??? 欲望のままに
この世界に来て……何日経ったんだっけ。
日本から急にここにやって来た日――『女神』と名乗る女から『タカオ・ディザイア』という名前、そして二つの能力を貰った。
「で、『魔王に仕える者として、帝国へ向かえ』……だったっけかぁ〜?」
んなこと言われたって『魔王』ってのが何なのか全然わからんし、『帝国』ってのがどこなのか見当もつかん。
それに何でこの俺様が誰かの部下にならなきゃならんのか、意味不明だ。
――さんざん貢いだ女に裏切られ、酒にパチンコに溺れて、結局は一文無しのホームレス生活……あの世界からようやっと解放されたってのに。
「行く当てもなく、ただ歩いてたどり着いたのがこの『なにがし王国』……ってかぁ〜? 能力無かったら入れなかったぜぇ〜?」
門番が入れてくれなかったんだよな。『国民証』がどうとか言って、どいつもこいつも俺様の知らない言葉ばっかり使いやがってよぉ〜。
だから俺様は能力で壁を登るハメになっちまった。
「で、着いたと思ったらここは汚ぇ路地裏ときたもんだよぉ〜」
「……おい、おっさん見かけねぇ顔だな。大方、貴族とか王族だったのが領地を追われたとかじゃねぇの?」
「お! ってことは金持ってんじゃね!? なぁどうなんだよ!? 出せよオイ! 俺達が怖いんだろ、なぁ!?」
なんだ、またか? またチンピラだよ。もう見飽きたぜ。
「いや怖くねぇけどよぉ〜、面倒ではあるなぁ〜。さっきからウザいんだよねぇ〜、こいつら絡んできてさぁ〜?」
「なっ……!?」
二人組のチンピラは俺様が作った死体の山を見て、絶句ときたもんだ。
今まで影に隠れてて、見えなかったのかね?
「それがよぉ〜、絡んでくるチンピラ多いんだよねぇ〜。ざっと十五人はブチ殺したかなぁ〜とは思うんだけど」
「や、やべぇ! なんだこいつ!?」
「イカレてやがる、ずらかるぞ!」
おいおいそれはねぇだろぉ〜、こんだけこの俺様に絡んできたお前らが、俺様に無許可で逃げ出すだと?
――いやぁ〜、許さないね。
「ぐっ……!?」
「がっ……?」
「やっぱいいねぇ〜、この能力。ゾクゾクしてきて俺様にピッタリちゃんだぜぇ〜!」
俺様の背中から飛び出した滑らかで強力な触手が、逃げる二人組の首を捕まえて締めつける。
ヒュ〜! イケてるだろぉ〜この能力ぅ〜!
「おま……どうなって……る……助け……」
「お? お? 助けて欲しい? 助けて欲しいのかなぁ〜チンピラ君〜?? ……どうしよっかなぁ〜!? 助けちゃおっかなぁ〜!?」
「苦じ……ぐる……し……おねが……」
「はい決めたぁ助けましぇ〜〜〜〜〜ん!!」
――ボキッ、ベキッ!
「た〜〜〜のし〜〜〜ぃ!!」
▽ ▽
はぁ、二十人くらいぶっ殺したらさすがに疲れて、腹が減ってきたなぁ〜。
とりあえず大通り出てみるか。触手は背中にしまって。
「お、ありゃ果物屋かなぁ〜? 美味そうなの色々あるがぁ〜……」
な〜んか見たことない変な色の果物がたくさんある。また俺様の知らない物だな、一個も〜らお。
「ちょい、そこのおっさん! そりゃ銅貨五枚払わなきゃ買えんぞ? まさかこの俺からドロボーする気――ぐえっ!?」
店主だろう中年の男がペチャクチャうるせぇんで首を締めて持ち上げてやる。もちろん背中の触手で。
なんか近くで何人も女が悲鳴を上げてるな。ったく民衆ってのはどの世界でも耳障りだなぁ〜。
「うぐ……苦しい……なんだお前、何を……」
「うるせぇっつってんのぉ〜、わかんねぇかなぁ〜? もうこれ、俺様の食いモンだろうがよぉ〜!」
首締められてるってのにまだ喋るジジイ。んじゃあ、出血大サービスだぜぇぇぇ〜!
――ガシャァン!
「うわー、化け物だぁぁ!!」
「キャー!」
うねる八本の触手を大暴れさせて、果物屋をボッコボコに破壊してやった。陳列されてた果物も全部落っこちるが、
「ひやぁ〜、これでぜ〜んぶ俺様の物ぉ〜! 俺様の好き放題ぃ〜! この世界サイコーだぜぇ〜!」
転がった果物に手を伸ばそうとした、その時。俺様の目にあるものが映る。
「メイド服……ブロンドヘア……あの娘、かわいいんじゃねぇ〜のぉ〜!?」
「うぉっ……」
よくわからんが、路地から大通りを監視してる? 俺様とは反対方向を見てやがるから、後ろ姿しか見えない。
思わず店主を放り投げちまう程、気になる。
――さっさと俺様に、顔を見せろ。
「ル、ルーク様……通るはずなのにまだかな――きゃっ!?」
「かっわいいお嬢〜〜〜ちゃ〜〜〜ん!! ねぇねぇ俺様と遊ばないぃ〜!?」
「痛っ! な、何がどうなってるんですかこれは!?」
メイド娘の腰に触手を巻き付け、俺様の前まで持ってくる。予想通りかわいい! この世界サイコーだなマジで!
「名前なんてぇ〜のぉ〜? 教えてよぉ〜」
「ミーナ……といいますが……あなたは?」
「俺様、タカオってぇ〜のぉ〜! 仲良くやろうぜミーナちゃぁ〜んん!」
「……タカオ様……珍しい。どこか、マコト様と響きが似ているような……」
「あ? マコト?」
マコト……まこと……それどう考えても日本人だよな。嘘だろ、俺様以外にも転移者がいて、しかも……このミーナちゃんと、知り合いってか!?
「誰だその、マコトってのぁ〜……? 羨ましいなぁ、畜生がよぉ〜!!」
「あうっ……いたた、痛いです……タカオ、様……!」
おっと、思わず触手に力を伝えちまったか。
――でも、こんなに……ミーナちゃんを……女の子を言いなりにできる。ああ、もっとその苦しんでる顔を……
「貴様! 何者だ、彼女を離さないか!!」
「あ〜ん?」
妙にドスの効いた声だと思ったが、振り向いたら騎士っぽい女だった。紫色の髪で、目つきは悪くて肌は褐色でも、意外と……
「『ふわふわ』って感じのミーナちゃんとは違ったタイプでかわいいじゃねぇかぁ〜、イケるぜぇ〜!」
「う!? なんだ、気味が悪い……」
「女騎士ちゃんもぉ〜、俺のものにしてやんよぉ〜!?」
触手の内一本はミーナちゃんに夢中なもんだから、残りの七本で女騎士ちゃんに愛情注いだらぁ!
「――鬱陶しい!」
「ぎゃあああ〜ぅ! いっでぇぇ〜〜〜!?」
女騎士ちゃんの剣さばきすげぇ、二本も触手が斬られた!
痛みもちゃんと伝わってくんのかよ。女神の説明、この辺は上の空であんま聞いてなかったからなぁ〜。
――しかぁ〜し、心配する必要は無さそうだとすぐにわかる。
「さ、再生するのか!?」
「どうやらぁ〜、そうらしいねぇ〜っ!! はい捕まえたぁ〜!! 残念無念だねぇ〜! 騎士的に悔しい? ねぇ悔しいかいぃ〜!?」
「くっ……不覚!」
斬られた触手は元の形にちゃんと戻って、そのまま女騎士ちゃんの腰や足に絡みついて捕縛、剣も弾いて落とす。この能力強すぎねぇかなぁ〜、ほんとこの世界サイコーだぜぇ〜!
捕まえたその娘を、顔の前まで持ってきて……
「ほ〜らもっとキツくしてやるぜぇ〜、どう、痛い? 辛い? ペロペロしてやんよぉ〜!」
「うぅっ……」
顔を舐め回してやった! イエーイこの世界すげぇ、何でもできるぜぇ!
「名前なんてぇ〜の? 教えてよぉ〜、心配しなくても俺様の女にしてやるからさぁ〜!」
「……なんという辱め……貴様のような外道に名乗る名など、ありはしな――ぐぅうっ、ああぁ!」
外道とは、言ってくれる! もっとキツく締め上げてやらぁ〜!
「この世界では俺様がルールだ!!」
「うぅ、貴様……早く私を殺せ! 悪人に負けてなお生き、その上に辱めを受けるなど……騎士として……ぐぁっ!」
「いいからさっさと名前教えなよぉ〜! そういう適当なこと言ってると、本当に殺しちゃ――」
「そっ、その方は!」
ん〜? 俺様と女騎士ちゃんの会話に割り込んできたのは、どうやら捕まえたメイドのミーナちゃんだ。
「そちらの方のお名前は、ウェンディ様です! だからもうやめてあげてくださいっ! お願いしますタカオ様!」
お、ミーナちゃん勇気出したねぇ! 小さい体なのに、ウェンディちゃんよりお利口さんだな。
でももう、ウェンディちゃんは許さん。このまま少しずつ少しずつ拘束を強めていって……最終的に殺してや――
「――!? どぁぁぁ!? また痛ぇ〜!? なんだこりゃ、氷!? なんで地面から出てきてんだぁ〜!?」
石畳の地面から突き出した氷のトゲが、俺様の触手の一本を切り飛ばしやがった!? なんちゅう状況だ!?
「そこまでです! すぐにミーナさんとウェンディさんを離してください!」
「あぁ〜ん?」
「え、ルーク様!?」
「ハァ、ハァ……ルーク氏……!」
向こうから歩いてくるのは、青髪のヒョロ長い感じの若者。でかい杖を構えてるが、魔法でも使えるってのか。
「おいおいヒーロー気取りかよ、ぶっ殺したらぁ〜!!!」
「あなたもまた、よくわからない言葉を使うようですが……とりあえず話は後ですね」
――俺様の触手は、血を求める凶器でもあるんだぜぇ〜?




