#107 森の中の少年
こんな魔物だらけの場所で堂々と寝てて大丈夫なのか。ってか生きてるのかよ、あの少年。
ひとまず駆け寄って意識があるか確かめようとするが、
「うぅ……ん? あれ、あっ、ここは……?」
「起きたか。ここは北の森だ。お前、何者だ?」
予想以上に早く目覚めた……ふぅ、死んではいねぇか。ここの場所がわかってねぇってどういう状況だ。
「僕は……あれ……? 名前がわかりません、ごめんなさい」
「なに、わからないだと? また新たなパターンだな。女神様は何やってんだよ……」
もうリアクションからして記憶喪失っぽい。女神様と話してすらいない感じなのが、どうにも不可解だな。
見た目は十七か十八歳ってとこでヒロと同じような歳。学ラン着てるから学生は確定。黒髪でメガネを掛けてるが、ガリ勉とか優等生とかの真面目タイプだったんだろうか。
「まぁお前もどう見ても日本人だわな。俺はマコト、お前と同じ国で生まれた。だがここは別世界らしいぜ」
「べ、別世界ぃ!?」
その新鮮な反応、初めてここに来た頃が懐かしくなってくるぜ。
▽▼▼▽
思えばこの少年が三人目に出会った転移者だな。前の二人はどういうワケかどっちもやべーヤツと化してたから、まともに話ができて嬉しい。
が、日本で生まれたってことさえ覚えてないから、地元トーク的なのはできない。俺はそういう星の下に生まれたってのか。
「別の世界……この僕が、別の世界に……どうしても信じられないなぁ……」
「最初はそんなもんさ。とりあえず立てよ」
少年に手を差し伸べる。彼は俺の手を掴み、割とスッと立ち上がった。
――ん? 何か、違和感が……!?
いやいや、気にする必要はねぇだろう。まずはこいつをどうするかだな。サンライト王国には俺の紹介で入れるのか?
「えぇっと……『にほん』? って言いましたっけ? で、ここは別世界で……あなたも飛ばされてきて……?」
「あ〜、後にしよう。この森は魔物が多いから長居するべきじゃねぇんだ。俺もちょうど用事が済んだし、安全な所に行く。それから情報を共有し合おう」
「まっ、魔物? もう訳がわかりませんって……」
そりゃそうなるわな。慣れってのは恐ろしい。俺は強引に少年の腕を引っ張り、森を出る。王国の方へ向かえば、何とかなるだろ。
――やっぱり、変な感じがする……!!
さっきから感じるこれは……少年に触れると毎回感じるこれは……なんだ? よくわからないが、変な違和感を覚える。
いやいや、気のせいだと自分に言い聞かせる。そう。気のせいだ。俺はいつも考えすぎなんだよ。バカ。
「すみませんマコトさん。今どこに向かってるんですか?」
ほら、手を離してもちゃんとついてくる。ヒロとは全然違って、素直で礼儀正しい良い若者じゃねぇか。
「今な、サンライト王国って国に向ってる。壁に囲まれてて安全なんだ。俺もそこに住まわしてもらってるんだけどな」
「へぇ〜……そこに住んでる人達は、『にほんじん』じゃないんですか?」
「違うんだよなぁ。ここは異世界だから、俺達とは顔立ちとか名前が全然違う。科学技術も発達してないが、代わりに魔法とかファンタジー要素がある。ありまくりだ」
まぁ日本とか名前とか科学技術とか、この少年は何も覚えてないらしいから、何だろうとウェルカムな状態だろうけどな。
「じゃあマコトさんが出会った『にほんじん』は、僕だけってことですか?」
「いいや最近会った。二人な。でも話が全然通じないサイコパスどもだったから、実質お前が一人目みたいな気分だが」
「話が通じない……ですか? その二人はどうしたんですか?」
「ああ、仕方なく俺が倒した。んで今は王国の地下牢に入っちまってるよ。自業自得なんだけど」
他の転移者に随分と興味があるようだな。もっと他に聞きたいことありそうなもんだが……
「さ、もうすぐだ。腹減ってねぇか?」
「今のところは……」
高い壁がだんだんと迫ってくる。門番がこいつ入れるのを許してくれりゃいいんだがなぁ。




