#127 エバーグリーン vs マコト
お? 門が開きっぱなしだ。そうか! もう昼だからエバーグリーンが帝国に向けて出発するんだな!? 危ねぇが間に合ったぜ。
「ん?」
「あれ、あなたは……!?」
なぜか敬礼をしてた二人の門番に気づかれるが、無視して俺は門をくぐる。やっぱり壁内から一人で歩いてくる男は赤髭に赤髪のエバーグリーンだ。
「……マコト君か」
「エバーグリーン待て、俺も一緒に行く! あぁ、色々あって魔王のこと全部知ったんだ。ツトムは俺が止めるべきなんだよ!」
俺の名を小さく呟いたエバーグリーンに、走りながら目的を告げる。だがあいつは歩行速度を緩めもしねぇ。
すぐ近くまで近づき、彼の肩を掴んで動きを止める。いったいどういうつもりなんだエバーグ――
「構えろ、マコト君」
「……は?」
「防御しなければ死ぬぞ」
いきなりの警告。冗談じゃなくマジでエバーグリーンは腰の剣を抜き、ぶん回してくる。
「――どぅおぉッ!!」
間一髪で剣を生み出してガードするが、ほとんど鍔迫り合うことさえできずにぶっ飛ばされた。民家の石の壁にぶつかり、身動きがもう取れねぇ。後頭部と右腕を打ったぞ、クソ痛ぇ!
「何、すんだよ……どういうつもりだこの野郎、エバーグリーン……!?」
「王はこう仰った、『エバーグリーンを追った者は死刑に処す』とな。陛下は戦争のお嫌いな方。私以外の者が帝国に行くなど、断じて許されん」
そうか、そういえばバルガ王はエルフと戦うことを怖がってたりとかあったな。死刑てエグいな……
いやいや俺はエバーグリーンを『追う』つもりねぇよ、『協力して戦う』んだよ。
「もし君が死刑を恐れないとしても、だ。私は『騎士王』という肩書にきちんと別れを告げる為、一人で終わらせたい」
「おい……聞いて、くれよ……」
騎士王ってのがあいつにとっては、イコール人生なのはわかってる。
だが、なぜだ。どうしてそんなに、一人にこだわる? プライドがどうこうあるかもしれんが、協力したってあんまり変わらねぇはずなのに。
気が遠くなってきた。頭を打ったからだろうな。
視界がボヤけてくる。そんな気絶寸前に俺が見たのは、エバーグリーンの――涙だった。
「……いい加減に、見たまえ! 君は私より強くないだろう!? そんな君が魔王と戦って、勝ち目があるのか!? 私はギルバルトと剣を交えた、奴は本物の強者だったんだ。なのにツトムは更に強いんだぞ!? もし私が死んだら……君を守れないだろう!」
マジかよ。王様の命令も騎士王ってプライドも、建前に過ぎなかったらしい。魔王の強さを知ってるからこそ、他人を巻き込みたくなかったんだな。
その選択は正しいのかよ。わからねぇよ。
「せめて君は眠っていてくれ、マコト君。そして……私の生存を願うよりも、私の勝利を待っていて欲しいんだよ……頼むから!!」
最後のは、聞いたこともねぇ大きさの声量だった。声が裏返るほどだ。
「……だが……おい、ツトムは……あいつは、イカれてんだよ……エバー……グリ……」
叫ぶだけ叫んだ『騎士王』は涙を素早く拭って、早歩きで門へと迫っていっちまった。
対する俺の意識は、闇の中へ沈んでいく。
「あの……怪物を……止めねぇと……」
沈んでいく……女神様とドラゴンから聞いた、ツトムによる数々の所業を思い返しながら……
次回から魔王ツトムの視点で彼の過去編です。過去編が連続ですみませんが、ツトムのが最後です。




