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発見

 炎天下の中、エフ博士は黙々と刷毛を握っていた。周りの若い研究者は、写真を撮ったり、ラベルを付けたりと忙しそうだ。しかし、エフ博士はじっと手元を見つめていた。慎重に刷毛を動かしてゆく。少しずつ砂粒がわきへ除けられている。エフ博士は研究者の勘で、この砂の中には何かがあると気付いていた。ここは数千年も前、「オーサカ」と呼ばれていた場所である。何かしら古代文明の痕跡があるはずだった。


「ねえ! エフ! やったわよ!」


エフ博士は自分を呼ぶ同僚の声で顔を上げた。そちらへ目をやると、同僚の手の先で何かがキラリと光った。急いで駆け寄るとあたりにはキラキラと輝く板状の物が散乱している。どうやらガラスを掘り当てたようだ。この量からすると建物の外壁に使われていたらしい。


「じゃあ、オーサカの文明は予想以上に進んでいたんじゃないか」


エフ博士は訊ねた。


「でしょうね。あたしたちの今の時代とほとんど同じくらいまでね。これで、人類は一度衰退したけど、再び元の文明にまで発展したってことが証明できるわ」


エフ博士は皮肉めいた笑みを浮かべて同僚の肩をたたくと、足早に自分の持ち場へと向かった。刷毛を手に取り、一心不乱に砂を払っていく。徐々にその物体の姿が露わになった。所々風化してはいるが、保存状態は良好だ。多少のことでは破れそうにない。


「はてさて、いったい何に使う物やら」


エフ博士には見当もつかなかった。


大きめなグレーの布地が奇妙な形に裁断されている。その布には二つ穴が開いていて、そこからそれぞれ布の筒がのびている。その穴に近い端は、片方にいくつかの切れ目が入っていて、もう片方に同じ数の丸い円盤が縫い付けてある。極めつけは、端に付いているふわふわした毛皮のようなものだ。布製品と言えばテントだが、これはテントにするには小さすぎる。それともテントだったのが破れたのだろうか。だったらこの二本の筒は何なのだ。煙突にでも使っていたのか。いや、それにしては細すぎるし、オーサカはそれなりの町だったはずだから、そもそもガラス張りの建物を作れるのにテントを使う意味が分からない。


「あの~、エフ先生、それって布団ではありませんか?」


エフ博士の頭の中を埋め尽くしていた霧が晴れていく。


「その発想はなかった。なるほど、これは布団だ。そうに違いない」


そう言うとエフ博士は手頃な草地に寝転んで、それを掛けてみた。ふわふわの毛皮が足元に来るように掛けると、筒が足に当たって寝にくい。


「確かに掛布団として使えないことは無いが、いかんせんこの筒が邪魔だなあ」


「違いますよ。裏表反対だと思います」


誰かが呟いた。裏表を変えて寝てみると、寝心地は悪くなかった。それでも、やはり二本の筒の使い道はわからない。


「分かりました! その筒に足を入れるんだ」


足元のほうから声が聞こえた。いつのまにかほとんどの研究者が集まってエフ博士をのぞき込んでいた。筒に足を差し込んでみると、程よい長さだった。


「こうすれば筒の使い道はできたが、今度はこの毛皮が邪魔だ」


「もしかして、そのふわふわしたもので博士の〝一物〟を守るのではないですか」


若い女性の声が聞こえる。言われてみれば毛皮はちょうど股関節のあたりにあった。


「名案だ」


エフ博士が短く答えると、その女性ははにかんだ笑みを浮かべた。


「やったじゃないか、エフ! 古代文明の遺物だ」


同僚が屈みこむ。


「あたしが見つけたガラスは今でもあるけど、その掛布団みたいなのは今はないもの」


記者会見に向けて準備を始めた研究者たちは、皆裸だった。太陽の光に照らされて、女性の乳房の汗がキラリと光った。この新しい文明に、「服」という概念はなかった。



(了)

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