ステータス:不適切
#04
ゼオンは人々が館に入ったことを横目で確認すると、タキシードを脱ぎ捨て、拳を握る。
「さてと・・・招待した覚えのないゲストにはお引き取り願おうか。
タキシードが汚れても構わない奴らは武器を手に取って戦え」
ゼオンの呼びかけに、男たちは意気揚々と懐からナイフ類を取り出して戦闘態勢をとる。
武器を所持していないコックやウエイターたちはパーティ会場にあるもので即席の武器を作る。
俺はテーブルの上に置かれたナイフを手に取ると、ゼオンの横へと並ぶ。
「父さん、ボクも加勢します!」
「おう!・・・って、アレックス?!なんで避難してないんだ?!」
「オオカミをここまで呼んだのはボクです。ブルーブラッド家の男として、責任は取らせていただきます!」
父は少し心配そうな表情を浮かべたが、俺の眼差しを見て、考えを改めたように小さく笑った。
「先手必勝だ!行くぞ、野郎ども!!」
ゼオンはそう叫ぶと、一番乗りでオオカミめがけて走り出す。
オオカミもまた、ゼオンの接近に対して即座に反応し、駆け出す。
「アレックス!父さんから離れるんじゃないぞ!」
「はいっ!」
俺はそう言って、ナイフを構えて走る。
すると、頭の上のアイコンが光る。
【Error:このジョブに対して適切な武器ではありません】
「え“っ・・・?」
俺は頭上に現れた文字に意識を取られる。
やっぱり、勇者といえば剣なのか?
というか、適切じゃないとどうなるのか、そこも教えてほしい。
「アル君、危ないっ!」
俺は不意に背後からタックルを喰らって地面にキスをする。
その直後、俺の真上を1匹のオオカミが飛び越えていく。
俺は慌ててローザの手を取り、テーブルクロスのかけられたテーブルの下に逃げ込む。
「あ、ありがとう。助かったよ、ローザ」
俺は、助けてくれたローザに礼を言う。
ローザは俺の無事を確認すると、顔を真っ赤にして俺の頬を引っ叩く。
「ぐへっ!・・・ま、待って、2発目は止めて」
俺はさらにビンタを喰らわせようとするローザの手を取って落ち着かせる。
ローザは肩で息をしながら涙をこぼす。
「坊ちゃま、危険な真似は止めてください!戦うと言ったと思ったら、オオカミの目の前でボーっと突っ立ってるし!アル君が死んだら・・・私」
ローザはそう言って赤ん坊のように泣きじゃくる。
俺はローザを抱き寄せると頭を優しく撫でる。
「心配かけてごめん。でも、ボクは戦わなくちゃ。この家のため、君のため」
俺はローザから手を放し、テーブルクロスの隙間から、周囲を見渡す。
【スキル:戦術眼 Lv.Ⅰ】
戦況が手に取るようにわかる、これが勇者のスキルらしい。
状況はこちらが数的不利によりジワジワと追い詰められているようだ。
怪我人の退避、武器が貧弱で致命傷を負わせ辛いというのも向こうに追い風となっている。
「アル君!お願い、一緒に隠れよう?」
俺はローザの必死の願いに背を向けたまま首を振って拒否する。
「ローザ、ボクの部屋から剣を持ってきてくれ。あれならオオカミを殺せるはず」
「アル君のバカ!!これは英雄ごっこじゃないのよっ!!」
ローザは涙を拭うと、館へと一目散に駆け出していく。
俺はローザの姿を見送りながら、ステータスを変更する。
「ナイフが使えるジョブは・・・」
「ウ“ウゥゥゥゥ・・・」
俺は背後から聞こえる小さな唸り声に、スワイプさせる指を止めて、全身を硬直させる。
首筋にかかる生暖かい吐息が背筋を凍らせる。
俺は震える指でそっとジョブを選択すると、一目散にテーブルの下から飛び出す。
【ステータス:踊り子】
「踊り子ぉ?!こいつ、ナイフ使えるのか?!てか、戦えるのか?!」
迷っている暇はなく、俺の後を追って1匹のオオカミがテーブルの下から飛びかかって来る。
【スキル:戦士のダンス】
【スキル:柔軟】
俺は素早く、しなやかに立ち上がると、舞うようにオオカミの攻撃を避けていく。
そして、オオカミの攻撃に合わせて手数の多い斬撃と蹴りを重ねていく。
「おおっ!踊り子、意外と強いな!」