#103 開戦
「マコトぉ〜……お前のは武器を作り出す能力とかそんなところかなぁ〜? そりゃ単純なクソ能力だなぁ〜っ!! 俺様のは《クトゥルフ万歳!》ってやぁ〜つ」
「くとぅるふ? 聞いたことあるが、とにかく触手を出す能力か。そっちの方が単純じゃねぇかよ」
しかし、さっきの俺の蹴りを受けてもピンピンしていやがる。それはもう一つが《超人的な肉体》ってことなんだろう。
懐かしい話だが女神様は確かにこう言っていた。
――かなり当たりやすい能力だ、とな。
だから俺はヒロと戦った時もそれをずっと気にしてたんだ。結果ヒロは持ってなかったけど、どうやらこいつは持ってそうだな。
《超人的な肉体》は名前の曖昧さもあって、まだまだ無限の可能性を秘めてる。長期戦も覚悟しねぇと。
「とにかく激カワミーナちゃんはお前には渡さんぜぇ〜!」
「これでもか?」
無手の俺が新たに生み出したのは、チェーンソー。カエルの時以来かな。
「ひえぇ〜っ!? そんなのまで出せちゃうのかよぉ〜!? だがクトゥルフちゃんの触手ちゃんをナメんじゃねぇ〜!!」
一瞬チェーンソーに驚いたようなタカオだったが、すぐに気を取り直して触手を動かす。三本が俺の方に突っ込んでくるが、
「だらぁ!!」
振り回された回転する刃が、緑の触手を三本とも粉微塵に切り裂いた。なんか汁が飛んでキモい。
「んなぁ〜ッ、クソ痛ぇ〜!」
タコ足がダメージ受けると、持ち主もいちいち痛みを共有するらしい。それ考えると武器ガチャ能力の株がもっと上がりそうだ(使い勝手の良さ的な意味で)。
「でもどうせ再生すんだろが、おらおらァ!」
「ぎゃあぁ〜ッ!!?」
今度は俺が飛び上がって、他のうねる触手を積極的に切り裂いていく。
もう少しでミーナを捕まえてる一本に届く、もう少し、もう少しで――
「はぁい捕まえたぁ〜!!」
「うぐ、この!」
「あぁ〜!?!?」
俺の足と腹に、再生した触手が絡みついてきて動きが封じられちまう。が、完全に封じられる直前にチェーンソーをぶん投げて、
「きゃ!」
見事、ミーナを捕える触手に命中。重力に逆らわず落ちていくミーナだが、
「……うぅっ!」
「……ひゃい!? ルル、ルルルーク様!?」
ボロボロの体で飛び込んできたルークがナイスキャッチ。あんだけ叩きつけられたんだ、動くだけでも辛いだろうに。よくやった。
「ご無事でよかった……安全な所へ……ハァ、ハァ……行きましょう、ミーナさん」
「だ、大丈夫です、歩けます!」
お姫様抱っこみたいな体勢で抱えられる、頬を赤らめたミーナ。彼女の本心を知ってると、永遠に見ていたい光景だけども――
「……ぐぅお!」
触手に捕まった俺は近くの民家の壁に叩きつけられていた。たぶん後頭部から流血してるが、ハンマーか何かの気分だ。
「そぉら行くぜぇ〜!? お前ぇ俺様のことナメすぎなんだよぉ〜〜〜っ!!」
逆さで吊られた状態の俺をそのままに。タカオは俺を捕まえる触手を自らの脇に抱え、自分を軸にジャイアントスイングを始めやがった。さしずめハンマー投げだな。
ああ、目が回る。やばいものすごい高速で回ってる、これ触手が俺を離したら――
「ほぉ〜らよぉ〜!」
「ぬあっ――」
離し、やがった。
俺は空中をとんでもないスピードで飛ぶ。と言っても全く制御は効かない、坂道をゴロゴロ転がるのと同じでもう止められねぇんだ。
視界が青空を映したり、王都の街並みを映したり――吐きそうになるが、吐く暇は無かった。
――ドッ。
王都と外界との境界線としてそびえる、高い壁。街を守るためのその壁に、俺は突っ込んだ。
……これ、さすがに死んだんじゃなかろうか。
普通の人間なら確実に死ぬ。地上の、しかも真ん中の方の住宅街で戦ってて、投げられたと思ったら、王都の端まで飛んできたんだからな。
――だが俺は死なない。死ねない。
聞こえてくるんだ。
「ヒャアッハハハァ〜!! アァッハッハッハ、あいつも弱ぇ〜なぁぁ〜デカい口叩いといてよぉ〜!! アッハッハァ〜……」
甲高くて、虫唾の走るような笑い声。
いや、それより。
「マコトさぁぁぁん!! 僕は……僕は信じてます!!」
仲間の声だ。
▽▼▼▽
「あぁ〜全く……面白くてしょうがねぇよぉ〜。見たかよ今のシュールなのぉ〜? 人形みてぇに無機質な飛び方だったなぁ〜!」
「げほっ! マコト……さぁん!! いいんですか!? あなたはまだ、自分のこと何も知らないまま……ごほっ!!」
「無駄だ無駄だぁ〜! ありゃ死んでるよぉ〜、死んでなきゃおかしっ――!?」
顎が外れそうな程に大口開けて笑ってるタカオが言葉を切った理由、ルークとミーナが息を呑んだ理由。
それは単純明快。
「誰が死んだって?」
血まみれの俺が、歩いてここまで戻ってきたからだ。




