#0 マコト・エイロネイアー
武器ガチャ、再始動ーー!!
マコト「エイプリルフールだが、嘘じゃないぜ?」
能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑×2)〜こう見えて異世界の救世主なんです〜
という続編を投稿し始めました。と、一応告知しておきます。よろしくお願いします。
日の光にきらめく背の高い草に覆われた広大な草原。そして草原を二つに割るように設置された土の道。その道を馬車が通る。食料を積んでいて、どこかへ届けに行く最中のようだ。
しかし突然、馬車を引く二頭の馬が暴れ出し、歩みを止めた。御者の冴えない男は訳がわからないといった様子だが、すぐにその理由を知り顔を青ざめさせる。
一体の魔物が、木陰から飛び出したからだ。
「うっうわあああ」
魔物とは、とかく人間でも動物でもない危険な生物。自分達以外の生物を常に攻撃対象としている。
現れた魔物は一言で表せば人型のトカゲ。トカゲの俊敏性、人間のような器用さを併せ持つ厄介なヤツ。
「シャアアアア」
トカゲ人間は俊敏な動きで木陰から一気に馬車へと辿り着く。くすんだ白色の幌に張り付き、男を覗き込んだ。
「く、来るな――ひぃぃっ」
男がもう一度驚いた。別の方向からまた新たな魔物が現れたのだ。二体組で現れたそれは人型のイノシシのようだ。それらもトカゲと同様馬車へ向かって行く。
「もうダメだぁ! 殺されるっ誰かぁ!」
己の死を悟った男の悲痛な叫び。トカゲ人間は涎を垂らして男の肉を値踏みするように見ている。イノシシ人間も馬を食おうと近づく。絶体絶命。
――でも心配ご無用。
計三体の魔物に囲まれた馬車。正面から近づいて行くのがこの俺。おそらく四十歳前後。オールバックにした茶髪。サングラス。顎には少々の髭。服装は黒いスーツ、薄い青のネクタイ。ベルトは茶色。それに合わせて革靴も茶色。
ちなみに今、武器なんか持っちゃいない。だが俺は魔物を全滅させてあの男と馬と積み荷を助ける自信がある。
イノシシ人間の一体がこっちを向いた。
「フゴォオ!」
突っ込んでくるイノシシ人間。奴が何か攻撃を企む、そんな暇も与えずに俺は小型のナイフを首の横に突き刺した。
ナイフを抜くこともせず顎を蹴り上げてやり、砕けた顎のイノシシ人間は宙で一回転して、そのまま地面を抉りながら転がっていった。
――え? 武器は持ってないはずだって? 確かにさっきまではそうだったな。
間髪を入れずもう一体のイノシシ人間が怒りながらこっちに。面倒臭いし一発で終わらせようかと、俺は手に持ったチェーンソーで奴の胴体を斜めに切りつける。噴水のように血が飛び出すも、俺は別に血が好きなわけじゃねぇから一発で仕留めた。
「さ〜てあと一体……」
「シャアアッ」
トカゲ人間が馬車を踏み台に跳躍、一直線に俺の方へ。その人間のような手には剣を握っている。さすがの俺も無防備では危険だしチェーンソーを構えてガードの姿勢。だが、
「うおおっ!?」
勢いが思ったより強く、剣撃を受け止めたチェーンソーの刃が粉々に。後ろに飛び退きながらそれを捨て、トカゲも俺を追うようにもう一度跳躍。
俺は空中で木製バットを全力で振り、奴の頭部を横に打ち抜く。
吹き飛んだトカゲはそのまま体勢を立て直し、四肢をすべて使って着地。調子づいた俺も体勢を立て直し、バットを投げ捨て、あいつの方へ走る。そして立ち上がったところのトカゲの鼻面に右ストレート。
「俺が相手とは運が悪かったなお前ら! あばよ!」
笑顔で言い切った瞬間、めり込んでいた右拳からトカゲの顔が離れ、高速でまっすぐに飛んでいく。近くの森の木を何本も折った後、爆音と土埃を上げてようやく勢いが止まった。
▽▼▼▽
「いや〜災難だったな。あんた怪我ねぇか?」
一応聞いたが、今の戦いに相当驚いたのか御者の男の口は開いたままだった。無理もない、俺の能力はこの世界では特殊なんだ。
しかし男はすぐに質問されている事に気づいてくれた。
「あ、ああ……とりあえず俺も馬も積み荷も無事だ。本当に助かったよ、ありがとう」
言いながら降りて来た男は膝をつき、少し潤んだ目をギュッとつぶり、手を合わせて俺に感謝を示してきた。そこまでしなくてもいいのに、よほど怖かったんだな。
「気にすんな。だが、これからは気をつけろよ」
「もちろんだ……それにしても何だったんださっきのは、あんた何者だ?」
「俺は『マコト・エイロネイアー』。ただの冒険者だよ」
細かい事を説明すると長くなる、と思った俺はそれだけ言い残し、ポカンとしている男に背を向けて軽く手を振った。
「何やってんの? 早くー!」
歩みを始めた俺の視線の先には、丘の上から呼びかける金髪の少女。まったく、人助けしてたってのによ。他人の気も知らねぇで急かしやがって……
このおっさん俺が今いるのは日本じゃない異世界。そういえばここに来てから色々とあった。
大して面白くねぇけど、俺の異世界生活を最初から振り返ってみようかな。