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勇者一行は俺1人  作者: 河流
5/37

ステータス:勇者

 #5 


 ジョブチェンジにより踊り子となった俺は、軽やかな舞で攻撃と回避を交互に繰り返す。

 致命傷を負わせる傷は無いが、多くの切傷を負ったオオカミはみるみる疲弊していく。

 オオカミは決死の覚悟で、俺の喉笛に喰らいかかろうと飛びかかって来る。


「これで、終わりだ!!」


 俺は体を大きく左にそらせてオオカミの攻撃の軌道からそれると、ナイフを持った右手を、飛びかかるオオカミの口めがけて振り下ろす。

 俺の渾身の一撃は、オオカミの下あごを切り落とし、勢いを落とすことなく、オオカミの腹部まで一直線に引き裂いていく。

 オオカミは悲鳴を上げることなく、地面に倒れこむと、大きな血だまりをつくって動かなくなる。


「やっと1体か・・・」


 俺は額の汗を拭って周りを見る。

 オオカミの増援こそ途絶えたが、今や人とオオカミの数は逆転している。

 劣勢の中、人々は負傷者をかばうように輪をつくってオオカミに応戦しているが、それが崩れるのも時間の問題だろう。


「早く、なんとかしないと・・・」


 俺は疲労困憊の頭を回転させ、打開策を探る。

 その時、背後から少女特有の甲高い悲鳴が中庭に響いた。


「しまった!・・・ローザっ?!」


 俺は悲鳴の聞こえた方へと一目散に駆け出した。

 荒れ果てたパーティ会場の中でローザの姿を必死に探す。


「クソッ!ローザはどこにいる?・・・見つけた!」


 俺は、様々な料理の置かれたテーブルの上へと昇り、ローザの姿を確認する。

 ローザは少し離れた場所で2頭のオオカミに追いかけられていた。

 ローザの手には布で包んだ棒状の物をオオカミに奪われないように胸に抱きながら、必死で逃げている。


「遠い・・・だったら、【投擲術】だ!」


 俺はニンジャへとジョブチェンジする。


【投擲術:Lv.Ⅰ】 の文字を確認し、俺はナイフを投げる動作に入る。

 しかし、新たにアイコンが表示される。


 {投擲可能なアイテムを持っていません}


「アイテムを持ってない?!・・・ナイフが消えた?」


 俺は先ほどまで握っていたナイフが消えていることに気付いた。

 俺はテーブルに置かれた先ほどとは別のナイフを手に取ると、オオカミめがけて投げつける。

 しかし、ナイフはオオカミに当たることなく、大きく横に逸れていく。


「な、なんでっ?!」


 俺の頭上に再びアイコンが浮かび上がる。


【投擲したアイテムに対し、投擲術のLvが足りていません】


「クソッ!!もういいっ!!」


 俺はテーブルから降りると、一目散にローザのもとへと駆けていく。

 間一髪のところで、俺はローザの背中に飛びかかろうとするオオカミを殴り飛ばす。


【格闘術 Lv.Ⅰ:当て身】


 オオカミは、俺の打撃を受け、姿勢を崩すが、空中で身をひねると、両足で軽やかに着地を決める。


「大丈夫か、ローザ!」


 俺はローザとオオカミの間に立って拳を固める。

 ローザは大粒の涙をこぼしながら、俺に微笑むと、 大事に抱えていた布を解きはじめる。

 布の中身は、俺の愛用の剣が入っていた。

 ローザはそれを俺の方へと差し出す。


「坊ちゃまの命令で、私、命がけで持ってきたんです。使ってください」


 俺は差し出された剣を受け取ると、鞘から剣を抜き、鈍く光る銀の刃をオオカミに向ける。

 刃を向けられたオオカミは、後ずさりして距離を取ると、激しく吠え出す。


「ローザ、僕を坊ちゃまと言うのは止めてくれ。君には名前で呼んでほしいんだ」


 仲間の異変に気付いた狼たちがパーティ会場のあちこちから俺のもとへと集結する。

 俺とローザは集まったオオカミの群れに取り囲まれたが、2人の顔に恐怖の色は見えなかった。

 ローザは優しく微笑んで口を開く。


「わかりました、アレックス様」


 その言葉を聞き、俺は思わず笑みをこぼしてしまう。

 俺はステータスバーに手を伸ばし、ジョブを変える。


「ありがとう、ローザ。君のお陰で、俺は〝勇者〟になれたよ」


【ステータス:勇者】


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