#121 ドラゴン vs 武器ガチャ
さっきはけっこうデカい一発をおみまいしたつもりだったが、目の前のドラゴンは想像以上にピンピンしてる。全くダメージが入ってねぇのかな。
そんな俺の心を読んだみてぇにレオンが寄ってくる。
「……マコト、今のでわかっただろう。ドラゴンは……例えお前が異常に強いとしても、絶対に厄介な強敵だ。ここまで来てしまったのは仕方がない。基本は俺らに任せて……」
「知ってるぞ。お前らは手柄が欲しいんだろ? エバーグリーンからジャイロへ世代交代しても信頼できる騎士団でありたいから、自分達でドラゴンを倒して国民に報告してぇんだろ」
「き、貴様っ……団長やジャイ坊と話しすぎだ、知りすぎだぞ!!」
確かに俺はエバーグリーンとジャイロの親子とよく話して、騎士団の悩みについて意外と知っちまってる。
真面目すぎるレオンには、これ以上俺の心を読むことはできなさそうだ。本気でキレてる。俺は恐喝したかったワケじゃねぇのに。
「怒るなよ、その辺の事情はわかってる。これから俺はお前ら騎士団と協力してドラゴンを倒す。だが俺は金にも名誉にも興味がねぇ、俺やプラムがこの場にいたことは秘密にすりゃいい」
「なっ、興味が無いだと! ならどうしてここへ来た!?」
本当に興味が無いから頷いた。そしてここへ来た理由については「なんとなくだ」と適当に流し、俺は剣を生み出してドラゴンへ突撃。
とりあえず足を斬りつけてみるが、めちゃくちゃ硬いぞこれ! 一発で剣が折れちまった。
モブ騎士達もドラゴンの牙や尻尾を避けつつ、刃を背中やら足やらに振るうが、ほぼほぼ硬いウロコに弾かれてるらしい。
その中にはアーノルドの姿も。
「だああっ」
「グロロロォッ!!」
蒼く輝くエクスカリバーの一撃はやっぱり他の剣とは比べ物にならず、ドラゴンの硬い背中を深く抉ってやがる。
だが他の騎士を見ると、普通の剣でも横腹とか首の下の方は斬れるみたいだ。その辺は柔らかいんだな。
ダメージの蓄積が大きくなってきたのか、ドラゴンは天を仰ぎ始めて――
「全員離れろっ! 炎が来るぞ!」
まさかブレス攻撃か。確かに、上を向いたドラゴンの口腔から赤い炎がチラチラと溢れてる。
そしてこちらへと上から叩きつけるように火炎放射。俺やアーノルド、ほとんどの騎士が避けたが、一人逃げ遅れたヤツが。
「うわ、あちぃっ! 顔が焼けた、水を!」
「こっちだ、走ってこい!」
焼かれた騎士の行く先には、弓矢をドラゴンに向けて放つ騎士がいる。そいつの隣に樽と小さな桶がある。
たどり着いた騎士は兜を脱いで樽のフタを開け、桶で中の水をすくい取って自身にぶっかけた。なるほど、こうして火傷を誤魔化しちまうんだな。
「ドラゴンが向かってくるぞ! その間は弓矢部隊の出番だ、目を狙え!」
さっきから『離れろ』だの『弓矢部隊』だのと指示を出してるのは後方のレオンのようだ。俺も弓矢部隊に混ざれたらいいんだが。
「……俺も弓、出せると思うんだけどなぁ」
エクスカリバーにバイクに、最近武器ガチャへの挑戦が多くなってきたな。銃はダメだと言われたが、弓は含まれねぇよな。
するとやはり出た。弓と何本かの矢が入った筒が。弓矢はセーフなんだな。使い方もわかる。ひとまず部隊に混じる。
十人ちょっといる弓矢部隊だが、首の下とか翼にばっかり矢が刺さってるし、頭部なら目か口の中に当たらなきゃ弾かれちまうらしい。とにかく目だな。よ〜し……引き絞って……狙って狙って……
「ここだ!」
俺の放った矢が一直線にドラゴンの顔面を目指す。そしてビギナーズラックというヤツか、眼球に直撃。
「グロロォ!?」
「やりましたねマコトさん! アーノルド、突撃します!」
宣言通りに突っ込んでったアーノルドがエクスカリバーを振るい、ドラゴンの首にザックリと傷を付ける。やっぱ簡単に首飛んだりしねぇな。
一発入れたアーノルドは距離を取ろうとするが、石ころにつまずいてコケる。無防備な状態だ。その隙を見逃さないドラゴンは炎のブレスの準備を始める。
「まずいぞ、立てアーノルド! ……ん!? 嬢ちゃん!?」
「大丈夫、私が助けるよ!」
焦るレオンがさらに焦った理由。それは、
「プラム!? おいシャレになんねぇぞどうする気だ!?」
一緒にここに来てたプラムがアーノルドを助けに行ったからだ。最悪だ、あいつにどうにかできるのか。相手は『世界最強の魔物』なんだぞ!?
走りながら俺は矢をドラゴンの口の中にブチこんでく。だが炎に一瞬で焼かれて、何の時間稼ぎにもならねぇ。弓矢を捨ててとにかく走る……間に合わん。
ついに、炎がプラムとアーノルドを狙って滑るように放出される。
「プラムっ!!」
「〈ファイア・シールド〉!!」
と、プラムが杖を振ると大きな炎の盾が現れ、それはドラゴンのブレスをものともしない見事な防御力を見せつけた。
「す、すげぇ! すごいじゃねぇかプラム!」
「おお、プラムちゃんあざす!」
「ほら役に立つって言ったでしょ! 早くあいつから離れようアーノルド!」
「ゥグロロロロォ!!」
炎を防がれたのが癪に触ったのか、ドラゴンは怒り狂った様子で進撃を始める。あっ、あいつ爪で引っ掻いて目に刺さった矢抜きやがったぞ!
当然一番近くにいるプラムとアーノルドがまた危ねぇ状態に。デカい分ドラゴンはすぐに追いつきそうだ。
あれ、弓矢部隊のすぐ後ろにいたレオンの姿が無くなってるが……
「やべっさすがにもう逃げられないか、プラムちゃん後ろに! エクスカリバーで防御するから!」
「さすがに無茶だよ!」
大口を開けるドラゴンの牙が二人に迫る。
そんな中、一つの人影が後ろからドラゴンに飛びかかった。
「俺と同じ悲劇を……部下達に味わわせてたまるか!」
「レオン先輩!?」
「おじさん!」
レオンがドラゴンの長い首を、体全体で掴みにかかったんだ。相当強い力を加えてるのかドラゴンは苦しそうに吠える。
プラムとアーノルドは他の騎士達との合流に成功。
「先輩危険すぎます! 早く降りてください!」
アーノルドの忠告が聞こえねぇらしいレオンと、締められる首の苦しさに悶えるドラゴンの取っ組み合いが続く。
ドラゴンが頭をブンブン振るもんだから吹っ飛ばされそうになっちまうが、レオン劇場はまだ終わらねぇ。
「急ぐなよ、もっとゆったり生きないか? お互いにな!」
そう言いながらレオンはドラゴンの首筋に剣を突き刺す。ちょうど柔らかい場所だったのか、深々と入っていく刃。
ドラゴンはあまりの痛みにドタバタと走り回りつつ炎を吐き散らしてる。つまりレオンを助けたくても危なくて近寄れねぇ。
――俺以外は。
「偽エクスカリバーの威力、確かめてくれよ大トカゲ!」
炎を掻い潜って跳び上がった俺は、生み出したエクスカリバー(光らない)を思いきりドラゴンの脳天に振り下ろす。
やっぱりエクスカリバーはエクスカリバーか、ドラゴンは痛むような仕草を見せる。だが複製品は複製品か、たった一発で偽エクスカリバーはボキッと折れた。
「耐久力が普通の剣と変わらねぇ! もういい、こんなの捨てて次のだ!」
木製の大きなハンマーを出してもう一度ジャンプ、ドラゴンの横顔に叩き込む。皮膚の硬さにハンマーはボロボロになるが、またドラゴンを怯ませることはできた。
怯んでる間にレオンが刺した剣を抜いて離れる。俺も彼に合流すると、
「……正直、死ぬ気だったよ。だが生きてるってのは良いことだな。恩に着る、マコト」
「気にすんな」
死ぬ気とか寂しいこと言うんじゃねぇよ、真面目だし仲間想いでもあるんだなこいつは。
って、そんなこと感じる余裕も与えたくないらしいドラゴンは、また口の中に炎を溜め込んでる。美しささえ感じそうな紅の炎が俺とレオンに襲いかかってきた。
だが俺は焦らずに、ある巨大な物を生み出す。
「バーベキューが好きなのかドラゴン、俺にもご一緒させてくれると嬉しい……ぜ!」
「グォウロロォォッ!!!??」
出てきたのは巨大扇風機。手から生み出して地面に置くときに、少し地面が揺れるくらいデケェ。実験系のテレビ番組とかで登場する記憶があった。
さっとスイッチを入れ、超強風が炎を跳ね返してドラゴンBBQの出来上がりってワケだ。
「ガへッ……グロ、グロロロ!」
「うわっ!」
前面が焦げたドラゴンだがそれでも倒れず体を回転させて尻尾をぶつけ、巨大扇風機を破壊、俺も破壊された衝撃に吹っ飛ぶ。直撃してたら致命傷だったな。
なのに回転の勢いそのままに、今度は俺に頭突きを仕掛けてきやがる。
まずいぞ、体勢を立て直さねぇと――!
「マコトさん!」
ドラゴンの頭と俺の間に割って入ったのは、エクスカリバーを構えたアーノルド。剣と角がぶつかり合い、対抗しようとするアーノルドだったが、
「うあああぁ!」
長くは保たなかった。アーノルドは大きく吹っ飛ばされて動かなくなり、俺も飛んできたアーノルドにぶつかって少し転がる。
「く……調子乗んなよ、トカゲ風情が……」
珍しく俺のために体を張ってくれたアーノルドを心配するのは……こいつを倒した後だよな。静かに立ち上がり、赤い大トカゲを睨みつけた。
まずは目潰し攻撃といくか。
「野球しようぜ」
出したのは鉄製バットと野球のボール。ボールを軽く上に投げてバットで打ち、ヤツの右目に直撃させるホームラン。バットも投げて頭にぶつけてやった。
「グォロ!」
「あとゴルフでもすっか?」
今度はゴルフクラブのドライバー、ゴルフボールとティーを生み出し、ボールをティーの上に置いてすぐに打つ。ヤツの左目にナイスショット、クラブもまた投げて翼に当たる。
「グロ、ロロォォ……」
両目を攻撃されて視界が塞がれ、パニックに陥るドラゴン。俺はもう止まらない。生み出したのは何本か束になったダイナマイト。
ん? 液晶画面みたいなのが付いてて表示されてるのは『00:03』というデジタル数字。まさか!
「三秒後に爆発か! 武器ガチャ俺を殺す気か!?」
とにかく爆弾を想像したんだが、ちょっとカウントダウンの初期値に余裕が無さすぎねぇか? あと一秒ってとこでドラゴンの体めがけてぶん投げる。
「グォォ……ォオ!」
さすがはノーベルさんの発明、威力は『世界最強の魔物』に対しても申し分ないらしい。その爆発はドラゴンに深い傷を与えた。
さらにもう二つダイナマイトを生み出すと、どちらもまた三秒後に爆発だ。タイミングを見計らいつつ投げて、投げた。ヤツの顔と翼で大爆発が起こり、
「グロロ……オォォ……ォ……」
ボロボロの体になったドラゴンが、崩れるように横たわった。
倒れる瞬間はあまりにも静かで……これまでの長い戦いが嘘みてぇに感じた。
――その時。
『……うぅ誰か……誰か、聞こえんのか……痛い、苦しい。儂の声は……もう誰にも届かんというのか……!』
やけに脳内に響き渡る、じいさんのような声だった。
後ろを見ると広がっている光景は、歓喜に騒ぐ騎士達だけ。あいつらに今の声は聞こえてないんだろうか……
もう一度振り返り、俺は息も絶え絶えのドラゴンをじっと見つめた。
『誰か助けてくれ……儂と彼女は、魔王に利用されているだけなのだ……!』
ドラゴンの声? 嘘だろ?




