っすかあの綺麗な人! エクスカリバーの持ち主だって自己紹介したら、落とせますかね!?」

「…………」

「…………」


 女神様とプラムの後方に、さっき俺が投げ飛ばした三人。アーノルドとレオン、無表情で拘束されるアヤメ。

 そして扉の内側、大広間の中心に――


「嘘だぁぁぁ!! こんなの、ありえない……ありえないありえない……僕は、特別なはずなんだぁぁ!!」


 俺と同じく無能力になったツトムが、どこにも、誰にも届かない雄叫びを上げていた。


 まったく、振り返れば振り返るほどにひでぇ状況だ。

 ツトムもだが、俺も体は傷だらけだ。それを見たプラムが駆け寄ってくる。


「マコト大丈夫!? 待ってて、すぐ回復するからね……〈ヒール〉」


 プラムの癒しの光が俺の体を修復し、疲れを解消していく。少し時間はかかるだろうが、このまま回復してもらえば――


「汚いぞ! あんただけ特別扱いかよ!? このクソガキ、回復をやめろよ!!」


「あうっ」


 二分の一くらい回復したかってところ。そこで走り込んできたツトムが腕をめちゃくちゃに振るって、プラムを殴り飛ばしやがる。

 転がったプラムは唇を切ったらしく「いったぁ……」と呟きながらツトムを睨んでる。


 今ので俺の怒りにまた火がついた。大きな声はもう張り上げられねぇが、プラムを傷つけたことは許せねぇ。


「ツトム……お前、まだやる気かよ?」


「当たり前だろう。僕とあんたの勝負は、まだ終わっていないんだからな。まだ、終われないのさ」


「そうかよ。じゃあわかってんだろうな? 俺もお前も普通の日本人になった。こっから先のバトルは地獄絵図も同じだぞ」


 ゆっくり立ち上がった俺。ツトムは踏み込み、そして右の拳を力いっぱい振るってきた。


「わかってるとも、さ!」


 ツトムのパンチは、当たり前のように()()()


「なら、しょうがねぇな!」


 俺のキックも()()()()()()

 ――ろくに喧嘩もしねぇ現代日本人二人による、史上最低の泥試合が幕を上げた。



▽▼▼▽



「こんの!」


 右拳を空振ったツトムは、またクソみたいなフォームで左ストレートを放ってくる。

 だが、いくらクソみたいでも俺のアラフォーボディはもっと鈍臭いらしく、


「ぐっ……!」


 微妙に避けきれず、ツトムの親指らへんの変なところが顔面に直撃。「ペチッ」とリアルな音が響いた。

 まさかここまで自分の体がクソザコだったとは。それを嘆く暇もない俺は、目の前のツトムに飛びかかる。


「だぁっ……うわ、がぁぁぁうぅ!!」


 タックルは成功、ツトムを引き倒す。が、ツトムだけでなく俺までバランスを崩して地面に倒れちまう。その瞬間にアバラに激痛が走り、まさかの自滅。

 うずくまり、まだ中途半端にしか治ってないアバラの辺りを擦ってると、ツトムが立ち上がって近づいてくる。


「あんたを殺す」


 馬乗りになってきたツトムは、仰向けの俺の顔にパンチを打ち込んでくる。何度も、何度も、何度も……


「い……痛い!」


 しかし殴ってるうちにヤツは自分の拳から血が出てることに気づく。確か人を殴って前歯だとかに当たると、殴った側も痛くなるんだっけ。

 右の拳を左手で覆って怯むツトムに、プラムが迫り、


「やぁ!」


「ぶっ」


 彼女の平手打ちがツトムの頬を打ち抜く。小さくて可愛い手だが、威力は強烈なことだろう。

 すぐ立ち上がってたたらを踏んだツトムは、俺とプラムから距離を取った。

 待てよ、どうしてプラムは『平手打ち』してんだ。


「おいプラ……いででッ、鼻が折れてる!! な、何でお前魔法使わねぇんだ」


「さっきの〈ヒール〉で完全に使い果たしちゃって……」


「おま、ここまででそんなに魔法を……わかった。ここは俺がやるから、お前は玉座の方に引っ込んどけ」


 扉の反対側に位置する玉座。プラムはその付近で待機させることにした。

 ――もちろん俺が終わらせるつもりだから、あいつの魔法に頼りたいワケじゃなかった。ただ、今のプラムは自分で自分の身を守れん。これ以上は怪我させたくねぇ。


「やめろ、会話するな、助け合うな! 僕に見せるな! 見せつけるな! うわあああ!!」


「うぉっ……」


 プラムが離れた瞬間、ツトムが両腕をブンブン振りながら俺に突っ込んできた。対する俺は冷静にツトムの顔にパンチを一発入れる。

 だが勢いを殺しきれず衝突、また二人で床を転がる。


「この、この! 死ねっ!」


「……!」


 転がりながら、ツトムの拳や足が俺の体に叩きつけられていく。俺も負けじと足をバタつかせてヤツの体を蹴ったりするが、


「フ、フッ! 勝ったな!」


 最終的にはまた俺が仰向け、ツトムが馬乗りのポジションに。さすがにアバラや鼻が折れてると、もうおっさんにはキツいか。運動してなさそうなツトムだがやはり若者。勝てない、のか。


「殺してやる! 僕は特別なんだ! 闇が無くたって心臓は二つある。僕は『魔王』だぁぁぁッ!!」


 もはや狂気的に笑うツトムは、俺の首を絞めてくる。

 男子高校生の握力。両手合わせて何十キロか、それが継続的に気道を絞め上げてくる。苦しい。息が、できん。

 その時、偶然にも俺がバタつかせた左の拳が、ツトムの肘を強く打った。


「うっ、ぁあっ!」


 よっぽど痛かったのか首絞めを中断するツトム。仰向けの俺は何とか体を起こし、その横っ面をぶん殴る。

 鼻血を噴き出させてツトムは横に倒れた。だが、何とか立ち上がろうとしている。


「僕は……負けない。もうこれ以上……負ける訳には……」


 妙な執念をブツブツと呟くツトム。俺も立ち上がろうともがくが、どうにも辛くて間に合わねぇ。

 ――そして、この不毛な戦いに終止符を打つやり取りが、少女の一言からスタートする。


「ねぇ、魔王さん? 聞きたいことがあるの」


「……あ?」

「……プラム?」


 玉座の近くで泥試合を見守っていたプラムが、口を開いた。ツトムも俺もそっちへ顔を向ける。


「魔王さんってすごく若いんだね。私は十二歳だけど、あんまり変わらないように見えるんだ……そんなに若いのに、どうしてこんなことをしてるの?」


「……僕が特別だからだ。僕こそ『魔王』に相応しいからだ! あっちの世界もこっちの世界も蓋を開けてみれば、無能で無気力でバカな奴ばかりだ! だから僕は僕の特別な力で、世界を滅ぼすんだ!!」


 もうお前に特別な力はねぇだろうに。

 できたとして、俺を殺すくらいの小せぇことだ。実際今のツトムが、異世界人の誰に勝てるのか? プラムとか幼い子供くらいのもんだろ。

 ――というか、プラムはどうしてそんな質問を?


「バカな奴ばかり? あなたにはそう見えるの? 私、色んな素敵な人に出会ったと思ってる。まずルークや団長と会ってね、メイドのミーナと仲良くなってね……それからマコトに会った」


「なんだそれ、うるさい。うるさいうるさい、聞きたくない! 黙れ!」


「マコトと親友になって、リリーと仲良くなって、ジャイロとか騎士のみんなとも仲良くなって。女神様やドラゴンとも話して。すごい人達と、色んな話をしたの」


「黙れよ! 黙れよぉ!」


「――あなたには、そうやってお話できる人がいる?」


「    」


 なんてこった。

 プラムのその言葉は、間違いなくツトムの核心を突く言葉だ。俺と女神様とツトム本人以外は知らねぇはずだが、プラムは偶然にもとんでもねぇ質問を投げかけやがった。

 動きを停止させたツトムを、俺が、女神様が、レオンが、アーノルドが、アヤメが……見守る。


 そして全員が息を呑んだ。



「あ……あ……」



 ツトムの目から、一滴の涙がこぼれた。彼の頬を伝い、顎に到達して、静かに床へと落ちる熱い涙。

 プラムはさらに口を開く。


「魔王さん……寂しい、だけなんじゃない?」


「ぼ、僕は……」


「あなたは、良い人をころした。やっちゃいけないことをした。でも、もしかしたらまだ、やり直せるかもよ?」


「ぼ、くは……」


「――私が、友達になってあげる。いっしょに行こうよ」


 洪水のように涙が止まらないツトムにそう畳み掛け、笑いも悲しみも顔に出さず、プラムは手を差し伸べる。

 ――あの子は魔王ツトム・エンプティを助けるつもりなのか。あの子の言う、殺した良い人ってのはエバーグリーンのことだろう。

 もしこれで成功したら、良いのか? ツトムはエバーグリーンだけじゃなく過去に色んな人を傷つけ、殺した。なのに、これで良いのか?


 俯くツトムは、一向にプラムの方を向かない。


 床には、涙で水たまりができてる。ずぅっと下を向いてるから、表情がほとんど読めねぇ。


 ――ふいに、ツトムが顔を上げる。

 そして右手を、プラムの小さな手へと重ねるように伸ばし……




「うぅっ!?」




 プラムの首を掴んだ。

 左手までプラムの首に追加し、両手でガッシリと絞め上げる。プラムの軽い体が浮き上がる。


「か……はっ……!!」


「友達、家族、仲間、先輩、後輩、上司、先生、恋人、同僚、同級生、恩人……愛する人ッ!! 僕には、何も、いらないんだぁッ!!」


 それがお前の、答えかよ。わかった。


「アーノルド。エクスカリバーを貸してくれ。すぐ返すから……俺を信じてくれ」


 よろめきながらも立ち上がり、アーノルドに声をかけた。

 ――たぶん俺は今泣いてると思う。普段は口が減らないアーノルドだが、振り返る俺を見ると真剣な眼差しで頷き、


「ありがとよ、使わせてもらう」


 無言で剣を床に滑らせ、ぴったり俺のとこまでエクスカリバーを届けてくれた。

 俺は重たい剣をなんとか手に取る。

 ジャイロによるとエクスカリバーは持ち主――アーノルドの信じる人の手に渡れば、刃が光り輝くという。


 刃が輝いた。


 さらに俺は懐から、リールから貰った『聖水』を取り出して三分の一くらい残っているそれを刀身に全部振りかけた。


 ――これが、魔王を封印しようかと聞いてきたマゼンタの問いを断った理由だ。『聖なる剣』を『聖水』まみれにして、ツトムの()()()()()()()を刺せば、俺が魔王になることを防げるんじゃないかと思ったんだ。

 確証は、ねぇけどな。


「寂しくなんかない! 僕は一人で、僕は特別なんだから! いらない、他には何もいらないんだ!」


 俺に背を向けてプラムの首を絞め続けるツトム。言い訳のような、現実逃避のような、同じ言葉をずっと言い続けている。


「……悪く思うな、ツトム」


 エクスカリバーの柄の部分を右手で、刃も左手で持つ。もちろん左の掌が切れて血が出てるが、俺の非力な腕じゃこうしねぇとまともに持てない。

 そのまま、俺は走り出す。とにかく足を前に、前に進めて、



「何もいらない! 何もっ――――――」



 ツトムの右胸を、聖なる刃が貫いた。

 その体が崩れ落ちる。


「けほっ、けほっ!」


 床に転がり落ちたプラムはすごい勢いで咳をしている。


「あぁッ!」


 俺はエクスカリバーをツトムの体から抜く。支えを無くしたツトムの体は横倒しに。


「ぼ……く……は……」


「……せめてお前じゃなくて、『魔王』を殺したことにしたかった。ツトムっていう一人のかわいそうな高校生を殺したくなかったんだ。それもあって『魔王の心臓』の方を刺した。許せよ」


「ぼ……くは……」


 さすがは『魔王』と言うべきか、悲しむべきか。ツトムはまだ意識があるみたいだ。


「さみし……かった……ぼくは……すなおに……なれ……なくて……さみし……」


 今頃になって、本音かよ。


「……言うのが、遅ぇんだよ、バカ。もう一歩早く素直になれたら、お前にはまだ色んなチャンスがあったのに」


「だめ……だよ……ぼく……いきてると、すなおに……なれな……いんだよ……」


 俺はツトムの上体を抱き起こす。右胸から止まらない血を見て、直後に後ろにいる女神様を振り返る。

 彼女は悲痛な顔で首を横に振った――詳細は不明だが、流れ的に彼女でも間に合わない、蘇生ができないという意味だろう。


「おとうさんもいなかった……おかあさんもぼくをみてくれなかった。だれも、ぼくをみてくれない……しんじたく、なかったけど……ぼく……は……あいされたかったんだ……」


「あのな。誰かに愛されたいんだったら、まずは自分が自分を愛さなきゃだぜ」


 俺はツトムの体を抱き締めた。精一杯の愛情を込めて。


「そんなに寂しいんなら、俺が友達になってやる。だからあの世で俺を待っててくれよ。人間はいつか必ず死ぬんだからな」


「……え……?」


「俺がそっちに行ったなら、ぜひともエバーグリーンとか先代の魔王とか、今までの戦いで死んでいったヤツらと、お前と。みんなで酒でも飲もうぜ?」


「…………うん……ありが、と……」


 それが、笑顔のツトムの、最後の言葉だった。

 後ろから女神様が近づいてくる。顔に影を落とす彼女は、冷たくなっていくツトムに掌を向ける。


『純粋ではない、悪人。埋葬するにも難しい立場です。だから私が彼をあの世へお送り致します――申し訳ありません。いくら神でも、死者の蘇生だけはできないのです』


 女神様の手が光るとツトムの遺体も輝いていって、その輝きと一緒に、体が全部消えてなくなった。

 妙に胸が痛い。熱い。実際に刺激を与えてくるほど、俺の中の『罪悪感』は強いってのか。


 息を整えたプラムもこっちへ来る。



「私、間違えちゃったかな……?」


「『間違い』なんてねぇよ。答えが見つからねぇ、答えが一つじゃねぇ。何をするとどうなるのか、予測できねぇ。それが人生だ」



 泣きたい気持ちを抑えて、俺はそう答えた。プラムが無言でハグを求めてきたから、何も言わずに抱き締める。

 ――どうしてかわからない。けど結局、二人してみっともなく泣いちまった。


「帰ろう」


 戦いは、終わったんだから。






もう少し、続きます。

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