#98 かけちまった情け
――あれ、ここはどこだ。なんか地面が揺れてるような気がする……それにしても腹の辺りが熱いな。
どうやら俺は仰向けに寝かされている。サングラス越しの空は、どうにも視界がボヤけて見えねぇ。
すぐそばで、誰かに呼びかけられてる気もする。やっぱりよく聞こえねぇ。
寝たまま何とか首を上げて、熱くてしょうがない腹を見てみた。
「ま、待てお前ら、ちょっと待ってくれ!」
腹からは大量の血が出てて、それをプラムが布で必死に押さえてやがった。俺は騎士達にタンカっぽいので運ばれてる真っ最中だったワケだ。
血がポンプみてぇに傷から流れ出るのを見て、その痛みも今の状況も全部思い出したんで、とりあえず騎士達を止めた。
「え!? どうかしたんですかマコトさん!?」
どうやらタンカを運ぶ二人の内、俺の頭がある方を持ってたのはアーノルドだ。兜とか被ってると声を聞くまでわからねぇのが厄介だな。
「もう一人は!? もう一人倒れてるヤツがいたろ!」
「……? レオン先輩とジャイロ先輩なら無事に診療所へ……」
「バカ、それじゃ二人だろ! 俺と一緒に倒れてたガキだ……って……まさか、いなくなってたか?」
「あー! いました! 素性がわからなかったので運ぶわけにもいかず、今、他の騎士達が話し合いをしているようです」
ふぅ、もしヒロが消息不明とかだったら恐ろしすぎる。あいつはマジで放っといちゃいけねぇ人間だ。
話の流れからすると、ヒロは死んじゃいねぇな。もちろんあのスープレックスはただの人間の体力でも耐えられるように加減しといたから想定通りだ。
「おい、ちょっとそこの騎士! 俺の頭の方持ってる騎士と交代してくれよ!」
「……は? まぁいいが……」
今このタンカが向かってる方向は王都。進行方向と逆の方に騎士達が集まってる場所がある。きっとあそこにヒロがいる。
その人だかりに向かっていく一人の騎士に声をかけてアーノルドと交代してもらうのには、当然理由がある。
「交代……俺じゃ乗り心地悪かったっすかね?」
「いや。アーノルド、あそこの騎士達に伝えてくれ。あの少年の名前は『ヒロ・ペイン』、レオンやジャイロを斬った危険人物だ。が、俺にもよくわからんがあいつはサンライト王国にとって有用な情報を持ってるかもしれん」
「レオン先輩や、ジャイロ先輩を……!? でも情報を持ってるってことは……『生け捕りにしろ』ということで?」
「そうして欲し……いや、そうするべきだ。牢屋かなんかがありゃ、そんな感じの場所にブチ込んどくとか」
やっちまった。なんだよ俺、結局ヒロのことを見捨てられなかったらしい。
ヒロが王国にとって良い情報を持ってるかどうかは知らん(たぶん何も収穫はねぇだろう)が、とにかくあの『いじめられっ子』は放置してもダメだし、殺すことも俺の良心が許さない。
「アーノルド。俺はかっこいいんだろ? ちょっとでいいから信じてくれよ」
俺にもなんとなくわかる、アーノルドは他人を信用しようとしないタイプだなと。
表面上は明るい若者にしか見えねぇが、それは演技ってワケでもなさそうだ。『そういう人間』として完成してるのかも。
「……まぁ、マコトさんの名前を言ってその話をすればみんなは信じてくれると思いますよ。じゃあ言ってくるっす」
やっぱり自分で『信じる』とは言わねぇんだよな。ちゃんと騎士達の方へ走って行ったところを見ると、ひとまず助けてくれるようだが。
「マコト、おとなしくしてなきゃダメだよ、話しすぎ!」
アーノルドの背を見送ってる俺に喝を入れてきたのは、傷を押さえてくれてるプラムだ。
本気で怒ってる顔だが、よく見るとその手は青白く光ってる……腹に穴が空いてる割には辛くねぇと思ったが……まさか回復魔法か?
「あ、ああ……そうだよな、すまんプラム。こっから大人しくするから」
――後で騎士から聞いてわかった話だ。プラムは大泣きしながら、タンカで寝る俺にしがみついて、自分から『傷を押さえる!』と志願したそうだ。
嬉しいやら申し訳無いやら……




