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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
最終章 大暴れして、異世界の救世主となれ
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#125 【騎士王の過去①】親子

エバーグリーン視点です。ついでに過去編(長くは続きません)も三人称とか使わずエバーグリーン視点です。

時系列をわかりやすくするため、最初に十年前のことを振り返ります。

 来てしまった。遂に、この時が――


「国民の皆、聞いてくれ。今まで話さなかったのだが、騎士団の団長エバーグリーン・ホフマンが……」


 王城のバルコニーからよく通る声で話すのは国王、バルガ・ドーン・サンライト。噴水広場に集った国民達に向かって、私に関する話を展開している。

 私は誰にも見つからないよう、影から見守っていた。


「復活した魔王を、再び討伐しに出発する! 恐らくムーンスメル帝国とまたしても同盟を結んでいるだろう魔王を、十年前を踏まえて今度はこちらから倒してしまうのである。余はただこのことを公表したかっただけだ――誰もエバーグリーンを追うでないぞ。『一人で行きたい』、そう彼は言ったのだから」


 陛下は、私の言って欲しいことを全て話してくださった。なんという幸せだ。王城の前の噴水広場に……集まって王の言葉を聞き届けようとする国民達に……背を向け、私は門のある方向へ歩く。


「国を挙げての戦争など、絶対に起こしてはならない! 血で血を洗う戦いの中に平和など見出だせる筈がない! だからこそ、十年前のようにエバーグリーンが一人で終わらせなければならない! ――彼を追った者は、問答無用で死刑とする!!」


 陛下は、本当に戦争がお嫌いな方だ。いや、『好きだ』と言う者は少ないだろうが、ここまで極端に嫌いな人物も同様に多くはないであろう。

 門が見えてきた。まだ遠いが、二人の門番が私に敬礼をする。私が深呼吸をしようとしたその時、横の路地から声がかかった。


「あらあら、あなたを追いかけたら死罪ですって。王様は十年前とまるで変わらないわね〜♡ 本当に一時間後でいいのかしら?」


「ああ、前回と変わらずな。お前のことも王に許可は取ったが、誰にも見つかるなよ」


 魔術師団の団長マゼンタ・スウィーティだ。心配してやると、彼女はいつになく悲しそうな顔をする。


「……私のことより自分のことを心配したら? 何もかもが十年前と同じじゃないのよ、例えば――あなたの生きてきた年数とかね」


 『老いぼれだ』と言いたいのか? 余計なお世話だ。あの時だって、もう駄目だと諦めかけたのだから――




〜十年前〜




 このサンライト王国が今、危機に瀕している――三日に一度の頻度で魔物の群れが押し寄せてくるのだ。

 原因もわからないまま、この状態が何週間と続いている。あまりの量に我が騎士団も、魔術師団も疲労の極地だ。国民の不安も計り知れない。

 私と部下の騎士達でいつものように魔物の掃討をしている中、一人の騎士が走り寄ってきた。


「団長! 一体のリザードマンの首にこんな書状が」


「む……何、『ムーンスメル帝国』からだと!? 帝国とは今まで何の問題も無かった……それどころか同盟交渉に向かおうかという提案もあったくらいだぞ!?」


 サンライト王国とムーンスメル帝国には、今のところ繋がりなど一つも無い筈だった。なのに書状に記されていたのは、


『降伏し、全ての領土・物資・そして国民を明け渡せ。こちらには魔王がいる。勝ち目など無いのだ。この世界を統べるのは帝国だけである! 帝国が一番だ! 帝国バンザイ!』


 といった、幼稚な文章だった。どうやらこの魔物の群れはムーンスメル帝国と手を組んだ『魔王』によるものらしい。

 ――こんなにもガキ臭い考え方で、一つの国が滅んでたまるか。

 怒りを抑えきれないまま私は、まだ王になったばかりのバルガ王の元へこの書状を届けて相談をする。


「陛下。我ら騎士団が帝国へ出向き、逆に帝国を滅ぼして参ります。これまでの国民達の恨みを晴らして――」


「待て待て、いかんぞエバーグリーン。これではまるで……戦争じゃないか……」


 バルガ王は、九十年前の『エルフ戦争』をはじめとする戦争の歴史に、極端なまでの嫌悪感を持って王へとなられた慎重な人物だった。

 実質ムーンスメル帝国・魔王との戦争のようになってしまったこの戦いを王陛下は『極力戦わず、うやむやに終わらせたい』とおっしゃった。

 しかし、帝国はもう派手に仕掛けてきている。全く武力を行使せずに終わらせるのは無謀かもしれない。陛下もそれはわかっていたようで、


「君が一人で行くのだ。そして可能な限りで話し合いを求め……失敗したら、『魔王のみ』を討伐せ――」


「ダメよ、王様! 魔王を殺したらダメ!」


 遮るように大広間に入ってきたのはマゼンタ・スウィーティ。二十歳の彼女は、なんと才能がありすぎて十五歳から魔術師団の団長になってしまったという。本物の天才だな。


「魔王を殺してしまったら、()()()()()()()()()()()()。なってしまった結果、もしかすると心を闇に支配されるかもしれないの。これは推測でしかないけれど、危険なことに変わりは無い。魔法で封印するべきよ」


 なるほど、つまり私が魔王を殺したら、今度は私が魔王になってしまうのだな。しかし魔王を弱らせてからでなければ封印など出来る筈も無い。


「封印、か。ならばどうするエバーグリーン?」


「では私が話し合いを求め、もし失敗したら魔王を倒します。殺しはせずに戦闘不能に。このような道筋を辿れば、一時間程度でカタが付くと思われます」


「それなら私が、あなたの出発した一時間後に帝国へ着けばいいのね? 了解よ、エバーグリーンさん♡」


 かくして、『魔王討伐』という名の『魔王封印』計画が始まった。計画と言ってもけっきょくは自身の腕っぷしにものを言わすだけであるが。


「そうだ、王様。私のことは公表しないでちょうだい。エバーグリーンさんはたぶん目立ちたがり屋さんだから、一人で倒して封印したってことにしてあげましょ」


「おい。公表しないのは結構だが『目立ちたがり屋』の部分は王に向かって言う必要あるか? マゼンタ」



▽  ▽



「親父! 今日『魔王討伐』行くってほんとなの!? 魔王ってすっげー強いんじゃないの!?」


 出発の日。騎士団の領地から出ようと錆の目立ち始めた鉄扉を開けた私に声をかけてきたのは、九歳になった息子ジャイロだ。


「父さんも会うのは初めてだが、『すっげー強い』らしいな。だがお前も知っているだろう、父さんの方がもっと強いんだぞ」


 右腕で力こぶを作る真似をして、さらにそれを左手でポンポンと叩き、息子を苦笑させた。


「それ『つよがり』とかいうやつじゃないよね親父? オレまだ親父と戦ってねぇ、いつか絶対親父と戦って勝ってやるんだ! だからさ……それまで……しなないでよ?」


 大人になるにつれ、少しずつ物騒なことも覚えるようになってきたな。成長とは早いものだ。ジャイロはもう、そんなに幼くはないのだな。


「そんなこと言って、父さんのこと好きなんだろう? なら『死なないで』じゃなくて『勝って!』と願って欲しいものだ」


「……わぁったよ。勝ってね、親父」


「任せろ」


 ――そんな息子とのやり取りを経て、私は馬に乗って王国から飛び出していった。


 帝国に到着し、その門番の男を経由して『皇帝』と話し合ったが、答えはやはり「書状に要求を書いたはずだ」というものだった。

 まずい、外壁の存在を忘れていた。このままでは魔王と会うことさえできない。ならば仕方が無い……


「門番よ覚えておけ、これはサンライト王国でなく私自身の判断だと! これは戦争ではないのだ! うおぉぉおぉ――!!」


 私は、門をぶち破った。



※「騎士団の長が敵国の門ぶっ壊したら戦争じゃね?」という文句は受け付けてます。破綻こそが、この物語の根源なんです。

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