#110 魔王と騎士王と、おっさん
エバーグリーンは剣を握る手に力を込める。ぎゅっと、血がにじむほどに。
バーで話してた。彼の目的はもう一度魔王を討伐すること。ツトムが本当に魔王なら、ターゲットは目の前だな。
黒き翼で宙を舞い、剣に闇を纏わせるツトムもまた、エバーグリーンを睨み続ける。
さっき「奴を倒した」みたいに言ってた気がするが、奴ってのは魔王か? どういうことだろう。
「せっかくだし……あんたの強さも見てやるとしよう、エバーグリーンとやら」
――ふと、ツトムは急降下し、地面スレスレを這うように飛行したままエバーグリーンに斬りかかる。
エバーグリーンも剣を振るい、互いの斬撃がぶつかり合う。
「うおぉ!」
刃のぶつかり合いによって生じた風圧が、俺や周りの植物を吹き飛ばした。すげぇ迫力だ。
エバーグリーンはバックステップ、同時にツトムも再び空へ。
魔王は闇の球体を空中に五つほど生み出し、手を横に振るえば全てエバーグリーンに向けて発射される。
「――小賢しい!」
が、投げられた彼は軽く全部斬り裂いちまう。そのまま大ジャンプしてツトムの元へ一直線。
空中で縦に振られる剣。ツトムも剣でガードするが、エバーグリーンの斬撃の重みに耐えかね、地面へ叩き落とされた。土埃が豪快に舞って何も見えん。
「お、やったか!?」
……ってヤベッ! 土埃からの「やったか!?」の流れで敵死んだことねぇよ! 俺フラグ立ててんじゃねぇか!
俺のせいかは知らんが案の定、土埃の晴れた草原にツトムの姿は見えなかった。
「とりあえずこの場はなんとかなったが……あいつ、たぶんまだ生きてるよな?」
「ああ、近くに気配を感じる。だとすると、王都が危険だな。急ごう」
▽▼▼▽
門番に事情を伝えないまま門を二人でくぐり、王都内をひた走る。俺には心当たりがあった。
「あの野郎、俺を騙してヒロとタカオの居場所を聞き出しやがったからな。きっとあいつらを解放しに行くんだ!」
「ヒロとタカオ……というのは地下牢に最近入れられたあの二人のことか? 確かヒロはジャイロを、タカオはウェンディとルーク君を負かしたというが……」
「そう、そいつらだよ。チクショー! あいつが魔王だとすぐ気づければ!」
完全に俺がやらかしたミスだ。ヒロとタカオを生かしたのも俺の判断で、ツトムを助けようとしたのも俺。最悪だ。
「誰にでも失敗はあるさ、マコト君。終わりが良ければ全て良しだと言う。だったら終わりを良くしようではないか」
エバーグリーンの言う通り、今ウジウジ考えてても仕方ねぇな。その言葉は真摯に受け止めよう。
走りに走ってどうにか地下牢まで辿り着いた。
「あ、そうだ外の扉に鍵が――」
「ぬぇぇいッ!!」
まだツトムが中にいるかもわからねぇのにエバーグリーンは床の扉をぶち破り、強引に侵入。
手前から二番目の檻に入ってたはずのヒロは、
「クソ、遅かったか……」
既に消えていた。
その後どこを探しても、氷漬けだったはずのタカオの姿もなくなっていた。




