ステータス:ニンジャ
#03
ニンジャへとジョブチェンジした俺は韋駄天の如く草原を突き抜け、ローザとオオカミの後を追う。
木々の合間に館の尖塔が見え始めたころ、俺はローザとオオカミの後ろ姿を捕らえる。
背後から急接近する俺に気付いたのか、オオカミは気配を隠すのを止め、ローザへと襲い掛かる。
「見つけた!・・・ローザ、伏せろっ!」
ローザは俺の声に振り返り、オオカミの存在に気付く。
「坊ちゃま?・・・きゃあっ!」
飛びかかるオオカミに驚いたローザは腰を抜かしてしまうが、幸いにもオオカミの牙は空を切った。
しかし、オオカミは諦めずに、怯えて動けないローザに再び飛びかかる。
「これでも・・・喰らってろ!」
俺は走りながら、手ごろな石を一つ掴むと、オオカミに向かって思いっきり投げつける。
石が俺の手元を離れる瞬間、俺の頭上にアイコンが浮かび上がる。
【投擲術 Lv.1】
その瞬間、放たれた石はすごい勢いで加速していき、オオカミの腹部に直撃する。
「キャインッ!」
オオカミは悲鳴を上げると、痛みに耐えられず、地面に横たわってのたうち回る。
俺はその隙にローザのもとまで近寄ると、ローザを抱き上げて館まで全速力で駆け抜ける。
「ア、アル君っ?!放して、降ろしてっ!」
ローザは顔を真っ赤にしながら俺の腕の中から抜け出そうともがく。
「やめろ、ローザ!しっかり捕まってるんだ!」
俺はローザを一喝すると、横目で置き去りにしたオオカミの様子を伺う。
オオカミは弱々しく立ち上がるが、追ってくる気配はなく、離れていく俺たちを見つめる。
「オオカミは追ってこないか。諦めたか・・・?」
小さくなったオオカミの姿を見て、俺は走る足を緩める。
ウオォーーーン!!
突如、森の中にオオカミの遠吠えが響き渡る。
ローザは俺の腕の中で縮こまると、体を震わせる。
「オオカミの遠吠え・・・。森中に木霊してますね」
ローザの言う通り、オオカミの遠吠えは小さいながらも四方から聞こえてくる。
「違うよ、ローザ。あいつの遠吠えに仲間が応えてるんだ、オオカミが群れで襲ってくる!!」
俺は再び全力で走り始める。
その直後、数秒前まで俺のいた場所に3頭のオオカミが茂みから飛び出してきた。
3頭のオオカミは俺たちの後ろ姿を捕らえると、威圧的に吠えたてながら追いかけてくる。
声に導かれるように茂みから続々とオオカミが飛び出し、俺の後を追うオオカミは5匹、10匹と数を増やしていく。
「もう少し、あと少しで館だ」
俺は限界に近い足を必死で奮い立たせながら、ラストスパートをかける。
木々が開け、大きな中庭に出ると、そこには多くの人々が立食パーティをしていた。
森から飛び出してきた俺の姿に、人々は不思議そうな顔で見つめる。
すると、人混みを掻き分けて、1人の男性が俺のもとへ寄って来る。
「アレックス、探したぞ。・・・みんな、集まってくれ!!今日の主役が遅れて登場だ!」
男は俺に満面の笑みを見せると、周囲の人々へ見せつけるために俺を抱き上げる。
「父さん、待ってください。森で・・・」
俺を抱き上げている人物こそが、ゼオン・ブルーブラッド伯、この館の主で俺の父だ。
俺は息も絶え絶えで必死に身振り手振りで状況を伝えようとする。
しかし、周囲の人にはその姿は父に抱えられることを嫌がる息子にしか見えないらしく、人々は微笑みながら俺たちのもとへ歩み寄って来る。
「ダメだ、こっちにきちゃ・・・」
制止を促すも、人々の談笑にかき消され、彼らの耳には届かない。
「森に近づいてはダメです!オオカミの群れがこちらに迫っています!!」
人々の談笑を、ローザの鋭く通った声がかき消した。
ゼオンは俺を地面に降ろすと、真剣な顔で俺とローザの顔を見つめる。
「・・・2人とも、それは本当か?」
俺たちが頷くよりも早く、女性の甲高い悲鳴がその質問の答えに変わった。
悲鳴の上がった方へ人々の視線が集中する。
そこには30頭以上のオオカミの群れが、森の中から身を潜めて俺たちの様子を伺っていた。
「女子供とゲストは館へとゆっくり後退しろ。男はオオカミから視線を逸らすな」
人々はゼオンの指示に従い、オオカミとのにらみ合いが始まる。
ローザは俺の手を掴むと、館へと入っていく人の列に並ぶ。
「ボクは父さんに加勢する。ローザ、君は館で待っててくれ」
俺は館の扉の前でローザの手を離すと、中庭へ踵を返す。
「ダメです!坊ちゃまも一緒に行きましょう」
ローザは必死に俺に手を伸ばすが、人の波にのまれ、館の中へと消える。
「・・・こういう状況なら、やっぱこれだよな」
俺は震える指でステータスバーを開くと、ニンジャを解除し、別のジョブを選択する。
【ステータスⅠ:勇者】