#13 クソガキとの和解
「怪我はねぇのか」
「あ、うん」
フライパンを横に投げ捨てながら一応聞くと、体育座りのガキは俺を見上げ、震えてた体をビクッと一発大きく震わせてから答えた。その後は震えがおさまってたな。
ちなみに着地したフライパンは青白く光り、次の瞬間には塵になって消えた。盾もこうやって消えたんだろうな。
「さっきは助かった。が、俺がここにいる理由はさすがに察しがつくよな」
「ええ〜? なっ、何のことかな〜?」
――バシン!
「あいたーーーっ!!」
気づいたら手に生み出されてたハリセン。それを、目を逸らしたガキの頭頂部にお見舞い。加減はしといたが、ガキは涙目で、両手で頭を擦ってる。
「痛いよ! なにすんの!」
「そりゃこっちのセリフだ」
「助けてくれてありがとうって、私言おうとしてたのにっ!」
「そりゃ残念なこった。俺は今のをお前にくらわせるために助けたんだからな」
「えっ、冗談じゃなかったの!?」
何が悲しくて四十歳程と十二歳程がこんな暗くて汚い路地裏で漫才させられてんだ。
……一応ガキも、今の俺の行動には感謝しているらしい。
「あ、あの時は仕方がなかったの! オーク二体なんて杖を落とした私がかなうはず無いじゃん」
「だからって俺になすり付けんなよな! 後ろで見守るってんならまだ理解できるが、笑顔で一人だけ逃げ去っただろ! よくも俺を利用してくれたなクソガキ!」
「おじさん強そうだったからたぶん大丈夫だろうと思って」
――バシン!
「あいたーーーっ!!」
反省の見えないケロッとした表情を見て、俺のハリセンがまた火を噴いた。
「大丈夫じゃない問題なのは、人に押し付けて後は知らんぷりのその精神だ!」
「うぅ、でもさぁ…………うん、そっか」
頭を擦りながらもさすがに何が悪かったのか理解したようで、少し俯いてそう呟いたガキ。
……気持ちはわかるさ。俺だって丸腰&無能力の状態でオークになんか追われたら、誰かになすりつけたくもなる。
俺の性格は年齢――つまり積み重ねてきたものがあるし、どうしようもないと目を瞑ってもいい。だが、この子まで俺のようにならないで欲しいんだ。
「私、悪いことしたよね。叩かれてもしょうがないことした……ごめんなさい」
「……ああ……まあ良いさ。過ぎた事だ」
「まあ良いさ」とか偉そうに言っちまったけど許せよ、名も知らぬ少女よ。お前はいい人間になれ。俺のようになるな。
自分で言ってて悲しくなってきたけど、とにかく謝ってくれたんだし一件落着ということで。
「……えぇっと、おじさん? おじさんは私をぶって説教するためだけにここまで追ってきたってことなの……?」
「その通り。さ〜て、目的達成したし次はどこ行くかな。不法入国だから俺逃げないと」
「ほ、本当にそれだけの理由で……しかも犯罪者!? あはは、執念深くて自由で、面白くて変なおじさん……」
そう。実を言うと、不法入国含め今までの行動のほとんどがこいつにお仕置きするためだった。俺はどこまでくだらねえ人間なんだろう。しかも目的達成しちゃったよ。
苦笑しつつ呆れたように呟く少女を背にし、俺は明るい大通りの方を向く。するとそこに一つの人影。
「プラムから離れろ!」
逆光で誰だか見えない人影がそう叫ぶ。プラムとか離れろとか何だかわからんが、かなり怒ってるのだけは伝わる。
直後、顔くらいの大きさはある氷塊が猛スピードで飛んで来る。驚く暇も無いが、右手にしっかりとした感触を感じた俺は、生み出された木製バットを反射的に横に振るう。
そして命中。氷塊は見事に砕けてバラバラに、俺を避けるように飛び散った。同時に木製バットも折れちまったが、
「何ですかその木の棒――あれ、マコトさん!?」
「お前は」
こっちに近づいて来てようやく顔が見えたその人物は、ドデカい杖を構えていた青髪の優男ルークだった。




