#101 三人目の転移者?
「何なんだこの状況は……」
とにかく狼狽えちまう状況なんだが。
第一に、あのタコ足を……背中から八本か? 生やしてるあの男はいったい何者だ。
髪形は黒のロン毛で、なんか整えたり洗ったりしてなさそうだ。無精髭も酷いもんだし。服装は緑のトレンチコートっぽく見えるが、こっちも随分と汚い。シミとか泥とかでもはや緑に見えねぇくらいだ……
年齢的には三十代後半ってとこか?
第二に、
「ヒャハァ〜!! 俺様サイコーだぜぇ〜!!」
「うっ……!」
ルークがあそこまでボコボコにされるなんて、信じられん。タコ足に捕まって叩きつけられまくってる。
いつだか、料理長ロディと戦った時も吹っ飛ばされてはいた。でもその直後のあいつは、窓を修理しつつ余裕で俺の戦いを見物してたらしい。ただちょっと不意を突かれただけのことで、負けちゃいなかった。
しかし、これはどう見ても――
「そこに……いるのは、マコトか……?」
「え!? なっ、ウェンディ!?」
いかん、全く気づかなかった。すぐそこに、壁にもたれながら座るウェンディがいた。なんか疲れてるみてぇだが……
「おいおい、何があったんだ? てか何が起きてる? 説明してもらうことってできるか?」
「……私と、魔術師団の使用人のミーナ氏が……あの男に捕まり……ルーク氏が助けに来てくれたのだ……」
「ん? ミーナ!?」
もう一度、あの戦いの場に目を向ける。うねり暴れるあの触手を一本ずつたどってみると、いた。
「本当だ。正真正銘ミーナだ。あいつ戦えねぇだろうによく生き延びてるな、大したもんだぜ」
よくもまぁ、こんなに俺の知り合いが集まったもんだな。
「ああ、彼女は……誰よりも勇敢だ。ルーク氏は彼女を助けようとしているのだが、いかんせん上手く運ばないらしく……」
ウェンディは一度あの触手に捕まったらしいが、今はここに座ってる。状況的にきっとルークに助けてもらったんだろう。
しかしだいぶ体力を削られてかららしいな、助かったのは。
「……ルーク氏は最初、優勢だった……氷の魔法で次々とあの触手を切り飛ばすのだが……切っても切っても再生する触手の権能に、次第に押されていき……」
「で、今こうなってると。マジか再生……面倒くさいヤツだなぁ、その能力」
だが、なんとなくあの野郎の正体はわかった気がする。
――たぶん転移者だ。この世界において特殊すぎる『能力』、異世界人を圧倒しまくるその『強さ』はヒロと似たものを感じる。さらに『黒髪』に『トレンチコート』ときてるしな。
「よし、お前は休んでろウェンディ。俺はちょっとルークに加勢&タコ野郎と話し合いに行ってくる」
「……そうか。ルーク氏を圧倒するとは……並大抵の強さではないぞ。気をつけろ、マコト」
「おう」
今まさにルークが痛めつけられている現場へ歩いていく。まさか、ヒロの二の舞にはならんだろ、落ち着け俺。
「よーう、ようよう! その能力イケてるじゃねぇか! お前、名前は? ひょっとして転移者か? 俺マコトってんだけど――」
「んマコトぉ〜〜〜!?!?!?」
「は?」
空中のルークをブンブン振り回しつつ、自分は落ちてる果物を食い漁ってる……そんなロン毛の汚らしい男が急に叫んだと思いきや、俺の足に触手が絡みついてきやがる。
いつの間に近づいてたか知らねぇが、
「うお」
「死ねや、マコトぉ〜!!!!」
触手のすげぇ力にグイッと足がもってかれる。一瞬宙吊りの状態になり、振り上げられたと思ったら――
「ごべふッ!?」
ルークと同じように、地面に叩きつけられた。




