#106 新たな力
「ニ日、ねぇ」
そう、ニ日だと聞いた。ニ日間も俺は眠っていたらしい。もちろん診療所のベッドの上でだ。起きてからも丸一日安静にして、今日やっと退院できた。
大げさに世話になるのは、これで三回目だよな。だが今回はイビキすらかかなくてみんな心配してたそうだ(看護師談)。
「今回のは特別ブチのめされたからな……」
タコ足で散々振り回され叩きつけられた挙げ句、あの《エネルギー波》で丸焼きにされた。
――が、最終的には焼き尽くされた直後に、俺はもう一度立ち上がって『白い煙が出る拳』でタカオをぶん殴って勝利したらしい(昨日、もう完治したからとお見舞いに来たルーク談)。
信じられん。なんとなく起き上がった気はしなくもねぇが、そりゃほぼ無意識状態だ。
「『白い煙』となると、やっぱどう考えてもアレだよな。オーラのことだよな」
今まで白いオーラってのは何回か見たが、それは全身から湧き上がるようだった。だがこの前のは『拳』限定なんだ。
随分と強力だったって話だからな、使いこなしてみてぇ。また化け物みたいな転移者が来ないとも限らん。
それを確かめるため、そして放置中だったランクアップの依頼を完了させるため。ガーゼに包帯に縫われた針だらけの俺は今、
「外出するなって言われてるが、三日間も病院詰めで体がなまっちまうぜ。一石二鳥なんだし許せよ?」
北の森へ歩いている途中だ。
▽▼▼▽
北の森へ踏み込んだ俺を、初っ端から歓迎してくれたのは一体のリザードマン。マジで魔物だらけだな。この森いつもこんな物騒なのかよ。
「シャアアッ」
「拳に……力を……溜める感じで……」
向ってくるリザードマンの方向へ、右の拳を振りかぶる。『ため技』のイメージで力を入れ、放つ!
「シャガッ!」
顔面にヒットしリザードマンは転がっていく。振り抜きっぱなしの拳を見てみるが、オーラも煙も無しだ。
いったいどういう条件でできるんだろう。体の調子がまだ整ってねぇのかもしれんしな。
そうこうしてると、
「ゥゥオオオオ!」
お目当てのオーガ登場だ。そうなんだ、ヒロとタカオにめちゃくちゃ時間取られちまったが、ずーっとこの依頼受けっぱなしだったんだよ。
俺を見つけた途端に咆哮を上げたオーガは、それ以上の予備動作も無しに突っ込んで来やがる。
「ちょ、待て待て! お前気が早いぞ!? ほら俺まだなんにもやってな――」
「ゥオオオッ!」
振り上げたでっかい棍棒を、上から思いっきり振り下ろしてくる。
「やめろってこの野郎!」
たった今俺の体の左側にあった右腕を、腰を捻って右へ大きく振るう。ヤケクソだ。
すると白いオーラを纏った拳槌が、棍棒を木っ端微塵に破壊した。
「オォッ!?」
「あれ、できた!? ヤケクソで今できた!? なんだよこれマグレじゃねぇだろうなぁ!」
真面目に取り組んだらできなくて適当にやるとできちゃう。あるある、だよな?
だがなんとなく、もうヤケクソでやっても成功しない気がする。一度それに気がついちまったからな。
「だったらクソ真面目にいくとするぜ」
割れた棍棒を捨て、素手でかかってくるオーガ。俺はそれを睨みつつ、何度もやったことのある『全身にオーラを漂わせるヤツ』を実行。
そして出てきたオーラを、全身から徐々に拳一点へと流していく。オーラの動かし方なんて知らねぇからイメージでなんとかするしかねぇ。
「手に集まり始めた! もう少しだ……もう少し!」
イメージ通りに流れていってくれる白いオーラ。《超人的な肉体》は俺に忠実なんだか反抗したいんだか、わからん。
「ゥオオオオオオ!!」
走ってきて、目の前で跳び上がるオーガは両手を頭の上で組んでて、それを着地と同時に叩きつけようとしてるらしい。
「やってみろよ。俺も準備万端だ!」
ヤツに対抗して俺も跳び、
「ヒロとタカオの憂さ晴らし……くらえ、怒りの鉄拳!!」
オーラを纏った右拳がまっすぐ発射される。軌道上にあったオーガの頭は、何の抵抗もなく弾け飛んだ。
首なしになった巨人は落ちて地面に叩きつけられ、対して俺は華麗に着地。
「よし! まだ準備に時間がかかりすぎるが、鍛えればこりゃすぐモノにできるぞ!」
さて、これにて依頼完了ってワケだが。
長いこと放置した罪滅ぼしじゃねぇけど、もう何体か魔物――できればオーガを狩りたい。
「練習もまだしてぇし……ん?」
酷使した右腕を回していた俺が見つけたのは、森のド真ん中で倒れている少年だった。どうしてこんな危険な所に?
しかも。
「まさかあれって……メガネに、学ランか!?」
またもや日本人っぽいぞ。




