#140 【魔王ツトムの過去⑬】優越感の頂点
ツトムの過去編、最終回です。
記憶喪失のフリをした僕はマコトを騙し、情報を絞り出すことに成功。最終的には奴に勘づかれ、魔王であることを教えてやった。
奴は『武器ガチャ』を持っていた。だから僕の駒にしてやろうかと思ったが、それはとある厄介な男に阻まれた。
エバーグリーン・ホフマン……中々の強さだ。先代魔王を倒しただけのことはある。今回のは小手調べだ、次会った時はこうはいかない。
地面に叩き落とされた僕は、巻き上がった土埃を利用して外へ飛び出し、闇の翼で高く高く上昇した。翼があると不便が無いな。
「お、やったか!?」
それはフラグというものじゃないか、マコト・エイロネイアー。どうせそんなもの関係なく僕は死なないが。
とにかく王国内の地下牢に二人の転移者――話が通じないってところからして恐らくヒロとタカオがいるらしい。
サンライト王国の上空までは来れたものの、地下牢の場所なんてわかるはずもない。
そうだ、良いことを考えた。
「……え、鳥? ってうわあああ!? 何すんだてめぇ!?」
「騒ぐな。耳障りだ」
路地裏でふらふら歩いていた一人のチンピラを、空高くまで連れ去った。高度としては落ちたら即死って高さだ。
「ひぃ! やだやだやだ、離さないでくれぇ!」
「だったら質問に答えろ。地下牢とはどこにある? 下には降りない、ここから指で示せ」
「わかりました、わかりました! 揺らさないで!」
けっきょく、チンピラのうろ覚えの記憶によって何とか地下牢への扉の真上まで到達。さて、この用済みのチンピラをどうしたものか。
「お前の情報提供には感謝しているが――出てこいガーゴイルども。このゴミ野郎を骨まで全部食って始末しろ、血の一滴もこぼすんじゃないぞ」
「グエ、グエェ!」
「ギェェ!」
ガーゴイルとはもちろん魔物のこと、空を飛べるから便利な奴らだ。ガーゴイルを六体生み出して、空中でチンピラをそいつらに投げ渡す。
「何だこいつら……嘘だろ。やめろ、うわぁやめろ! ぎああああああああッ、俺の足がぁぁ!!」
手足をもがれ、喰い散らかされていく憐れなチンピラ。僕の命令通り零れた血は全てガーゴイルが口で受け止めている。高いから声も下には届かない。残念な末路だな。お気の毒に。
僕は地上に降り立った。地面に取り付けられた木製の扉には当然ロックがかかっている。すぐそこには向こうを向いた見張りがいるから破壊することはできない。ならば、
「武器だと思う物は何でも出せる……じゃあこれとかも刺したり投げたりすれば武器じゃないか?」
呟きながら『武器ガチャ』で生み出したのはキーピック。使い方もわかる。これくらいの扉の解錠、一分と掛からなかった。
音を立てないよう扉を開け少し階段を下り、薄暗くてカビだらけの地下へ侵入――手前から二番目の檻に、
「やあ、ヒロ・ペイン。あの時はよくも僕を無視したな」
「……は? 誰だよお前……え!?」
生意気な転移者がいて、その檻の鍵もキーピックで開いてしまった。この道具は異世界では便利過ぎただろうか。
「に、逃がしてくれるのか……!?」
「実質はそうなる。ここに忘れ物は無いか?」
「あっ、そうだ! 俺の《切り裂くナイフ》が二本とも没収されてる! それ以外は問題無し――」
「情報提供、感謝する。また後で」
「うぐッ!?」
闇の球が高速でヒロの腹に直撃。壁まで吹き飛ばされたヒロはあっさりと気絶してしまった。快感だ。
あとはタカオを残すのみ。汚らしい檻を一つ一つ確認していくと……氷漬けの男が。
「この見た目……タカオじゃないか。これも魔法によるものだろうが、なんて無様な姿だ」
素早く檻の解錠を終え、闇を纏わせた拳で分厚い氷を叩き割ってやった。だがタカオは気絶したまま。
ついでに二本の大きなナイフも見つけて拾った僕は二人を脇に抱え、こっそりと最初の扉から出て空へと逃げていった。
その直後、
「ぬぇぇいッ!!」
もう鍵の開いている扉をエバーグリーン・ホフマンが破壊し、マコトとともに中へ突撃していった。惜しかったな間抜け共め。
▽ ▽
大広間の中央、縄で縛られた二人の転移者が目覚める。
「あ……? 何だここ……俺は助かったのか……?」
「うぅ〜……どうなってんだぁ〜??」
二人を玉座から見下ろす僕も立ち上がり、一歩、前へ足を進めた。両手を広げて口を開く。
「ムーンスメル帝国へようこそ、ヒロ・ペインにタカオ・ディザイア。お前達二人を転移させたのは女神なんかじゃない。この僕ツトム・エンプティだ。お前達のどうしようもない人生を変え、今回は牢獄からも救ってやった――魔王である僕を崇めるがいい」
「崇めろだぁ〜? お前みてぇなガキ、誰が崇めるんだよぉ〜! お前さぁ、頭おかしいんじゃねぇ〜のぉ〜!?」
「お前、俺と歳同じぐらいだろ。ふざけんなよツトム」
好き勝手言ってくれる奴らだ。聞こえなかったのか、僕はお前達を牢屋から出してやったんだぞ?
異世界転移だって、やらなければお前達は何の価値も無い一生を日本で送るところだったんだ。僕の配下についた方がよっぽど生産性があると思うが。
「はい縄抜けたぁ〜、俺様の大勝利ぃ〜!! 覚悟しゃーがれツトム・エンプティ〜〜〜!!」
縄を抜けたというか蛸の触手のようなものを背中から生やして、縄をぶっち切っただけじゃないか。しかもそのまま僕を殺そうと触手を伸ばしてきている。
仕方が無い。タカオ・ディザイア、お前が僕の『三本目の鎖』となるんだ。
「素直に従えば良いものを……《操作の鎖》」
「うおぉ〜!?」
触手の合間を縫って青き鎖が進み、見事、先端がタカオの腹に突き刺さる。その瞬間タカオは動きを停止させた。僕の操り人形になったんだ。
さて、お次は『四本目の鎖』だな。
「おい、そのタコ男に何をした……? まっ、待て! 痛いのは嫌なんだ、お願いだからこの拘束を解いてくれ! やめろ、近寄るな!」
「――おやすみ、ヒロ」
顔を冷や汗で濡らすヒロ。その耳元で別れの挨拶を告げ、ゼロ距離で《操作の鎖》を胸に刺した。大人しくしていれば見える未来もあったのに。アホどもめ。
▽ ▽
「さ、命令だ。ああ、命令という名の腹いせかな。ヒロにタカオ、お前達のどちらかが死ぬまで戦え。殺し合うんだ。僕や僕の部下が指示した場合は即刻やめてもらうが、その特例を除いて、死ぬまでだ。死ぬまで殺し合えよ。バカ二人で」
「「はっ、ツトム・エンプティ様……」」
さっきまでの不忠ぶりはどこへやら、操り人形となった転移者二人が恭しく頷いた。
駒と駒は帝国内の空き地へ向かい、そこで僕の命令通りに殺し合いをスタートさせる。ヒロは返してやった二本のナイフで、タカオは自慢の触手能力で、互いを傷付けていった。滑稽だな。
「ツトムくんこんな所に! ……あの二人に何させてるの?」
「アヤメ、わからないか? 殺し合いさ」
「どうして、そんなことさせてるの?」
血しぶきの舞う殺戮合戦を観戦していた僕に、奴らを争わせる理由を問うアヤメ。理由など決まっている。
「……感じられるからさ」
「え、何を?」
さらに首を傾げる僕の駒。これ以上会話を長続きさせるのは無益だし、そろそろ奴らの戦いも飽きてきた。空き地に背を向けながら、僕は歯を見せるように笑った。
何を感じられるか? そんなの、一つさ。前の世界じゃあ絶対に感じることのできなかった……この感情。
「フッ、優越感だ」
これは五章の序盤で既に判明しているんですが、ヒロとタカオの勝負はヨリヒトが止めたため、どちらか死ぬには至りません。
マコトとツトムは共通点がありながらも真逆の異世界生活を送っていて、ツトムがかなりやばい人だという事を表現したかった過去編でした。




