#104 クトゥルフ vs 武器ガチャ
みんなが、絶句してるのがわかる。
俺のことを殺した気で調子に乗ってたタカオ。遠くで見ているしかないウェンディ。俺の生存を必死で願っていたルーク、ミーナでさえもだ。
「……おいおぉ〜い、今まで気づかなかったがその体力もどうやらお前の能力らしいなぁ〜……よしよしぃ〜、わかったぜぇ? わかったわかったぁ〜……」
タカオのヤツは《超人的な肉体》を疑ったりしてなかったのか。おかしいな、持ってるのかと思ってたが。
二択だな。あいつは持っていないか、あいつも持ってるがとんでもないアホなのかのどちらか。
――後者、かな。
「俺様の《クトゥルフ万歳!》って能力の真骨頂を見せてやらぁ〜……路地裏でチンピラに実証済みだぜぇ〜?」
もう、あいつの言葉なんかどうでもいい。ぶっ倒す。それしか頭に浮かんでこない。
――というのも。ヒロと戦ってから一日ちょっと経ったワケだが、それじゃあさすがの俺でも全回復は無理だ。疲れも残ってる。
少し無理をしてヒロの牢屋へ出向いたんだ。まさか、こんなことに巻き込まれるとは。
つまりこれは『連戦』と変わり無い。なのに大ダメージの連続ときて、俺の体が悲鳴を上げてるのが現状。
早めにケリをつけねぇと。
「旧支配者を、ナメんなよぉ〜……?」
ねっとりと、いつもより更にねっとりと言い放ったタカオ。ヤツの体に変化が起き始める。
顔がだんだんと緑色っぽくなってきて、顎が無数の触手へと変貌を遂げる。ウネウネしてやがる。
手も緑になって、袖から何本も触手が這いずり出てくる。
「はぁ……クソ、八本じゃ足りねぇってか……?」
「足りないねぇ〜!! まだわかんねぇのぉ〜? 俺様、欲望の塊なんだよねぇ〜ぇ!!」
「俺と似て……うるせぇヤツだ……さっさとかかってこいよ、どうせやるんだろ……?」
タカオは緑の顔で、満面の笑みだ。マズいな。もう俺がフラッフラだと気づかれてるのか。
「じゃ遠慮なくぅ〜っ!!」
何十本かに増えた触手が、ほぼ全部俺の方へ向かってくる。腹を括るしかねぇ。俺はチェーンソーを、今度は二つ生み出した。
「おおぉぉぉ――!!」
両手に稼働するチェーンソーを持ち、腕を広げ、そしてその場で回転をスタート。そう。俺がぐるぐる回るのさ。
俺を取り囲むように迫る無数のタコ足が、回転を続ける二つのチェーンソーに吸い込まれていく。
「う、嘘だ嘘だぁ〜!! そんな簡単にいくわけがぁ〜!?」
俺は回りながら徐々に歩みを進める……徐々に徐々に、迫る触手を伐採しつつ、タカオの方へと。
「来るなぁ〜っ!!」
そして、刃が届く距離に。
「やめろぉ〜!!」
回転を止めないまま、俺は二つのチェーンソーの刃でタカオの胸と腹を切り裂く。
「うぼぁッッ!?」
もう全身緑色で半ば海坊主みたいになってるタカオだが、皮膚が裂ける胸と腹、そして口から逆流して飛び出すのは赤黒い普通の人間の血だ。
俺は早々に二つのチェーンソーを投げ捨てる。タカオに動きが無くなったからだ。
予想通りその瞬間、普通の人間の肌色に戻ったタカオは後ろに倒れ、気を失っ
「何すんのよぉ〜、いてぇじゃねぇのぉ〜……!」
上半身を起こして背中から二本の触手を飛び出させ、即座に俺を捕まえやがった。
「な……そんな。いくら《超人的な肉体》でも……強すぎねぇか」
「なんだぁそりゃ、お前の能力の名前かぁ〜? 残念だねぇ〜《クトゥルフ万歳!》だって超人みたいな体力あるぜぇ〜?」
いやいや待て、《超人的な肉体》無しかよ。『さすがの超人でもチェーンソーでやられたら気絶するだろう』ってさっきまでの俺の考えはどうなる。
タカオ=クトゥルフの体力は俺=超人よりも断然多い……気絶しねぇどころか元気いっぱいじゃねぇか……
「ずぅ〜いぶんと俺様のもう一つの能力が気になるらしいねぇ〜」
捕まえた俺を空高く掲げながら、ねっとりと言うタカオ。
「じゃあ教えてやるぜぇ〜。ズバリ、《エネルギー波》だぁ〜!」
エネルギー……波……?
「んま、大体わかんだろぉ〜、どんな能力かくらいよぉ〜……だって今から味わうんだからなぁ〜! あっ、そうか! 死ぬから味わう暇ないねぇ〜、悔しいのぉ〜悔しいのぉぉぉ〜〜〜!!」
最悪だ。上に向けられたタカオの両方の掌から、青い半透明の球が現れる。なるほど《エネルギー波》か。
「あばよぉ〜!!」
もう抵抗できない俺に向かい、タカオはその球を投げつける。俺は正面からそれを受けるしかない。熱い。痛い。苦しい。
懲りずにタカオはどんどんエネルギーの弾丸を作り、投げてくる。何度も、何度も、何度も、何度も――
とっくのとうに消えかけだった俺の命の灯は――もう。
「マコトさん……ご無事で!? 遅れてすみません、はぁ、はぁ……ミーナさんとウェンディさんを安全な所に連れて行ってて……」
「遅すぎたねぇ〜、ヒョロ男くぅ〜ん。もうマコトは死んじゃったよぉ〜!!」
「そんな……嘘だ! マコトさん……そんな、黒こげで……嘘だと言ってくださいよ……」
「もうこれは無理だねぇ〜、真っ黒コゲなんだもんよぉ〜っ! ヒャアッッハハハ!」
――なぐり、たおす。
「……え?」
――あいつをなぐる。
「……え、えぇ!? なんでぇ〜!? なんで、なんで、なんでなんでなんでぇ〜っ!?!?」
――もう、ゆるさん。
「あいつ、また立ちやがったぁ〜!? お前ゾンビだったのぉ〜!? ねぇこれもうゾンビだよねぇ〜っ!?」
「マコトさん……あなたは、いったい……」
全身が、エネルギーの弾丸に焼かれて、熱い。苦しい。たぶんもう俺は生きてない。だけど俺は倒さなきゃならない。こいつ、だけは。
俺はほぼ死んでるのに、なんだ? 手から白いオーラが。何かに『強制的に立たされている』感覚がある。
「えぇ? ちょちょちょ、どうなってんのぉ〜!? これ逃げないとやばいってぇ〜!! ……なのに、なんで俺の足動かねぇのよぉ〜!」
「よく見てください。僕が凍らせたからです。『卑怯だ』と、いくらでも罵ってくれて構いません。何を言われようとも――僕と、そしてあなたの負けは決まったので。僕らは負け犬ですよ、タカオさん」
ルークの言葉が、聞こえる。あいつの叫び声も聞こえる。あいつの声は、耳障りだ――!!
「やめ―――――ごぉッ!」
全てを賭けた一発。白いオーラを纏った右ストレートが、タカオの顔面にめり込む。俺ももう倒れるが、この一発が……長かったゾンビ対決にピリオドを打ったのは事実だ。




