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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#144 頑固親父のエゴ

「急いでんだ馬貸せコラァ!」


「うわああ! ジャイロさん何するんですか!」


 ウェンディから騎士団はもう馬を切らしてるって話を聞き、魔術師団の領地へ向かい始めた俺達。

 しかしジャイロは我慢できなかったらしく、道中で後輩の騎士から馬をぶん取っていやがる。親父が心配なのはわかるが強引すぎねぇか。


「この馬でオレが魔術師団とこまで行って馬をもう一頭連れてくる! この方が手っ取り早――」


「ルーク様ぁ!」


「あ? 誰だっけあの女」


 奥から走ってくる人影。ブロンドの髪にメイド服……ミーナじゃねぇか。急いでいるらしい……あれ、馬を連れてる!?


「ミーナさん! もしかして僕らのために馬を?」


「は、はい。魔術師団所有の馬をこっそり連れてきちゃいました……きっとルーク様やマコト様に必要なものだと思って」


 乗れねぇらしく手綱を引っ張って自分で走ってきたミーナはちょっと息が荒い。だが一頭でも二人乗りできるだろうし完璧じゃねぇか。

 ジャイロも同感らしく笑っていて、


「でかしたぞ使用人女! 手間がはぶけたぜ」


「うわあ、恐縮ですジャイロ様! ――その、お父様がご無事であられることを切に願っております」


「ありがとよ……オレも願ってる。マコト、ヒョロ青髪、先に門まで行っとくからな」


 頷く俺とルークに頷き返し、ジャイロは馬を走らせる。見届けたルークはミーナに向き直り、


「助かりましたミーナさん。本当にありがとうございます。このことは僕も黙っておきますから、あなたも団長にだけは知られないように気をつけてください」


「お役に立てたのなら何よりです。ルーク様こそ、お気をつけて。相手は魔王なんですから!」


「ええ、きっと、魔王やその仲間と戦うことになるでしょう。でも大丈夫。僕は必ず生きて帰ります……その後、死刑になってもね」


「んもう、変な冗談よしてくださいよ!」


 微笑み合いながら、ぎゅっとハグする男女。身長差でミーナの顔がルークの胸に埋まってる感じだ。

 こいつらめ、いつの間にこんなに距離縮めたんだよ。俺にとっても微笑ましいが。

 それとミーナには言えねぇけど――死刑は半ば冗談じゃねぇぞ。


「まぁいいか。それじゃあなミーナ、俺達急ぐからお前も診療所だかにさっさと避難しとけよ。馬のことは助かったぜ」


「かしこまりましたマコト様。皆さんご武運を!」


 ルークに手綱を渡して、こっちに手を振りつつ小走りに駆けてくミーナ。本当に助かった。俺のダチには有能が多くて困る。

 颯爽と馬に飛び乗るルーク。その後ろに何とかよじ登る俺。ルークが手綱を操ると馬が嘶き、ジャイロの待つ門まで一直線に駆け出した。



▽▼▼▽



「お、てめぇら早かったじゃん。んじゃムーンスメル帝国に向けて出発しようか」


 早々にジャイロと合流し、二頭の馬と二人の若者と一人のクソジジイ俺で帝国へ向かうことに。

 門番二人が倒れてる件については、ジャイロが手刀で気絶させたからだそうだ。「軽めにしたからすぐ起きんだろ」って手刀やった本人が言ってんだから心配無いだろう。

 さ、出発――



「待ちなさい」



 こりゃ思わぬサプライズ。

 振り向けば、後ろから声を掛けてきたのは王様とも交流を持つ魔術師団団長マゼンタ・スウィーティ。つまり『今一番見つかっちゃいけないヤツ大賞』でぶっちぎりのナンバーワンな女。


「ついさっき言ったはずよルーク。『行けば、国王様に殺される』と。私はあなたが心配なのよ? もちろんジャイロ君とマコトさんもね」


「わかってます団長、それでも僕はエバーグリーン氏やサンライト王国を守りたいんです! 愛するものを守って死ねるなら本望ですよ!」


「……若いのに綺麗事を言って!! 命を懸けるのはエバーグリーンさんや私だけで充分なのよ!」


 それはマゼンタらしからぬ、よく響く怒号。そのセリフにどれだけの想いが詰まってんだか知らねぇが、俺には一つ言いたいことがあった。


「マゼンタ。お前も帝国に行くつもりなんだろ? 王様に許可も取ってんだろ? だったらよ、エバーグリーンと一緒に()()()()()()()んじゃねぇか!? 十年前と今とじゃ、多少なりともあいつの体力は違うだろうが!!」


「何も知らないあなた達に、とやかく言われる筋合いは無いわ!!」


 またしても声を荒げるマゼンタ。深呼吸した彼女は、どうやら事情を説明してくれるらしい。


「何故行かなかったか……エバーグリーンさんと約束をしたからよ、『一時間後』と。私だって一緒に行きたかったわ。でも彼は拒んだ。彼は、欠片も助けを求めていなかったの」


「……マジかよ、あの頑固親父!!」


「ジャイロ君の気持ちは痛いくらいわかるわ。でもお父さんを責めないであげて」


「……何でだよ! もう、訳がわかんねぇよ!」


 冷静に語り出すマゼンタと対象に、今度はジャイロが震えた声で怒鳴る。彼女はそれをなだめるように話を続ける。



「最後まで強がっていたけれど、お父さんはきっとわかっていたのよ。()()()()()()()()と。だからこれは彼にとっては魔王との戦いではなく、自分の恐怖心との戦いだったのよ」


「……!」


「……お父さんは何か、言っていなかった? 魔王との戦いは数時間で終わるはずなのに、まるで()()()()()()()かのようなこと……」


「……い、言ってた……『しばらく帰らないかもしれない』って……『留守を任せる』って……しかも、泣きながら……クソ。そういうことだったのかよ……オレ馬鹿だから、気づかなくて……ウゥッ……」



 エバーグリーンのことだから、わざとわからないように言ったんだろう。なのに泣いちまってたってところにあいつの『普通さ』が垣間見えるんだけどな。

 一度頷いたマゼンタは、


「それはつまり――あなたに騎士団の団長を、サンライト王国の平和を任せたって意味でしょうね」


 そう解釈して、泣いているジャイロに伝えた。

 俺もやっちまった、マゼンタがただの冷たいヤツだと思っちまったんだ。


「悪いことを言った、誤解してたよ。すまない。もう一時間半くらいになると思うが……あれ? 一時間過ぎてるけどお前どうすんだ」


「……私も、ひと息ついたら行くわ。十年前、一時間では少し早かった。彼の気持ちを尊重したいけれど……もしも既にエバーグリーンさんが殺されてしまっていたら、耐えられない」


「わかった。だが許せよマゼンタ、『死刑なんてクソくらえ』トリオの俺達はもう行くからな。エバーグリーンが死んでなけりゃ、俺達にはあいつと共にこの国を救う義務がある。想像したくないが死んでたとしても、俺達には仇討ちする義務、遺体を埋葬する義務がある。なによりも――」


 話に一つ区切りをつけて、俺は言う。



「俺と魔王にも因縁がある、たくさんある。ケジメをつけにゃあならん。俺にはこの国……いや、この世界を……守るって()()がある」



 俺と同じく、日本で生まれたツトム。

 そいつが女神様の好意を踏みにじり、不正にガチャを引き、女神様を好き勝手に操り、皇帝を殺して帝国を乗っ取り、魔王を殺して成り代わり、ドラゴンを利用してサンライト王国を潰そうとし、レオンに重傷を負わせ、ヒロとタカオを解放し、俺を騙したり殺そうとしたり日本に返そうとして、今。エバーグリーンをどうにかしちまって、サンライト王国に再び危機をもたらそうとしてる。そして世界を滅ぼそうとしてる。


 たくさんの人を不安にさせ悲しませている。もう、許さねぇ。


 あいつを倒し、この地獄を終わらせる。

 この世界のヤツらに散々世話になった俺にできる恩返しは、たぶんそれだけだから。

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