#148 帝国へ突入
「……この『くるま?』って武器なんですか? 武器を生み出せる能力だと思っていましたけど、これどう考えても移動用ですよね」
「ああ。俺もこういうの気になってさっき女神様に聞いてみたんだが、能力者が頭ん中で『武器だろ』と思った物は『武器』なんだそうだ」
「マコトさんの思考回路って……」
俺が運転してるのは四輪駆動の自動車だ。助手席に座るルークが質問を飛ばしてくるが、俺としてもついさっき解決したばかりの疑問だ。解決したって表現していいのか謎だが。
バイクとか出せたこともあったが、アレで確かスケルトンとかを轢き殺したりもしたっけ。だからまぁ武器でもいいんじゃね?
「それにしても、こんな鉄の塊みたいな物体がたくさん走っている世界なんて……少し恐怖を感じます」
「鉄の塊て。それがな、これが当たり前に走ってるから逆に怖くねぇんだ。ま、だからこそ歩行者が『歩行者信号が青だから車は来ない!』みたいな考えを持ってたりして、悲惨な事故が起こるんだが」
「すみません。何言ってるのか全然わからない僕を許してください。あ、あそこに脳筋くんと……プラム!?」
屈強そうな門番がいる正面の門をとりあえず避け、エバーグリーンがどこからか入ったはずだから何かあるかもと他の出入口を探していると、白い壁を背景にしてジャイロとプラムが立っていた。
ジャイロが腕を振り回して暴れてるような。「何やってんだ」と大声を掛けつつ車で二人に近づく。ジャイロが気づき、
「ハァ……ハァ……ここ、ここの壁に穴があったみてぇなんだ! だが土の壁で塞がれててよ! 他の部分より脆いかなと思って殴ってたら、やっぱりヒビが入ってきて……」
よく見ると確かにそこだけ壁が茶色くてヒビ割れてる、エバーグリーンが開けた穴をどうにか塞いだのかね。ジャイロのヤツ、よくそこまで壊せたな。
「よしわかった! 後は俺に任せろ、ジャイロもプラムも離れろ!」
「あ!?」
「ちょ、マコト何する気!?」
車の速度を最高まで上げ、ハンドルもアクセルも放置して窓から車の上に登る。高速の中ロケットランチャーを生み出し、
「文明の利器!!」
一発しかないロケット弾を土の壁に命中させた。大爆発の土埃で壁がちゃんと壊れたか見えねぇんだが、もう車は止められん!
壁が崩れてると信じ、上の俺と助手席のルークごと車は帝国へ突撃していった。
「「すげぇ強行手段!」」
しっかり崩れてた土壁の上を走行する中、プラムとジャイロの重なった声が後ろから聞こえた。
▽▼▼▽
実質、ムーンスメル帝国の外壁をぶち破ることに成功した。
――さっきから普通に会話してたりだとか、俺はふざけてるように見えるかもしれない。だが大真面目だ、エバーグリーンが今どんな状況に置かれてるかもわからねぇんだから。いつもより焦り、怖がっている。ただその態度を若者達に見せねぇため、おちゃらけたフリをしているだけだ。
急いでるから目の前に広がる、待ち構えていた大量の帝国兵達にも気遣ってる暇がねぇ。
「貴様らが、マコト・エイロネイアーとその一味だな。バートンの土魔法を破るとはなかなか――うああああ!?」
「手厚い歓迎ご苦労さん! 邪魔だ!!」
車でそのまんま軍勢に突っ込む。もう死者が出たって構ってられねぇ、お前らが邪魔するからやるしかねぇんだ。
……あれ? まっすぐ突っ込んだが、兵士達がほとんど避けちまいやがって全然効果なしだった。
しかも、
「いかん! 壁がぁああ――ぁ!?」
ボロい民家に車が衝突して突き刺さっちまった。俺は案の定、顔面を強打。ヨロヨロと助手席から出てきたルークも額から血が流れてる。エアバッグねぇのかこの車。
「マコトさん……なんて無茶を……」
静かに注意された俺は「すまん」としか言えない。そんな俺達に怒り狂った帝国兵達が近づいてくる。
「何だその兵器は!? 見たこともない」
「この野郎、お手軽に俺らを殺そうとしやがって」
「魔王兼帝王の命により、ぶっ殺す!!」
ツトムから命令があったらしく、兵士が剣や槍を抜いたりして襲いかかってくる。幸いなのはヤツらの装備が軽装ってことだ。
「あなた達に用はありません。どいてください!」
ルークが無造作に作り出す氷の塊や氷のトゲが、帝国兵一人一人を次々と鋭く狙う。頭にぶつけたり胸に刺したり、一人に一発で済むように効率的な戦い方。
死んだ兵士も中にはいるだろう。でもそれが『戦うこと』なんだろう。俺にはまだ受け入れにくいけど、こんなのルークはとっくのとうに慣れてるはず。
「マコトさん、優しさは邪魔になるだけです! わかっていますよね!?」
「……ああ、わかってらぁ。やってやる!」
走り出した俺は『何か、武器を』と願う。出てきたのはまたしてもフライパンだった。
「おらぁ! うらぁ!」
だがフライパンで十分だ。剣を弾き、槍の軌道をねじ曲げて、固い漆黒の表面を兵士どもの脳天にぶち込んでいく。横顔に叩きつけ、顎へと振り上げ、くらった兵士はいっそ清々しいくらい吹き飛んでいってくれる。
しばらく使うとフライパンが壊れ、何が欲しいかなんて願う暇が無くてランダムガチャ――釘バットが俺の手に現れる。
釘なだけに、フライパンよりも殺傷能力が高いちゃんとした武器……それでも。
「うおおお、邪魔だぁぁ!!」
俺に飛びかかってくる無数の兵士をなぎ払うようにバットを振るう。超人的なパワーも相まって兵士達の四肢がもげ、内蔵が飛び出し、頭が弾けて、血を吐き、その度に返り血が俺の顔に降り注ぐ。
「俺の腕が!!」
「痛ぇよぉ! 助けてぇ!」
――兵士のクセして、みっともねぇことばっか叫んでんじゃねぇよお前ら。罪悪感に押し潰されそうになる。
それでもなお、腕に力を入れて釘バットを横に、縦に、斜めに、振り続ける。
どっかからジャイロの声が聞こえる。
「どけ、オラァ! 親父――エバーグリーン・ホフマンはどこだ! クソどもがぁ!」
壁から入ってきて、俺達の方に近づきながら兵士をなぎ倒してるらしい。プラムも一緒にいると思う。
――そうだ。俺がここまで人を殺せるのは、やっぱりエバーグリーンの命がかかってるから。俺を信じてる仲間が近くにいるから。そして、どうしてもツトムを止めないといけないからだ。
「親父の居場所を――」
「近寄んじゃねぇ――」
兵士達の肉を断ち、骨を砕く中、ジャイロと俺の怒号が至近距離で重なり、
「「うおぉッ……あぁ!?」」
燃える大剣と血まみれの釘バットが正面衝突するハプニング。バットが粉々になっちまったけど、無事にジャイロとプラム、俺とルークが全員合流できた。
まだまだ帝国兵には囲まれてる状況だが、
「俺らが四人揃ったら強ぇぞ!? こっから本番だ!」
▽▼▼▽
さっき俺が吐いたのは出任せに過ぎなかったんだが、どうやら本当だったらしい。四人揃ってからは嘘みてぇにパパっと兵士が片付いた。
ジャイロは離れた場所で、意識がある兵士の胸ぐらを掴んでエバーグリーンの所在を聞いている。ルークはジャイロの方へ歩いていき、一方の俺とプラムは……血の海の中にただ立っていた。
「私、今日初めて人を――」
「それ以上言うな、辛くなるだけだから……どうしてお前はここにいるんだ?」
「ジャイロに連れてきてもらった。でもジャイロは悪くない! 私がしつこくお願いしたからなの。だから今のことは……後悔してないよ」
「そうか」
この子にはもう言えないが、俺だって人を殺したのは当然初めてだ。心の準備なんてする余裕無かったし、きっと、どれだけ準備したって心は整わなかったことだろう。
ここに転がってる兵士それぞれに家庭があるだの、友人があるだの、夢があるだの……それを考えると気が滅入る。
「――答えろ! エバーグリーン・ホフマンはどこだ!」
「あぁ、あのじいさんね……へ、へへ……」
「何がおかしいんだ、この野郎!」
ジャイロは時々その兵士を殴りつけながら尋問中。ルークは近くでそれを見ている……が……?
「おいルーク! 下に気をつけろ!」
「え……のわっ!」
俺が見つけたのはルークの足元に這い寄るタコの足みてぇなもの。しかし一歩遅くて、足を絡め取られたルークはスッ転ぶ。
「あ〜〜〜!! 見〜つけた〜!! ひっさしぶりじゃねぇのぉ〜おいおい、俺様のこと覚えてるかよ!? マコトに青髪くぅ〜〜ん!!」
「あなたは……」
「タカオ・ディザイアだよ〜〜〜ん!! 魔王ツトム様の命により、お前ら皆殺しちゃんだよぉぉぉ〜〜〜んだ!!」
うわ、マジかよタカオじゃねぇか。なぜか壁外(さっきぶち破った穴)から登場してきて、しかも『ツトム様』だと!? あいつは他人に従えるのかよ。
「正々堂々、門から来るのかと思って待ってたのに誰も来ないからさぁ〜〜! 門を出てぐる〜〜りと回ってみてたらこのザマよぉ〜! よくも兵士こんなにやっちまってくれたよなぁ〜〜〜!?」
「……マコトさん、プラム、脳筋くん! 先に行っていてください、必ず追いかけますから!」
壁で見えなくなったタカオの触手に引きずられて、ルークも壁の向こうへ消える。
助けには行きてぇが、ルークの指示は正直言って正しい。何よりも早くエバーグリーンを助けに行かなきゃならんからだ。
「ルーク! ……クソ、信じてるからな!!」
そう叫び、そして不安がるプラムの手を握ってジャイロの方へ駆け寄る。ちょうど、兵士から答えが出るタイミングだった。
「げふっ……エバーグリーン・ホフマンなら……あんたらを、待ち侘びてるだろうよ……処刑台の上でな」
毎日投稿は無理なので、頻度の方は…気長に待ってください。




