#156 騎士ジャイロ vs 転移者ヒロ
ジャイロ視点です。彼も一応レギュラーというかメインキャラクターなので…
今オレとヒョロ青髪の前でこっちをにらんできてんのは『転移者』のタカオ・ディザイアとかいう男。後ろには同じく『転移者』のマコトがいて、
「よしサンキューなお前ら! ジャイロ、アーノルドには伝言ちゃんと伝えたか!?」
「おう伝えたぜ。それと新事実判明だマコト。アーノルドの野郎、寝てる間に夢を見たらしい。エクスカリバーがこう語りかけてきたんだと。『お前の信頼できる者の手の中なら我は光る』って」
「マジか、予想以上の好都合だ。じゃあ俺は先に行くからな! このタコ野郎を頼む!」
マコトはタカオの触手をくぐり抜けて先を急いだ。
あいつはどうやらきたるべき魔王との決戦の時にエクスカリバーを使いてぇらしい。ヒョロ青髪ともなんか話してたが、なんなのかまでは知らねぇ。
「はぁ、はぁ、もージャイロ、走るの速すぎ……って、ルークもここにいたの!?」
おっと。少しだけ置いてけぼりにしてた金髪のガキ、プラムが追いついてきた。
ヒョロ青髪はオレをにらんでくる。
「よりにもよってジャイロくんがプラムと行動してたんですか。なのに一人にさせるなんて何を考えてるんです!?」
「いやぁ少しだけだからすぐ追いつくだろうと」
「君って人は……もういいです。タカオさんは僕に任せてください。彼とは因縁の仲ですから、僕が終わらせます」
「ったくマジメくんはこれだから困るぜ。オレとプラムは先行くからな? てめぇ死ぬなよ?」
「死にませんよ――絶対、勝ちますからね」
ヒョロ青髪の目はいつにも増して輝いてる。ああ、こいつにまかせて大丈夫そうだ。これは『燃えてる目つき』に違いねぇ。
プラムはルークと拳を突き合わせてから、走り出すオレについてくる。
長いこと放置されてたタカオはなんか怒ってて、
「おぉ〜〜い! さっきからベチャクチャと適当抜かしやがってぇ〜、この俺様の横を通行できると思ったら大間違い――おうッ!」
「あなたの相手は僕ですよ」
ルークの出した氷塊がタカオの腹に直撃。オレとプラムは難なく走り抜けた。
▽ ▽
「おいプラム。お前普通にオレといるけど、これからどこに向かう気なんだよ?」
「聞くの遅くない? ……実は、真ん中に見えるでっかい要塞にいきたい」
「あ? 魔王がいんだぞ!?」
オレが説得しても、プラムはもう考えを変えねぇ。マコトが目指してるからそれに合わせてんのか? そう聞いてみると、
「それもあるけど……ちょっと魔王に話したいことがあるの。ダメ……かな……?」
魔王と話すなんて頭に思い浮かんだこともねぇ。マコトの影響を受けてるだけあって、やっぱしこのガキは変わってんな。
ここは敵地。どこにいたって安全はねぇし、
「まぁ、マコトの近くから話しかけるだけならいいんじゃね? あいつといりゃ死ぬことはねぇだろ」
「マコトの……? じゃあジャイロはどうするの?」
「オレはオレにできることをやる――魔王軍の幹部どもを、ブチのめしてやんのさ!」
魔王に勝てそうもねぇんなら、それ以外を倒しまくってやる。それがオレにできることだ。
▽ ▽
なるべく要塞を目指して(たぶん幹部も近くにいる)、途中で兵士を倒しつつ走る二人。
だがある時、オレは妙な気配を感じた。前にも感じたような――
「やべっ、伏せろ!」
「うわっ!?」
とっさに飛び込んでプラムを伏せさせる。地面に這いつくばる二人の上を、予想通りなにかが横切る。
オレははっきりと見ていた。キラリ、と輝いたそれは間違いなく刃だった。そよ風の中から刃を振るう野郎なんてあいつしかいねぇ。
「ヒロ・ペイン……オレの宿敵その一だ!」
宿敵その一には肩と首を斬られたんだ、いつかケリつけねぇとって思ってた。つまり、
「待ってたぜ……!」
燃えてきた。闘志を魔力に変換して、親父の剣『不死鳥』に流し込む。炎の不死鳥の完成だ。
「きる、きる……へへ、俺も待ってたんだよ。魔王ツトム様の命により、今度こそお前の右腕と首をぶった斬ってやる。きる、キる、キル、切る、着る、伐る、剪る、斬る、KILLゥゥゥ!!!」
ひさびさに聞いたぜ、そのにくたらしい声……魔王に従ってんのはダセェけど。直後にはもう四方八方から風の音。そして気配。
マコトから聞いたとおり、オレの周りを見えねぇくらいの高速で駆けまわってやがるんだ。
―――
「いいかルーク、ジャイロ……転移者とは俺かお前らくらいしか渡り合えねぇ、しかも相手の転移者が二人以上だったらたぶんお話にならねぇ。何しろ転移者は神様から能力を貰ってる。そりゃズルいよな?」
「ええ、どう考えても反則です」
「だからお前らに敵の能力のことを詳しく説明しとくことにした。向こうがズルすんなら、こっちだってズルしようぜ。騎士だの魔術師だの言ったって、フェアな戦いなんてもうあり得ねぇと思え」
「勝つためならオレはなんだってやるぜ」
「そりゃ良かった。手短に話すぞ、まずヒロ・ペインだが……」
―――
ヒロ・ペインについての攻略法ってのはオレが大敗北したあのときに、マコトがオレの行動を見て気づいたことらしい。びっくりだな。
まぁズリィことしちまったかもしれねぇが、そりゃお互い様ってやつだ。
「斬る!!」
オレの真正面から突然ナイフとヒロが現れる。すでに気配を感じ取ってたオレは、簡単に受け止めてやった。
「チッ、何だその火……!」
ヒロのを受け止める瞬間は、高速で放たれる刃なだけに重い。だがそれだけ。初めの一瞬しか重くねぇ。
オレの一つか二つ年下っぽい『転移者』は、オレの筋力と剣の炎を怖がって、すぐに攻撃を中断して高速移動を再開。風に消えちまった。
「うざい……うざいうざいうざい! お前なんか切ってやる、斬ってやるぅぅぅ!」
そよ風みてぇだったあいつの動きは暴風に変わる。右斜め後ろからの刃を振り向かずに剣で弾く。左側からの下段を狙った攻撃も、その場で跳んでかわす。
オレは……冷静だ。どうしてかわからねぇが、オレは今目の前で起きているこの戦いに全神経を集中させてるらしい。
だがオレと、オレの剣は燃え上がってる。
「プラム一旦離れろ! ウラァァァ!!」
「う、あちぃっ!」
プラムに距離をとらせてから、力いっぱいに燃える剣を振り回す。振り回した後にはドラゴンの尻尾みてぇにしなる炎が残る。それを壁として、攻撃も防御も両方こなす。
相手が高速だからよく見えんけど、たぶん一発かすった。あいつは火が怖いから迂闊に近づけねぇだろ。
「あちち……あれ、気づかなかった。あの時斬れなかった金髪チビもいるじゃん。ああやっぱりそのサイズ、斬るのに……最適だ!」
やべ、相変わらず見えねぇが声は聞こえたぞ。あの野郎め火が怖いからって、オレを差し置いてプラムを狙う気か――
「うォッ!!」
「ひひひ、今油断しただろ」
プラムの方を向いたオレの背後をすかさず狙ってきやがる。なんとか反射神経で防いだが、
「どうしよ……うわあ!」
「きるキルKILL、死ねガキ!!」
少し距離の離れたプラムの方に、オレはすぐには走り出せん。まずいぞプラムが斬られる!
「……んん? 誰だお前」
「私はウェンディ、サンライト王国騎士団の次期団長補佐だ。魔王といいローブの男といい貴様といい、人を傷付けても何とも思わないクズのようだな」
「へっ、そうだよ……女のくせに力あるな」
どっからか現れたウェンディがナイフに剣を合わせ、プラムの窮地を救ってくれた。
ヒロはやっぱり彼女の力とも張り合えねぇのか、すぐ後ろに跳んで風の中へ消えてく。
「お嬢さん、今はどこに向かっているのだ?」
「えっと、要塞の方に行きたい。でも止めないでほしいの女騎士さん!」
「……うむ。では私があの殺人鬼の手の届かない所まで護衛をしよう。それで良いかジャイロ?」
「頼む!」
親指立てて返事した。そして右から突然現れるナイフをまた剣で弾く。
そういえばウェンディはヒロの能力の詳細を知らねぇんだっけか。
「ウェンディ、こいつは高速で動くが筋力はクソザコらしいぞ! 反応さえできりゃあ怖かねぇ相手だ!」
「……なるほど。了解した」
プラムを気にかけながら周囲を警戒するウェンディ。プラムの近くでキラリと何か光ったと思いきや、
「ふっ! そうはさせんぞ」
彼女はしっかりと防御。プラムの首がウェンディによって守られた。
「クソ、クソッ! どいつもこいつも俺の能力を軽々弾きやがって……!」
ヒロはウェンディの力を殺しきれず、さっきと同じように後ろに飛び退く。あいつはどうやら女二人を諦めたらしくオレの方を振り向き、
「全部お前のせいだ! 死ねよ赤髪!」
まっすぐ突っ込んできて腰からナイフをもう一本取り出して、二本のナイフを交差させてオレの剣にぶつけてくる。だがそれでもオレの方が格上みたいで、すぐにヒロは消えた。
プラムを遠くまで送ったウェンディが戻ってくる。あいつも二、三発の斬撃を受け止めつつ、オレの近くまで来た。
二人で背中を合わせ、全方向からの攻撃に対応。右から、後ろから、左、正面、右の下段からの斬撃。跳んで、受け止めて、弾いて冷静に対処していく。
「なぁ、ウェンディ」
「ん?」
四方八方からの攻撃は止まねぇままだけど、オレはあえてこの時にウェンディに話しかけた。
「――オレさ、ずっと『オレ一人で敵に勝たなくちゃならねぇ』って考えてたんだ。だから勝てそうもねぇ戦いから逃げたりしてきた。負けたら、自分がなくなっちまいそうで」
巨大クモの"ジョーイ"のことも、ウェンディは全部知ってる。だからオレは話さなくちゃならねぇ。
「でもさっき、やっとわかった。人間は間違える。生きてりゃ誰だって間違えるんだ。親父だって間違えた。最後まで一人でやるって頑固に行動して、魔王とまともに戦えずにやられちまった……」
「……」
ウェンディは真剣な表情を崩さないまま静かに聞いてる。
「間違える。失敗する。でもその失敗から学ばねぇとなんの意味もねぇ。ウェンディ、オレらはちゃんと協力しよう。正直ヒロはオレ一人で倒したかった。弱点も知ってる。でも一人じゃどうしても難しいんだ」
「……」
「――オレら、よくやり合ってたよな。『決闘』って言い張ってたけど、意地はっちゃってほぼ『ケンカ』だったぜ。いま思えばガキみてぇだ。イガミ合うのはやめにしよう。どっちが強いかなんて関係ねぇ! オレらは対等な仲間なんだ!」
「……フン、変わったなジャイロ。だがその通りだ。これからは私達が中心になってサンライト王国を守るのだ。私は貴様に勝てないが、力を合わせるのだからその事実は必要ない。さぁ、悪を討とう!」
オレとウェンディはおたがいに拳をぶつける。
今んとこ全ての攻撃を弾かれてるヒロはもうイライラが収まらねぇらしく、
「あぁー!! 余裕しゃくしゃくで会話してんじゃねぇよクソNPCども! これでもくらえよ!」
近くの民家の屋根が斬り裂かれ、巨大な破片がオレらの方にずり落ちてくる。しかしオレらは冷静に剣を構えた。
「「はぁッ!!!」」
『不死鳥』と『雷鳴』、二本の名剣が降ってくる破片を豪快に穿つ。
「……てめぇぇらぁぁぁ切る斬る死ね死ね死ねぇ!!!」
怒りの限界点に達したヒロは音も超えそうな速度で、真正面から突撃してくる。終らせよう。オレ達で。
「〈清流〉……!」
一歩前に飛び出したウェンディが、ゆっくり、静かに、そして鋭くヒロのナイフに刃をあてて、勢いを完全に殺す。
全身が可視化したヒロは戸惑う暇もなくオレに捕まる。
「くらえヒロ・ペイン、マコト直伝の攻略法をよぉ!」
「マコト……!? まさか、まさかぁ!? またアレか!? よせ、やめろ、やめてくれ! 痛いのは嫌いなんだって言ってるじゃ――」
渾身の力でヒロを抱きしめ、そのままオレは上体を高速で反らす。
「〈ジャイロ流・すーぱー・すーーーぷれっくす〉!!!」
「うぅああああああ――」
後頭部のあたりを打って、魔王軍の(かりそめの)幹部が撃沈する。オレ達が沈めたんだ。
よくわかんねぇが変な青い鎖がヒロから飛び出して消えてった。
―――
「なぁおい、マコト」
「どうしたジャイロ?」
「転移者どもはどうすんだ? 別世界だかって言ってたよな。そういう過去も無視して……いっそ殺しちまったほうがいいのか?」
「そ、れは――ッ!! ま、まぁあいつらにもあいつらの人生はあろうが……元の世界の関係者が、突然消えた転移者をどう扱ってんのか。その辺は女神様に聞かねぇとだったな……とりあえず今は、お前らの判断に任せるよ。あいつらは殺されても仕方ねぇことをやっちまったんだからな……」
―――
マコトとの会話が脳裏をよぎる。
けっきょくオレはヒロ・ペインを殺さなかった。オレより若いガキが、兵士でもねぇクセにいきがってただけ……に見えたから。まぁ殺しはしなくとも、罪は償ってもらうけどな。
――そんな事情も知らねぇで、
「や……やったぁ! やったぞジャイロ! 私達の勝利だ、私達が勝ったのだ!!」
振り向くと次期団長補佐殿が、見たこともねぇような笑顔でとびはねて喜んでいやがった。




