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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#160 騎士ジャイロ vs 転移者ヨリヒト

ジャイロ視点→マコト視点と変化します。


 『宿敵その一』ヒロ・ペインを倒したオレはウェンディと別行動を取った。

 ウェンディによれば帝国のあっちこっちで帝国兵と、マコトが解放した奴隷どもが競り合ってるらしい。ウェンディはそれを援護しに行くそうだが、たぶん他の友達連合軍の連中もそういうのに加勢してんだろな。

 オレはプラムと同じく要塞を目指すから、ウェンディとは別れたってことだ。


「ん〜……『宿敵その二』も要塞にいると思うんだよなぁ。あのサメ野郎をぶっ飛ばしたら、オレの役割ほぼ終わりだろ」


 本当のとこはオレ最大の宿敵は魔王ツトムなんだが、それはマコトに任した。だから宿敵その二は、親父が殺される時にオレを押さえつけてた、あのサメ男だ。

 サメって生き物を実際に見たのは今日が初めてだ(絵だけならある)が、海にいるらしい。海自体もまぁ見たことねぇけど話だけならよく聞く。

 ……マコトはタコやらサメやら、海の生き物の名前をポンポン気安く呼んでたような? あいつの世界にも海はあんのか――


「――ぬっ、何奴!! グロロォォ!!」


 いきなり、じいさんみたいな声が聞こえてきてオレは空を見上げた。空飛ぶジジイなんてどこに……


「あ!? ドラゴンじゃん、何してんだあいつ」


 今のは飛び始めたドラゴンが何かに掴まれて焦っている声だったらしい。よーく見ると、ドラゴンの尻尾になにかがぶら下がっていやがるぜ。そりゃ青黒い肌をした……

 いやあれどう見てもサメ半魚人だ、オレの宿敵そのニじゃねぇかよ!


「待ってたんだぜサメ野郎。てめぇに会えんのをなぁ!!」


 オレはドラゴンよりか自分を第一優先に、その足で現場へ急行した。



▽  ▽



「グロォォ!!」


 飛ぼうとしてもサメに引っ張られて飛べないドラゴンは、オレが跳べばしがみつけるって位置までたどり着くと同時に急降下。爆音とともに民家群の中に姿を消す。


「サメ野郎に撃ち落とされたか。おーいドラゴーン! やられてねぇか、加勢するぜ!?」


「……ぬ、その声はジャイロ・ホフマンか。すまぬが儂は訳あって女神――いやミネルバ――いやミネルを迎えに行かねばならぬのだ」


「ミネルが女神だってのはもう知ってっから安心しろよ。どーんと任しとけ」


 ドラゴン、オレの名前覚えてんのかよ。まぁ首斬ろうとした奴のことは忘れねぇか。複雑な関係になっちまってるけど、もうオレらは仲間だ。こいつだっておんなじ気持ちだよな。

 起き上がったドラゴンのもとへ、オレは屋根から屋根へ飛びうつって合流。ドラゴンが落ちたことで周りに煙が立ってるからサメ野郎の位置がわからん。集中しろ、集中だ――


「――ドラゴン、左だ!」

「ゥゥグロロロ!」


「どうッ!?」


 よっしゃ。冴えまくりのオレの感知能力で、ドラゴンは黒煙から飛び出してきたサメ野郎に豪快な頭突きをくらわせる。

 まともに受けちまって吹き飛んだサメだったが、さすがは転移者、ヨロヨロとすぐに煙から出てきやがった。


「転移者ヨリヒト・スレイブ、だったか。ようやく思い出したがおぬし、前の神の気まぐれを喰らっておいてよく三年間も生き延びたものだな」


「ん? 貴様が私の何を知っている。私はきっと魔王兼帝王ツトム様に仕える為に生かされたのだ」


「まるで神がおぬしを生かしたかのような口ぶりだが……そんな事はあり得ぬぞ!!」


 怒りに任せてサメ野郎――ヨリヒトに向かって炎を吐き出すドラゴンだが、ヨリヒトは半魚人っぽい腕で簡単にその炎をねじ伏せてこっちに突進してくる。

 飛び上がり、奴は拳を振りかざす。その拳に、オレも炎の拳を合わせた。


「熱ッ……貴様は、さっきの」


 炎の熱さに反応してすぐに下がったヨリヒト。さっきってのは処刑台前広場だろうな。


「覚えてっかよ。オレは忘れねぇ、ずっと押さえつけてやがったてめぇのことだけはな! それにドラゴンはもう仲間だ。手出しさせねぇぜ! ――おら、いっちまえ!」


「恩に着る、若者よ……」


 お礼だけ言った赤いドラゴンは王国に向かって飛び去ってく。女神をここに連れてくる気なんだか知らねぇけど、オレは目の前のことに集中するだけだ。


「速すぎて見えん奴とか、なんか背中から出してウネウネさせてる奴とか、面倒くせぇ能力の転移者とばっか戦ってきたが、あんたはサメに変身するだけか?」


「どうだろうな――!」


 ドオッと音が出るほど強く地面を蹴るヨリヒトが、ものすげぇ速度で迫ってくる。

 水かきのある手を振りかざしてただけだったヨリヒトだが、すかさず剣を抜くオレを見て攻撃手段を変えてきやがる。肘のあたりに生えてた()()が伸びて、刃みてぇに鋭く変形。


「うぉ、マジか!!」


 剣でヒレの斬撃を受け止め、お互いに飛び退く。サメってあんなことできんのか。


「ただの鮫と思わん方が良いかもな。ま、単純な能力であることは否定しない。この《シャークマン》も、もう一つの能力《超人的な肉体》も」


 ――しゃーくまん、ちょうじんてきなにくたい?? 能力の名前ってことで大丈夫だよな。『しゃーくまん』がサメになる方で、もう一つは《超人的な肉体》……ひょっとしてマコトと同じか。

 それなら、


「貴様はもしや今、私をパワーだけの脳筋だと侮ったか? 確かにそうかもしれん。だがそんな悠長なことを考えて良いのは、パワーで私に勝る自信がある者のみだ……」


「……!」


 やべぇ、つい安心したのを見透かされた。ここにきて、オレは何考えてんだ。

 考えるな。何も考えるな。敵が強けりゃ強いほど、燃えるのがジャイロ・ホフマンだろ!


「貴様も――付け加えて貴様の父親も。あまり頭の回るような男には見えん。恐らく腕っぷしの方がまだ自信があるのだろう。しかし、私を超えられるのか?」


 話しながらヨリヒトは近くの民家に近づく。外観こそ汚ぇ家だが、しっかりした木造の二階建てだ。奴は民家と地面との境界のとこに両手を差し込み、


「ぬぅ、グオオオオ――!!」


「マジかよ!」


 でけぇ口で咆哮を上げながら、家を地面から引き剥がしやがった。冗談じゃなく、サメ野郎は両手で家を持ち上げてんだ。しかもそのまま喋りやがる。



「《シャークマン》のみでも相当な筋力を得られるというのに、《超人的な肉体》も合わさるとなれば、私を超える怪力の転移者は他にいないだろう。フフフ、この魔王の右腕ヨリヒトに、貴様は敵うのか!?」



 言い終わってすぐ、ヨリヒトは家を投げつけてきた。嘘みてぇに軽く放物線を描いた民家は、オレに覆いかぶさるように落ちてくる。


「クソ……!」


 避けるにも時間が足りねぇ。オレは甘んじてその重量をまともにくらった。


「見たか!? いや木材に潰されて死んでしまったかな? 純粋な力比べで、ただの異世界人風情が私に勝とうなど、夢のまた夢という――」


「オレはな」


「なに、生きているのか!? 上手く避けて……いや、どこだ? どこから声が……」


「純粋な力比べしか、できねぇ」


「まさか……! 貴様、潰されなかったというのか!?」


 そのとおり。パワーバカなオレは飛んできた家を、ヨリヒトと同じように両手で受け止めて持ち上げてんのさ。


「バカな。《超人的な肉体》も持っていないただの異世界人が、ここまでできる訳が」


「世間知らずの大バカはてめぇだろ! ――親父なら、このくらい朝飯前だったぜ。てめぇらがサシでやり合うのが怖くて、多人数で親父をボコったから知らねぇだけだ!」


「なんだと……」


「――だからオレはな、親父が抜けなかったてめぇらの度肝を、親父の代わりに抜きに来たってんだよォォォ!!」


「ぐおぉ!」


 その狭っ苦しい視野をむりやりこじ開けてやる……そんな意味を込めて、家を投げつけ返してやる。放物線も描かせず、直球ド真ん中で。

 さすがに少し怯んだヨリヒトだったが、粉々になった家のガレキから普通に這い出てくる。


「……少し効いた、中々やるではないか。ほとんどの人間は自分に勝てない者を相手にすると、ちまちまと計画を立てたり、時には姑息な手段を使って勝とうとするだろうに」


「ぜぇ、ぜぇ……言っただろ。オレはそれができねぇはずなんだ。敵が自分より強けりゃ、闘志を燃やして、その戦いの中で強くなる。そしてそいつをブチのめして超えていく――それがジャイロ・ホフマンのはずだからな!」


 さっき戦ったヒロ・ペインとか、タカオ・ディザイアみてぇな変な能力持ってる奴らなら話は面倒になる。例えばマコトから攻略法を教えてもらったり、ウェンディに手伝ってもらわねぇといけなくなる。

 だがこのヨリヒトはオレより()()()()。そんな奴に、理屈はいらねぇ。


「気持ちだけ負けなけりゃ、あとはどうにでもなる」


 考えて考えて、親父に叱られて。オレは考えるのが似合ってねぇとようやくわかった。

 それでも考えちまう。負けたらどうしよう、オレの力はどこまで通用する――答えが出ねぇうちに親父は死んだ。


 情けねぇ話だ。自分が気持ち悪いって思う話だ。でも、オレは、こう思った。

 ――あんなにオレより強くて、少なからずオレより人生について考えてた親父でも……死ぬ時はあっさり死んじまうんだ。


 ある種、親父が死んで、逆に安心しちまったのかもしれねぇ。オレは、小さな疑問を、大きく捉えすぎてただけかもしれねぇってな。

 考えてもしょうがねぇんだなと。大切なものを守るため、敵にうち勝つためなら、知識や理性や思考ってもんを捨てて動かなきゃいけねぇ時もあるんだと。

 本当の意味で理解できたように思う。理解できたから、オレは思考を停止させてでも敵に勝ってやるんだ。


「こうは思いたくねぇけど、言っちまえば『強すぎる親父』が、オレの『足かせ』になってたのかもな……」


「何をブツブツと言っている。来る気が無いのならこちらから行くまでだ!」


 また間合いを一気につめてくるヨリヒト。青い拳が迫ってくる。オレは腰の剣に手をやるが、間に合わねぇ。


「うっ、ごっ……がはァッ!」


 顔を二発ぶん殴られ、怯んだところをでけぇ図体で体当たりされ、オレは吹き飛ばされる。

 くそ、なんて怪力。今の三発だけでも気を抜いたら失神しちまいそうだ。なんとか起き上がると、


「グオオオオォォ!」


 尖った歯が並ぶでけぇ口が間近に。


「は……!? あああああァァァァ!!!!!」


 オレの右肩を飲みこむように開かれた口が、ばくりと閉じられる。刃物と大差ねぇ歯が全部オレの体に食いこんだ。

 血がどくどくと滝のように流れ出る。強靭な顎に皮膚が、肉が、骨が、砕かれていく鋭い痛みばっかりが脳を巡る、気が狂いそうだ。痛い痛い痛い、このままじゃ食いちぎられるぞ。上半身の右半分が丸ごと全部持ってかれる……!


「そうは……いくか、ゴラァ!!!」


「んん……?」


 噛みついた部分を引きちぎろうと下がり始めたヨリヒトの体を、抱きついて強引にこっちに引き寄せる。そして、これまでの戦いでなるべく温存するようにしてきた魔力をここで一気に解放した。


「お……おあぁ! 熱い、あっつぁぁぁ!!」


 こりゃちょっと卑怯な手だったかもしれねぇな。

 燃え上がったオレの上半身から、サメ野郎はすぐに口を離す。だがオレはヨリヒトを離してやらねぇ。このまま焼き尽くして――


「熱いぃ、やめろ、離れんかぁぁ!!」


「ぶふ……!」


 腕の中で暴れるヨリヒト。さっきも見たヒレを刃にするやつでオレの左肩から胸にかけて斬撃を刻みこむ。痛みに耐えきれずオレはヨリヒトを逃がしちまった。

 だが、転移者どもはやっぱし火が怖ぇんだな。ヨリヒトは全身火傷しただろうけど、その痛みとは関係なく冷静さを失ってるように見える。


 ――そろそろ潮時か。


 食いちぎられかけた痛みと斬られた痛みを唇を噛んでこらえて、走り出す。二つ並ぶ民家に目をつけ、奥にある家の壁を蹴って、手前側の家の屋根へ登る。

 ここからヨリヒトを見下ろせる。苦しみ続けるあいつは気づいてねぇ。ちょっと跳べばあいつに届く。


「ぜぇ、ぜぇ……こんなクソみたいな戦いは終わらせるとしようぜ。んで、始めんだ――オレ達の時代を!」


 オレは、あえて腰の『不死鳥』を抜かなかった。最後くらいはオレのみの力で締めくくりたい。

 ヨリヒトを焼き殺そうって、少し卑怯なことしたから。

 どうせあいつは落ちてくるオレに気づいて今までで一番すごい拳を放ってくるだろう。それにオレも炎の拳をぶつけるつもりだ。炎は炎でも、オレの力が足りなけりゃ跳ね返されて負ける純粋なパワー勝負。

 互いに重傷。これが最後だ。


「いくぜ、〈スーパー・ノヴァ〉!!」


 右拳をありったけの炎で包んで、下のヨリヒトまで一直線。

 思ったとおりあいつもオレに気づき、白い煙を出す拳で対抗してくる。


「「うぉぉぉぉぉぉ――」」


 白い煙と赤い炎がぶつかって入り混じる。数秒、そこから互いに動かなかった。

 だが、最終的には赤い爆発が周囲を包んで――



「……オレ……の……勝ちだ……な」



 残っていたのは、フラつきながら立つオレ。そして人間の姿に戻って、白目を見せて倒れる老兵だった。



▽  ▽


▽▼▼▽



「兵士は誰一人として口を割らなかったが……絶対この扉だよな。邪魔するぜ、魔王さんよぉ」


 要塞の中を走り回って兵士を倒しまくって、ようやく見つけた一番大きくて装飾がえげつない扉を押し開く。俺を迎えたのは当然、


「なんだ。グズなあんたにしては早かったじゃないか。この僕がわざわざ『待つ』という嫌いな行為をしたんだから、少しくらいは楽しませてほしいものだ」


 赤い絨毯のその上、赤色と金色のコントラストがいい感じの玉座から立ち上がったツトム。

 相変わらずな口ぶりだが、ヤツの表情は少し険しい。


「ヒロもタカオも敗北したようだ、この分だと外をうろついているバートンとヨリヒトもダメだろうな。ったく貧弱ども……けっきょく頼りになるのは僕だけらしい」


 舌打ちするツトムと対照的に、俺は内心嬉しかった。

 バートンやらヨリヒトやらは知らんが、ヒロとタカオは誰かが討ち取ったんだもんな。ルークかジャイロ辺りだろ、やったじゃねぇか。


「一番厄介なあんたを殺して、他の連中も皆殺しにして、そして僕は、僕一人で世界を破壊するんだ……!」


 どこまでもどこまでも暗いツトムの心を映し出すように、ヤツの掌の上で闇の球が踊る。

 ――女神様に教えてもらって、マゼンタから心配されたこと。『魔王を殺すと、殺したヤツが新たな魔王になる』ってこと……俺の考えた打開策が通用すりゃいいんだが。

 ――そもそも俺はあいつを殺すのか?



「考えるのは後だ。さぁラストバトルを終わらせて、新年の鐘を鳴らすとするぜ」


「ラストになどさせない。これは僕のスタートだ。新たな時代を生きるのは、僕一人で充分なんだからな」



 大げさでなく異世界の命運を左右する戦いが、ここに始まろうとしていた。




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