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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#137 【魔王ツトムの過去⑩】忍び寄る真実

ツトム視点です。

時系列的には二章の辺りです。

「ツトムくーん。今日もお城を歩いてたんだけどね、こんなのが落ちててさぁー」


「何だこの黒い本は……文字が読めない」


 翌日の早朝。魔物創造を始めていた僕はアヤメからその本を受け取るが、表紙も中身も見たことの無い字で全然読めない。そうか、言語の違いか。今まで話題に上がらなかったからな。

 だが異世界人達と会話は普通にできる。この辺は女神が仕組んでいることなのだろうか。


「おい、そこのお前。ちょっとこれを読んでみろ」


 大広間にて清掃を行っていた男の帝国兵に声を掛ける。あいつに読んでもらった方が手っ取り早い。


「え? いいですヨ。これは『闇の魔導書』ってやつですネ。そういえばこの要塞に出入りしてた先代魔王が時折読んでいた気がしますナ」


「奴が落としたのか。よく覚えていたな。魔導書、というのは読むとどうにかなるのか?」


「えぇっとこれはですネ……読むと『闇属性魔法の適性』が手に入るようで……あ、つまり闇属性の魔法を比較的お手軽に使えるわけですネ、誰でも」


 ページをめくりながら、こちらにもわかりやすいように話す帝国兵。書いてあるのは『詠唱』のようなもので、それを読みつつ実行すれば基本誰でも闇魔法が使えるそうだ。

 先代魔王は読まなくたって闇は使えたはずだが、研究熱心だったんだろうな。その割には雑魚だったが。


「……ところでお前は帝国兵にしては有能そうだな。名は何という? 覚えておいてやるぞ」


「バートン、と申します」


 茶髪でロングヘアーの若い細身の男、バートンか。槍を背負っている。こういう奴が高い地位にいてほしいものだ。

 僕はとあるアイデアを思いつき『闇の魔導書』を懐に入れ、大分と余裕が出てきた魔物創造を一旦中止し、背中から黒い翼を生やす。


「ちょっとサンライト王国を見物してくる。警備の指揮はヨリヒトとバートンに任せることにする」


「え、ツトムくん飛べるの!? 私も連れてって! ハワイとかではねむーんしようよ!」


「体が密着するから嫌だ」


 目を輝かせて両手を組むアヤメの頼みをすっぱりと断り、僕は割れた窓から飛び出していった。

 そもそもハワイ無いだろこの世界。



▽  ▽



 二十分程度の時間を南へ飛行して、ようやくサンライト王国の上空までやって来た。通行人に気づかれぬようそっと建物の屋根の上に着地。

 ――目的は単なる『嫌がらせ』あるいは『威力偵察』のようなもの。マコト・エイロネイアーもこの国にいる可能性は高いし、何よりの脅威はエバーグリーン・ホフマンだ。誰かしら悪の心を持つ者にこの『闇の魔導書』を渡してやれば……


 ぱっと見マコトもエバーグリーンも見当たらなく残念だが、こうして大通りを見ると人口が帝国とは比べ物にならないくらい多い。しかもムーンスメル帝国民といっても三割が兵士、三割が奴隷、残り四割が一般国民といった印象だ。つまり活気の差も歴然――



「おいゼイン! ギルドで俺がやられちまった後、あのジジイぶっ殺したんだろうなぁ〜オイ!」


「えっ、そうするべきでしたかブラッドの兄貴!? 俺ぁてっきり兄貴の治療が先決かと思ったんスけど」


()れよ! ()れよバカ野郎ぉ! こんなかすり傷はな、ツバ付けときゃ治んだよ!」



 人混みの中に、活気とは違う酷くやかましい音声が響く。ふらふらと歩くこげ茶のドレッドヘアの大男と茶色のとげとげしい髪型の男。街行く人はその二人と、後続の柄の悪い男達から逃げるように離れていく。

 ふむ、傷だらけのあの男から『闇』を感じる。それは『適性?』とかいう訳のわからないものでなくて、『怒り』だったり『憎しみ』『恥ずかしさ』とかそういう負の感情を放っているって話だ。


 ――これは好都合だな。


 柄の悪い連中が入ろうとする路地裏に、僕は先回りして闇の魔導書を投げ込んだ。



「いてて……ん〜? なんだぁこりゃ……」



 こめかみの辺りを押さえている大男が落ちているそれに気づき、拾い上げた。よし、これであいつは勝手に暴れてくれることだろう。



▽  ▽



 まぁあの大男が暴れてくれる保証は無いが、ひとまず目的は達成したんだから、帝国へ戻ってから『転移者ファイル』の調査でも再開するとするか。

 そう思いながら広大な森林を見下ろす僕の目に、偶然にも会いたかったあの男が写る。


 ――間違いない。サングラスを掛けたマコト・エイロネイアーだ。隣に紫髪の女もいるようだが、どうでもいい。

 気づかれないよう木に隠れながら降りる。見れば今、茂みから飛び出したゴブリンを女騎士が斬ってみせたらしい。



「フン、一体だとこんなものだ。楽勝だろう?」


「そりゃ一体ずつならなぁ……」



 木陰から二人の話を窺う。なぜ女騎士と一緒にいるのか状況はどうもわからない。しかもあの女からは『極度の緊張』、マコトからは『漠然とした不安』なんて負の感情を感じる。何だこの面倒臭そうなコンビは。

 まぁいい。お手並み拝見といこうか。


 その場から少し離れ、二人からは見えるはずのない場所へ。五十体程度のゴブリンを創造し全員に命令する、


「向こうにいる二人の人間を殺せ。殺す時はできるだけ苦しめろ。すぐには死なせず、ゆっくり、じわじわとな」


「ギャア!」

「ギャア、ギャア!」


 涎を垂らすゴブリン達が、僕の指し示す方向へ大挙して押し寄せていく。緑色の醜い雪崩なんてレアだ。

 さて、僕も密かに様子を見に――


「今の音、なんですか!? それに、あなたは――おにいさんは? こんな森の中で危なくない……のかな?」


 何だ? 掛けられた声に咄嗟に振り返る。そこには十二歳くらいで、茶髪とそばかすが特徴的な少女がいた。白を基調とした服の幼いお人形みたいな女の子が、こんな薄暗い森の中にさも当然のように立っているんだ。


「ああ、僕は大丈夫だ。そう言うあんた――君はどこから来たんだい? 是非教えてほしいな」


「あの私……リリーっていうんですけど、サンライト王国から来たんです。ちょっと前、好奇心で飛び出してきちゃって……もうそろそろ帰らなきゃ」


「へぇ、サンライト王国か。僕の()()()()()だよ! だったらリリーちゃんに良いものをあげるよ。ちょっと僕に近づいて」


「え、いいもの!? なんですか?」


 ちょろいな。純真無垢という言葉がぴったりな少女は迷いも無く僕に近づいてくるんだから。

 好奇心で出ちゃった悪〜い子には……罰をプレゼントだ。


「きゃあああっ! おにいさん、後ろに魔物が!!」


 僕の背後から現れる二体のスケルトンに悲鳴を上げた少女は走り出し、後ろ目に僕を心配するが、当然僕を通り過ぎてスケルトンはあのガキを殺しに向かう。


「な、んで……なんで、平気なの!? なにこれ!? やだよ、怖いよぉ! こんなことしてごめんなさい、だれか助けてぇ!」


 スケルトンに追われる少女は泣きながら暗い森を走る、方角的には東の方へ逃げてるな。純真無垢は別に良いけど『自業自得』という言葉を知りなよ糞餓鬼。

 おっと、マコト達を放ったらかしだ。


 再度木陰から様子を窺うと、



「……依頼では十体とかだったが、こりゃ五十はイッてるよな。報酬は増えるのか?」



 マコトも女も健在。両者ともに無傷だ。ゴブリンどもは役立たずだな、もう終わってるじゃないか早過ぎる。偵察に来たのにリリーとかいうバカのせいで台無し――



「誰だ」



 まずい、剣を構えた女騎士に存在を気づかれた。ゴブリンが全滅したのはマコトの能力がよっぽど強かったのか、そうでなければあの女騎士が異常に強いことになる。ここで無闇に戦うのはもしかすると愚策で、しかも体力や時間の無駄だ。

 仕方ない。偵察はまたの機会にしよう。僕は潔くその場から飛び去った……ここは王国内で『北の森』なんて呼ばれてた森かな? 悪運の強そうなマコトの為にも、北の森付近に魔物を積極的に寄越してやるとしようかな。



「どうかしたのか」


「いや、誰かに見られていたような気がしてな。勘違いだったようだが」

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