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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#157 魔術師プラム vs 魔術師バートン

プラム視点です。


 ジャイロと女騎士さん――ウェンディさんだっけ。二人と別れて、ただひたすら要塞を目指す私。

 あの超高速のおっかない人に、二人は勝てるのかなぁ。心配したって私じゃどうにもできないけど。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そこのお嬢さん!」


 走ってる私を路地から呼び止めたのは、長い茶髪で体の細い、でも背は高い男の人。おじさんっていうよりどっちかというとお兄さんかなって感じの歳だ。

 服装が帝国兵じゃないけど……奴隷の人にしては綺麗な服装だなぁ。


「私に何か用?」


「君、あれでしょ、サンライト王国の魔術師プラムちゃん。実は俺も魔術師団に所属しててさ、君やマコトさんより先に偵察に来てたんだ」


「え、そんなの聞いたことないよ?」


「いやいや本当だ、君が知らないだけでルークさんとかはちゃーんと知ってたとも」


 こんな所で偶然、味方に出会っちゃった!

 正直一人じゃさびしかったし不安だったから心強いかも。なんでルークは私に教えてくれなかったの、ケチ。


「ごめんなさい、あなたのこと団員だってわかんなくて……でも私のことは知ってるんだ?」


「え!? あ、君は割と王国じゃ有名だからネ」


 団員なんて無数にいるから、全員覚えられないのは許してもらうしかないよね。なのに私はそんなに有名なんだ。きっとマコトのせいだと思う。


「……ね、名前教えてよ!」


「おっと、言ってなかったネ。俺は()()()()。土属性の魔法を使えるから今後ともよろしくナ!」



▽  ▽



 バートンの声、最近で聞き覚えあるような? でも会った記憶が全然ないの。それってなんか、不思議な感じ。

 ――今バートンは私の後ろを歩いてる。彼の手、っていうか指には包帯が巻かれてる。痛そう、兵士と戦ったんだろうな。


「あーあープラムちゃん、いいよいいよ。後ろは俺が警戒しとくからサ、君は安心して前を見て歩いててくれ」


「そう? うん、わかった……あ、敵だ!」


 前を向いた瞬間に帝国兵が走ってきた。私はすばやく杖を抜いて、炎の魔法を浴びせる。


「ぐぇ!」


 死んじゃったかどうか、わかんない。でも今はそれを考えてたら私が殺されちゃう。やるしかない、やるしかな――



「指を噛んだこと、忘れないゾ」



 え? バートンの、小さな声が聞こえた? なんか怖いセリフだと思ってすぐ振り返る。尖った石が一直線に私の喉に――



「……おいおい。プラムちゃんに何してんだコラ」



 と思ったら、その石を短剣で弾いてくれた男の人。よく見たら『ろりこん』のゼインだった。


「プラムちゃん大丈夫? どうして敵と一緒に?」


「いやその人は味方だって言ってきて……」


 兄貴のブラッドや親分のマコト以外には普通の喋り方で話す『ろりこん』ゼイン。いつもなら私は嫌がるんだけど、今は頼もしく見える。


「味方! まだそれを信じてたのかヨ! やっぱりガキはガキだゼ、あと一歩だったのにナぁ……」


「バートン……やっぱり私を騙したんだ!!」


「そうだとも、俺は歴とした帝国兵サ。俺の指を噛んだこと、絶対に後悔させてやるゾ!」


 もう私、怒っちゃったからね。戦ってやる。絶対に負けたりしないんだから!

 なんかゼインはバートンを睨みつけながら頭を抱えてるけど。


「プラムちゃんに噛んでもらうとか、どんなご褒美だよぉ……いいなぁお前! いいなぁ――」


「何やってんだバカ野郎、ゼイン!」


「いでェ! あ、兄貴!」


 身悶えるゼインの頭を、どこからともなく現れてぶっ叩いたのは兄貴分のブラッドだ。あいかわらず大きい体だなぁ。


「どうしたんスか!?」


「どうしたんすかじゃねぇよ! お前プラムちゃん心配でハッてたんだろうが! 何かあったら俺を呼べって言ったよな、えぇ!?」


「すんません! 忘れてましたマジすんません!」


「もういいよバカ……プラムちゃん、こいつぁどうやら敵らしいじゃねぇの。俺らも加勢するぞ?」


「ほんと!? ありがとう!」


 ちゃんと思い出した、バートンはローブ男と同じ声と喋り方だ。ローブ男も土魔法の使い手だったし、私が指噛んだし……あんなにしつこくて厄介だった土の魔術師だって、何で気づけなかったんだろ。

 でもそんなこと言っててもしょうがないよね。ブラッドとゼインと一緒に、こいつを倒すんだ!


「まさかその面子で俺を倒す気なのカ……良かろう。帝国兵最強の『土の魔術師』バートン。俺に殺されることを光栄に思えヨ!」



▽  ▽



「手始めに俺が行くっスよ兄貴ぃ!」


 杖を構えるバートンに、ゼインが短剣を揺らしながら勢いよく突撃。バートンは表情も変えずに、


「〈アース・クエイク〉」


「うぉっ……っと! おっと! っと!」


 呪文を唱えて杖を振る。バートンとゼインのいる地面が揺れて震えて、体勢を崩すのはゼインだけ。

 崩したところにちょうど良く、盛り上がる地面がトゲみたいに突き出してゼインを狙う。ゼインはギリギリ避けたけどかすり傷を量産して、でもそのまんまの勢いでバートンの間合いに飛び込む。短剣を力強く振って――


「……クソが!!」


「俺は槍だって持ってんだヨ。帝国兵なら大体持ってるはずだが? 観察力が甘いネ!」


「ぐあぁ!」


 左手に杖があるだけじゃなくって、右手に槍を持ってたバートン。ゼインの短剣も受け止められて、そのうえゼインは返り討ちをくらっちゃってる。

 槍で胸のあたりを横一閃にされたゼインが、地震の届かない範囲、つまり私達の方まで飛んできた。


「いでで……あいつ、けっこう手強いっスよ兄貴」


「よぅ〜し、わかったぜ。どうやらDランクじゃあ足りねぇらしい。引っ込んでなゼイン。ここはBランク冒険者の俺に任しとけや」


「あとAランク魔術師の私も!」


「たぶん魔術師にランクはねぇぞ? プラムちゃん」


 久々に私がボケてみたら、ブラッドがちゃんとツッコんでくれて安心した。ブラッドは背中から大きなナタを取り出す。私も合わせて杖をバートンに向けた。


「さっさとくたばれ、〈ストーン・ストーム〉」


 ナタと杖を向けられたバートンの周りの空中に、尖った石がたくさん現れる。さっき私を狙ったのと同じ形でとっても鋭い。

 そのたくさんの石が、私達の方に順番に飛んでくる。石ころの嵐みたい。


「おぉっとっと。石ごときで俺らを殺せると思ったら、大間違いだぜぇ!」


 私の前に出たブラッドが大ナタの刃で石の雨を弾く、弾く。大きな刃の壁にぶつかった石は、意外と一瞬でボロボロに砕ける。

 問題なのは、飛んできてる最中も新しい石が生み出され続けてるから、下手したら無限に続くのかもってとこ。やっぱり数が多すぎるみたいで、


「……ぐっ、がっ! おぅ、こんチクショゥ!」


 ブラッドも受け切れないくらいに数が増えてきた。石の尖りがブラッドを傷つけていく。刃を壁にしたまま前に進むこともできなさそう。

 どうしよう、私がどうにかしなくちゃ。


「いけっ〈ファイア・バレット〉!」


 炎の弾丸を撃ち出す。それは進行上にある石を壊しながらバートンに向かってく。

 当然みたいにバートンは地面から土の壁を突き出させて防御してきたけど。


「今さら……なんだけどよぉ、プラムちゃん」


「え? どうしたの?」


「わざわざ俺が痛ぇ思いしなくとも、ひょっとしてプラムちゃんもあんなふうに魔法で防げたんじゃ……?」


「あ、ほんとだ。ごめんね!」


 舌を出す私。がっくり、と肩を落とすブラッド。でも私が余計な魔力とか使わずに済むんなら、その方がいいんだよね。

 私の魔法って威力は強いんだけど、私自身の持ってる魔力量がまだ多くないから、あんまり連発するとすーぐスッカラカンになっちゃう。そしたら私が倒れて状況はもっと最悪になる。


 ――これはルークに教えてもらったけど、私は『ゆっくりと粘り強く』戦うんじゃなくて、『バーンと撃ってサッと終わらせる』ように戦わなきゃダメ。

 それが普通の(理想の?)戦い方かもしれないけど、私は普通よりももっともっと早く終わらせなきゃなんだ。


「ふむふむ、ガキだと侮っていたかもナ。その魔法はなかなかに強力であると認めるゾ……ならばさっさと終わらせよう。〈ホーミング・ロック〉!!」


 バートンも私と同じ考えになったみたい。今度は大きな岩を空中に生み出した、岩はブラッドの体躯と同じくらい大きい。

 あれをこっちに飛ばすつもりかな? だったらそんなに脅威じゃなさそうだなぁ、避ければ良いだけだもん。

 思った通り一直線に飛んでくる大岩に、


「ういよっと!」

「んしょ!」


 ブラッドと私が別々の方向に跳んで、難なくかわした――はずだったのに。


「え、えっ!? この岩、私についてくる!? ちょっと待って、速いっ速いって……〈ファイア・シールド〉!」


 まっすぐに飛んでたはずの大岩がぐにゃっと進路を変えて、避けた後の私の方に突っ込んできた。すぐ炎の盾で対抗するけど、


「う〜ぅ…………重いぃ〜……!!」


 ものすごい重量に、作ったばっかの盾がもう壊されそう。何にも抵抗できない……

 でもそこにブラッドが駆けつけて、力づくで岩を引き離してくれた。


「おら離れやがれ、自然物風情(ふぜい)が人間様に逆らうんじゃあ……」


「――破裂しろ」


「ぐぅおぉ!?」

「うわあ!」


 バートンの一言でブラッドの抱きかかえる大岩が大爆発。ブラッドも、油断して盾を解除した私も巻き込まれた。

 目を開くと、すぐそこに血まみれで辛そうなブラッド。私も額から血が出てて、流れたそれが目に入ってきた。


「クソったれ、何だあの爆弾岩は――」


「休んでる暇は与えてやらんゾ? ほらほら〈ホーミング・ロック〉! いつまで耐えられる!?」


「おい嘘だろ!」


 また同じ大きさの岩が今度はブラッドを狙って飛んできてる。たぶん私はガレキで見えないから、見えてるブラッドを狙ったんだ。

 ブラッドは家の壁とか、さっきバートンが地面から出した土のトゲを利用しながら逃げ回るけど、


「……ぅごあッ!」


 最後は追いつかれて激突されて、地面に叩き落とされちゃった。あ、でも大岩はまだ形を保ったまま浮遊してる……


「――さぁ追いかけて、破裂しろ」


「がぁああああ!!」


「ブラッドぉ!」

「兄貴!」


 命令された大岩は真っ逆さまにブラッドの方に落ちてって、着弾と同時に大爆発した。


「ありゃ酷ぇよ……プラムちゃん、あの大岩をどうにか利用すれば勝てそうな気がしない?」


 いつの間にか私のすぐ近くまで這い寄ってきてたゼインが話しかけてくる。私の手を握りながら。


「ちょっと握らないでよ! ……利用って?」


 とりあえず手は振り払うけど、ゼインの思いつきっていつも役立ってる気がする。

 なんか"ジョーイ"と戦った時もそうだったような。あ、懐かしいなこれ。


「あの大岩は特定の相手をしつこく追い回すだろ。それをどうにかして勝利の鍵にできねぇかと思ったんだ」


「そっか……わかった、じゃあこういうのはどうかな? ブラッドが反応してくれれば絶対うまくいくよ!」



▽  ▽



 作戦を練り終わった私は、ガレキの目隠しから脱出。直後バートンに見つかって、


「さぁ終幕といこうカ! 〈ホーミング・ロック〉!!」


 もう勝った気でいるバートン。『終幕』させるのはあなたじゃなくて私達!

 大岩は私を狙ってて、倒れたブラッドはバートンの向こう側にいる、そんな位置関係を利用する作戦! 魔力量的に、私の撃てる魔法はあと二発ってとこ。


「私は飛ぶことにするね、〈ファイア・バレット〉」


 地面に炎の弾丸をぶつけて、その衝撃波を利用して私は宙を舞う。大岩が追い回してくる中、バートンの上を通り過ぎて、


「ブラッド〜! ブラッド、起きて!」


 気を失って仰向けに倒れてるブラッドを、空から起こしにかかる。しかしブラッドはなかなか目覚めない。


「ブラッド、起きてよお願い! 起きてよぉ!」


 もしかして、死んじゃった? そんなの嘘だ……でも全然起きない、これじゃぁ……



「俺は、最強の、Bランク冒険者だぁぁぁ!!!」



 お、起きた! ボロッボロのブラッドが立ち上がったー!


「大ナタで私をバートンの方にぶっ飛ばしてブラッド、私が勝ってみせるから!」


「おうよ、力仕事なら何でも頼りなぁ! うぉぉぉぉらァァァ!!」


 ブラッドが構えるナタの刃に足を乗せる私。ブラッドはナタを超豪快にぶん回して、私はバートンのいる方向に高速で飛んでく。

 大岩はブラッドに当たる直前で停止して、私の方に方向転換。やっぱりゼインの言ってた『大岩のしつこさ』は利用できた!


「あとは……勝つだけ! いくよ最後の魔法〈ファイア・ジャベリン・ラッシュ〉!!」


 私の周りから六本の炎の槍が発射される。バートンは私をにらみながら、


「そんなもんで勝てるかヨ、〈アース・ウォール〉!」


 さっきもやってた土の壁を地面から召喚。私の出した槍が次々それにぶつかり、


「んな、何ぃ!?」


 六本目で土の壁をぶち破る。砕けて消える土の壁、そして私の渾身の一発――


「プラムきーーーっく!!」


 勢いを利用してカッコよく蹴り技の体勢に。でもバートンは呆れたような顔をして体を横に傾け、


「はい、避けた。それが……最後の一発? 認めかけてたのに、興醒めだゼ。やっぱりガキはガキ――」


「ねぇバートン」


 私の蹴りをかわして、そのまま後ろにいる私に振り向いてくる――彼は大事なことを忘れてる。



「前方注意……ねっ☆」



 蹴りをカッコよく決められなかったのは作戦通り。だから私は舌を出して、カワイく決めてみた。


「は? 何を言って…………あ」


 やっと前を向いたバートンの目前には、当然私を追いかけてきた大岩がある。土の壁は私が壊したから、何の心配もいらないってワケ。


「くらえー!」


「んぼへぇああああああぁぁぁ――!!!」


 体全体で自分の魔法を受け止めるバートン。彼がぶつかりたくなくて直前に『破裂して』と願ったのか、大爆発を起こす大岩。

 全身を血だらけ傷だらけにして白目のバートンが、石畳の地面をゴロゴロ転がっていって……止まる。



「か、勝った……私、勝ったよ〜!!」


「よっしゃ〜!! プラムちゃん、兄貴ぃ! 俺達の勝利だ、快勝だあああ!!」



 仰向けに寝ながら拳を握り固めるブラッドを遠目に見ながら、私はゼインの方に走る。で、ぎゅっと抱きついてあげた。


「え?? プラム……ちゃ……」


「ゼインの作戦のおかげで勝てたからさ。こ、これ、ただのお礼だよ!」


「……あぁ」


 目をハートにして鼻血を吹きながら、ゼインがその場にへたり込んじゃった。

 まぁ、もう二度とぎゅっとしないと思うけどね。

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