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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#150 クトゥルフとエルフと……

今回はルーク視点です。話はちゃんと進みます。


 足に巻き付く触手にさんざん引きずり回され、僕はムーンスメル帝国の外の草原に放り投げられてしまった。

 背中から生えている八本の触手をうねらせるタカオさんは、僕をどう殺してやろうかと舌なめずりをしている。


「叩き潰しちゃおっかなぁ〜〜〜、ねじくり回して引きちぎっちゃおっかなぁ〜〜〜!! あぁ〜〜グロテスクに殺せればなんでも良いかぁ〜〜〜!」


 僕との勝負がどうとかそういう事を抜きにして、とどめの刺し方のみ気にしているらしいタカオさん。彼は僕に圧勝した経緯があるからおかしくは無いかもしれない。

 ――でも、流石に少し腹が立った。


「あなたに敗北を喫してから、僕が何もせずのうのうと生活してきたとでもお思いですか?」


「あぁ〜〜ん? 生意気さは変わってねぇらしいなぁ〜、さぁ殺戮ショーの始まりだぁ〜〜〜!!」


 八本の触手が、八方向から同時に迫ってくる。僕は律儀に八個の氷塊を作り出して発射。


「なにぃっ!? 全部弾いたぁ〜〜!?」


 八つ全てを正確に命中させた。その衝撃に怯むタカオさんの背中に地面からの氷の棘が迫る。


「ぎゃあああ〜〜!!」


 串刺し状態になるタカオさん。突然の事に驚いているだろう彼と早々に決着をつけるため、僕は最後の攻撃を仕掛ける。


「〈ヘイル……わっ!」


「こな、クソぉぉぉ〜〜〜!!」


 しかし魔力を凝縮している最中にタカオさんが悪あがきをして、触手が乱暴に振り回されて僕の顔を掠める。

 とにかく何本かの触手が暴れて、僕は避ける為かなり後退させられてしまった。その間に彼は他の触手で氷の棘をへし折っていた。


「ふざけやがってぇ〜! 殺す、殺す殺――」


「〈タイダル・ウェイブ〉」


「どあぁぁあ〜〜!?」


 僕の反応速度を超える速さで触手を伸ばしてくるタカオさん。僕はほぼ反射で大量の水を打ち出す。

 その激流は、迫る触手ごとタカオさんをかなりの距離押し流してくれた。良かった、やっと離れられた。


「ん〜〜〜……いっでぇ〜!!」


 びしょ濡れのタカオさんは自身に刺さったままの氷の棘を無理やり引っこ抜く。でも出血多量になる程の血を流さない。

 マコトさんの言っていた〈くとぅるふ?〉の能力の仕業とでもいうのだろうか。


 少し落ち着いた戦況の中――その時は訪れた。



「ガへッ……ガ、ガウッ……」

「がんばれバスター……ん? お姉ちゃん、あそこでなんか戦ってない?」

「いいのよ! 私達の目的はマコトやジャイロやエバーグリーンさんなんだから、無視よ無視!」



 こちらへ向かってくる影が。

 まず目につくのは灰色の体毛をした狼。首に付けた鉄の輪っかから短く鎖が垂れている。人が二人乗れているところから見てもかなり大きな個体だとわかる……でも走り慣れていなさそうで、どこか不憫です。

 上に乗っている二人は前が女の子で後ろがお姉さんという感じ。どちらも髪色が緑で、顔も似ているから姉妹だろうか。よく見ると耳が長いというか尖っているというか。まさか、噂に聞くエルフ?

 というか今「マコト」って――


「マコトぉ〜!? エバーグリーン〜〜!? ツトム様の命によりみ・な・ご・ろ・し♪ 皆殺しぃ〜〜〜!!」


「きゃああ!」

「お姉ちゃん!?」


 今度は彼女らを狙って伸びていく触手。前の女の子は躱したけど、後ろのお姉さんは避けきれずに狼からはたき落とされ、直後に触手に捕まる。

 妹さんと狼が彼女を救う為に急停止したが、


「安心しろよぉお前らも後で殺してやるからさぁ〜〜〜!」


「あうっ!」

「キャンッ!」


 触手に弾き飛ばされてしまう。狼はその辺に転がっただけだったのに、妹さんは僕の方まで飛んでくる。その子の軽い体を僕は両手で受け止めた。


「いた、かったぁ……あ! た、助けてくれてありがとう……あと、お姉ちゃんを助けて!」


「マコトさんの知り合いなんでしょう? ならば尚更、できる限りの事はやってみます」


「え、マコトおじさんを知って……?」


 お姉ちゃん思いのエルフの女の子に頷いた僕は、魔力を上手く練って『水の弓矢』を創作。

 ――本来、魔法で武器(らしき物)を作るのはとても難しい。でも強力な適性と器用さを持ち合わせていれば、努力で習得可能な技だ。


「ん、やだっ、離してよ変態!」


「うわぁお〜! どう見てもエルフじゃん、エルフ属性持っちゃってるじゃんよ〜〜! かっわいいなぁ〜名前教え――」


「〈ウォーター・アロー〉」


 エルフの女性を軽く触手で弄びながら「この世界サイコー」なんて叫んでいるタカオさんを狙い、風の魔法を加えて高速にした水の矢を放つ。

 矢に気づいた彼は五本くらいの触手を盾のように配置――しかし矢はいとも簡単にそれらを突き破り、


「うぐぉッ」


 タカオさんの胸……心臓の位置に深く刺さる。それでも、


「あぁ、あがぁ〜〜〜っ!! がはっ、痛ぇ……つ、捕まえてみろやぁノロマどもがよぉぉ〜〜!」


 それでもまだ倒れないタカオさんは、触手を使って蜘蛛のように地面を這い、マコトさんが空けた穴から帝国内へ。

 ――お姉さんエルフを捕まえたまま。


「いやぁ、ヌルヌルするっ! 私どうしていつもこんな目に遭うのよ! ルール助けて〜!」


「お姉ちゃーん! もう、お姉ちゃんのドジ!」


 涙目のお姉さんと、どこか呆れる妹さん。二人で叫び合うけどやっぱりすぐにはお姉さんに追い付けない。追跡を続ける妹さんは続いて走る僕の方に振り返り、


「……ねぇ、人間のお兄さん。私達エルフなのにどうして助けてくれたの? それにマコトおじさんを知ってるの?」


「助ける助けないの問題に、人間かエルフかは関係ないと思っているからですかね。僕はマコトさんの仲間でサンライト王国魔術師団の団員、ルークと言います。ここにはエバーグリーン氏を助けにきました」


「そ、そうなんだ……実は私達もマコトおじさんの知り合いで、お手伝いにきたんだ。私はルールでこの子はバスター。さっきのドジはお姉ちゃんのリール」

「ガウッ!」


「ならば協力しませんか? まずはリールさんを救出、その後にマコトさん達と合流してエバーグリーン・ホフマン氏を救出、あわよくばそのまま魔王軍を壊滅、なーんて筋書きですが」


「……う〜ん、その方が良いか……じゃあ協力する」


 どんな種族でも、やはり魔王は脅威。

 拳を突き出す僕にルールちゃんは控えめに拳を合わせる。こうして人間とエルフの同盟が一旦成立したのだった。



▽  ▽



 リールちゃんと僕は狼のバスターくんに乗せてもらって帝国の街を駆け回る。

 途中途中で弓矢を構えた帝国兵が建物の屋上から狙ってきていたりもしたけど、前に座るルールちゃんのパチンコ狙撃の精度が素晴らしく、兵士達は手も足も出なかった。


「さっきから何発も撃っていますがそのパチンコの弾は光属性の魔法ですよね、ルールちゃんの保持魔力量どうなってるんですか? 僕にも分けてほしいなぁ」


「あげないもん! ……ま、まぁ? 私の魔力量はお姉ちゃんよりも多いんだけどね? でも別にすごくないし?」


 頬を赤く染めておいて、何だか素直じゃない感じのルールちゃん。お姉さんにも勝ってるだなんて本当にすごいじゃないか。


「ガウッ!」


 その時、バスターくんが吠えた。

 彼の首が向いている方向に僕も目をやる。そこには民家の壁を蜘蛛のように這うタカオさんの姿があった。


「げぇ〜〜っ! お前ら俺様のこと追ってきやがったのかよストーカーなのかなぁ〜〜〜!?」


「おじさんを追ったんじゃなくて、捕まったお姉ちゃんを助けに来たの!」

「ガルッ……ゼェ、ゼェ……!」


 エルフと狼に追われている転移者――よく見ると滅茶苦茶だ。この状況が不思議だと思わなくなり始めた僕は確実に『末期』です。

 マコトさんと出会わなかったなら、こんな光景を見る機会が与えられただろうか。いや、無い。


「ともかくリールさんを離してください!」


 叫んだ僕はタカオさんに向けて強風の魔法を打ち込む。暴力的なまでの風圧が彼に衝撃を与え、触手からリールさんを引き離したものの、


「わぁああ!!」


「お姉ちゃーん!?」


 風はリールさんまでをも吹き飛ばして、彼女の姿が民家のずっと向こうへ消えていく。



「あぁっ! すみませんリールさん! 僕としたことが匙加減を間違えました!」


「匙加減とか言ってる場合じゃなぁぁ――――」



 遠くまで飛び過ぎてリールさんの声まで消えていく。さすがに帝国の外壁を飛び越えるほど高度は高くない、けれども、これではすぐに会えないかもしれない。やってしまった。


「あぁ〜〜っ! 俺様の大事な大事なエルフちゃんがぁ〜! ――青髪のクソガキ、後で覚えてろよぉ〜〜〜っ!?」


 強風の仕返しなのか僕に文句を叫んでくるタカオさんは、リールさんが飛んでった方と逆方向に逃げ出す。追わなければ。


「僕はこっちへ! ルールちゃんはお姉さんを助けてあげてください!」


「そうする! ル、ルークお兄さんもがんばってね!」

「ガヘッ、ガル……ゼェ……ゼェ……!」


 一人と一匹がリールさん救出の為、僕は決着を付ける為に二手に分かれる。



▽  ▽



 ――タカオさんを追って僕は路地へ入る。もうそこに彼の姿は無い。でも一人の若い女性がぽつんと立っていて……あまり綺麗とは言えない服装だけど僕は躊躇わず質問をする事にした。


「どうも、こんにちは。触手を背中から生やした男性がここを通りませんでしたか?」


「……そんな人、知らない。あなたは私に興味がないの?」


「え? いえ、そういう訳ではありません。赤の他人に根掘り葉掘り事情を聞かれても嬉しいものではないかと思いまして」


「……ひどい」


 失言してしまったか? 服装に見合わずやたらと綺麗な長い黒髪を揺らす女性は、顔を覆って泣き始めてしまった。

 これがムーンスメル帝国にはわんさか存在するという『奴隷』なのだろうか。


「ねぇ、こっち来てよ。とっても冷静沈着で優しい、草食系イケメンさんなんだね……」


「……? 何ですか、その言葉は?」


「いいからぁ。はやく、こっち来てよぉ」


 大きな胸を強調しながら懇願してくる女性。大人びているけど、よく見ると僕より若い……?

 サンライト王国とムーンスメル帝国で言語が違うだなんて聞いた事がない。何かの聞き間違いかな、と思って彼女に近づいてみる。

 ――突然、彼女が僕の足にすり寄ってきた。


「えっ! な、何を!?」


 僕の問い掛けを無視して、彼女の頬が今度は僕の股間へと移り始める。

 ――動揺してしまった僕は彼女の思惑に気づけなかった。


「何をしているんですか、こんな事してもあなたが不幸になるだけですよ! 悩みがあるなら僕が相談に乗って――」


 彼女が保護されるべき奴隷だと確信した。

 ――それが、それこそが、僕の人生において最大の過ちだった。



「……ばーか」


「……うッ!?」



 知らぬ間に僕の背後に回っていた彼女の手。それが何かで僕の両手を縛るやいなや、突然、体に力が入らなくなってきてその場に倒れる。

 

「あはは、知ってる? この国の近くにはエルフの村があって、そこには麻痺性の毒を持つ植物が生えてるんだって。それをさらにバートンが調合して強化した物が、あなたを縛ってる()()


「体が、動かないし……それに、魔法が使えな……」


「強化版の毒は即効性あるし、なんか魔力も奪い取るらしいよ?」


「……あなたは……一体……?」


 普通に立ち上がり、僕を見下して嘲笑する彼女からは、奴隷っぽさが完全に消えている。

 薄れていく意識の中、彼女は笑いを絶やさなかった。


「マコト・エイロネイアーは奴隷をばんばん解放しちゃってるらしいよ。なのにおにーさんは全然ダメだね。でも全然ダメな君のおかげで、私がツトムくんに褒めてもらえるからぁ……うれしみの極み!」


 魔王の仲間にまんまと騙された。マコトさん、すみません……


 そのうち、僕は意識を手放すのだった。






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