#117 討伐へ向かえ!
「ド、ドラゴン!?」
「ついに目を覚ましたのか!?」
「この村にも来るのかしら!」
「落ち着け、落ち着いてくれフェルト村の皆さん! オレは騎士のジャイロ、ドラゴンは我々騎士団がすぐに討伐する! だから心配はいらねぇぞ!」
「あれはエバーグリーン・ホフマンの息子さんじゃないか」
「頼もしいな、任せるぞ!」
警報の文をジャイロが読んだ直後にこれだ。だがさすがは騎士王の息子、王都でなくても信頼は厚いらしいな。
にしてもドラゴンか。そりゃ騎士団や魔術師団が動くよなぁ……別に俺は何もしなくても――
『マコトさん、聞こえますか』
待てよ、何だ今の声は。聞き覚えがある。脳内に響く、女の澄んだ声ってこれ、まさか……
『お久しぶりです。私は女神です』
「女神様! ……マジか、ほんとに久々だぜ。せっかくだからあんたに色々と聞きたいことがあって」
『マコトさん、貴方がずっと気にかけていた事をお話しましょう。この世界に転移させた目的です。それはドラゴンを討伐することなのです』
「ドラゴンを?」
今さら目的の話かよ。ヒロやタカオ、ツトムのことも聞かねぇとなのに。俺がこの世界に来た目的はドラゴンを倒すこと、か。
『はい。ドラゴンは厄介者です。ドラゴンさえ討伐すれば、貴方のこちらの世界での任務は完了となります。では、ご武運を』
「お、おい嘘だろ早すぎる! ちょっと待て!」
相変わらず突然の別れ方。もう返事は無い。女神様自身がこんなこと言うんだ、ドラゴンが『神獣』だなんて嘘っぱちじゃねぇか。
そこへ、騒ぎの野次馬になってたプラムがこっちへ走り寄ってくる。
「マコト今、何か喋ってなかった!? 頭でも打った!?」
「い、いや、大丈夫だ。プラム、俺はドラゴン討伐へ向かう。ジャイロは? ジャイロはどこに――」
目的ってんならやってやると思い、ジャイロを探す。ようやく見つけるとあいつは馬に乗って、
「オレが討伐する。ジャイロ・ホフマンの英雄伝説は、ここから始まるのさ!」
「ま、待てジャイロ! 俺も乗せてくれーっ!」
猛スピードで駆け出しちまって、姿も見えなくなる。なんてこった。さっき見たところだとあの馬はこの村の最後の一頭だったが。
そこへ、
「伝達鳥は来たか、警戒せよドラゴンだ! ドラゴンが動き出したぞー!」
たくさんの騎士達が馬に乗ってやってくる。王都の方から来たな。その中の二人の男が馬から降り、俺に近寄ってきた。
「ぜぇ……ぜぇ……マコトに、あの時助けてくれたお嬢ちゃん。ここにいたのか。一応言っとくと……俺はレオンだ。ジャイ坊がここにいるって聞いたが本当か?」
「おじさん、それってジャイロのこと? だったらもう行っちゃったよ」
「そうなんだよレオン。俺も向かいたいんだが……」
「行っちまったか……すまんがお前らを気にかけてる暇が無くてな……ぜぇ、ぜぇ……実は魔物の巨大な群れも、王都に向かって来てると判明したんだ」
「えー!? 群れ!?」
鎧で誰かわかんねぇと思ってたが、自己紹介サンクス。なんか息を切らしてるレオンだった。
話の流れ的にドラゴンと別の方向からも群れが攻めてきてるってことだよな。そんなの騎士団だけで対処できんのか?
「あぁ……すまん、ちょっと座らせてくれ……北の森の先にある洞窟でドラゴンを確認して、走って王都まで戻り警報を出させて……今度はここまで馬で来たんだ。四十歳にはキツいだろ……」
すげぇな、何キロメートルマラソンだよ。いやトライアスロン的か? もはや拷問だろ。
しかもこいつ、ついこの前ヒロに横っ腹を切り裂かれてたよな。何だかんだで丈夫だな。
――でもレオンが毎日ドラゴンを監視してるっての、ちゃんと役に立ったじゃねぇか。
「はぁ……お、王都の方では……ってもうダメだ。アーノルド替わってくれ、息が続かん」
隣にいたのはやっぱアーノルドか。どうやら若者にバトンタッチするらしい。
「先輩、無理しないでゆっくり休んでください。要はドラゴンより群れの方が王都に近いんすよね。だから群れの担当ってことで王都にてウェンディ先輩とか、魔術師団に待ち構えてもらってます」
「じゃあ騎士団のほとんどはドラゴン担当って感じか。ドラゴンが王都に向かって来てるなら、お前らはどうしてここにいる?」
いくらドラゴンが王都に着くまで余裕があると言っても、ジャイロのためだけに何十人もの騎士がこの村に寄るってか? あり得ないよな。
「それはですね……あれ、何だっけな」
「おいアホ、ぜぇ、ぜぇ……もう忘れたのかアーノルド! ドラゴンに対抗するために『エクスカリバー』を取りに来たんだよ! げほっ!」
「すんません、そうでした! 先輩は無理しないでゆっくり休んでください」
「お前が俺に無理させてんだアホ!」
えくす……かりばー? 聞いたことあるな。いつも、強い剣とか伝説の剣みたいな扱いだった気がするが。
「エクスカリバーっていう『この世に二本と無い伝説の聖剣』が、フェルト村の地下にあるらしいんすよ!」
「「えぇー!?」」
プラムと二人、叫んだ。
湖があって釣りにピッタリな、こののどかな村の地下に――伝説の剣があるのかよ。




