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勇者一行は俺1人  作者: 河流
2/37

ステータス:チェンジ

 #02 


 俺は長いこと閉じていた瞼をゆっくりと開いて、澄み渡る青空を眺める。


『坊ちゃま~!アレックス坊ちゃま~!』


 俺を深い眠りから呼び戻したメイドの声は、風に乗って俺のいる草原に響き渡る。

 呼び声には耳を貸さず、俺は今見ていた夢を思い返す。


「転生する時の夢を久々に見るとは・・・。やっぱりこれのせいだろうな」


 俺は上半身を持ち上げると、慣れた手つきで俺の頭の上にステータスバーを表示させる。


【ステータス:勇者 魔法使い 剣士 格闘家 僧侶 ・・・ 】


 ステータスバーには次々と多種多様なジョブが流れては消え、流れては消え、を繰り返す。

 ステータスがこの表記になったのはこれで2度目だ。

 1度目は神様を名乗る少女に勇者を押し付けられた時、そして2度目が今朝だ。


「8歳の誕生日に勇者になる、っていうのも悪くないな」


 そう、今日は俺 アレックス・ブルーブラッド が主役の日。

 つまり、メイドが屋敷を抜けだした俺を執拗なまでに追いかけまわしているのも何ら不思議なことではない。


「みつけました、アレックス坊ちゃまっ!!屋敷にお戻りください!ご主人様がカンカンですよっ!」


 四方を探し回ったせいか、メイド服のあちらこちらに泥や草などの汚れを付着させながら、一人の小さなメイドが仁王立ちで俺を叱りつける。


「行く気はないよ。社交界なんて楽しくないんだ。それから、ローザ。今日から暫くはボクの方が年上だ。今まで以上に敬うんだぞ!」


メイドには坊ちゃんと呼ばれているが、実際の年齢は俺の方が1つ上。

メイド長の娘として生まれた彼女は幼くして、母からメイドとして育てられているため、雇い主の息子である俺を他のメイド同様、坊ちゃまと呼んで子ども扱いをする。

 ローザと呼ばれたメイドは俺の言葉に悔しそうに歯ぎしりしてみせる。


「ん?ローザちゃんは何か言いたいことでもあるのかな?」


 俺はローザの周りで小躍りを始める。

やがて、ローザは堪忍袋の緒が切れたのか、目に涙を浮かべながら反論してくる。


「アル君の方がちょっと早く生まれただけなのに、そんな風に偉ぶるの止めてよねっ!!」


 叫ぶようにそう言うと、ローザは我に返ったのか、顔を真っ青にして俺に深々と礼をする。


「感情的な発言をお許しください!館では皆様が坊ちゃまを待っております、戻ってきてください」


ローザはそう言い残すと、逃げるようにその場を立ち去って行った。


「お前だって、坊ちゃまなんて呼ぶの止めろよ・・・」


 俺は草原を駆けていくローザの後ろ姿を見つめながらそう呟いた。

 その時、ローザの後方200mほどのところで、ローザの死角から彼女に近づく黒い影を見つけた。


「あの影、人間じゃないようだけど・・・クソッ、遠くてよく見えない」


 陽の光を遮るため、俺は顔の前に手で庇をつくり、目を凝らす。

 その時、頭上に出しっぱなしだったステータスバーに、俺の手が触れる。


【ステータスⅠ:狩人 】

【ステータスⅡ:勇者 魔法使い 剣士 …】


 俺の手に触れた狩人の文字は、光りを放ちながらステータスの先頭へと移動する。


「手で触れるとジョブの切り替えができるのか?・・・うわっ?!」


 突如、俺は目に違和感を覚え、咄嗟に目を瞑る。

 瞼が閉じられ、本来なら闇に包まれるはずの視界は光を帯びて綺麗に輝いている。


「なんだこれ・・・魔法陣?」


 俺の瞼の裏にはサークル上の魔法陣が描かれ、中央には獣の眼が描かれている。

魔法陣は淡い光を放ちながら、俺の眼球の動きに合わせてわずかに揺らいでいる。

 俺はそっと瞼を開け、ステータスバーを確認する。

ステータスの隣にスキルという欄を見つける。


【スキル:ホークアイ】


「ホークアイ?鷹の眼ってことか?」


 俺は半信半疑のまま、草原を駆けていくローザを見る。

 先ほどよりも離れているはずのローザの後ろ姿がハッキリと見て取れる。

 お団子結びの髪、少し崩れている襟元、泥のついた袖口、ロングスカートに見え隠れする足。

その愛らしく健気な姿に、思わず見惚れてしまいそうになる。


「違う違うっ!これでローザを追いかけている奴の正体を突き止めたいんだ」


 俺は館へと続く森に入っていくローザの後方へと視線を移し、彼女の後を辿る存在を視認した。


「あれは・・・オオカミじゃないか!!早くローザに知らせないと!!」


 オオカミは気配を殺しながら、ローザの後を追って森へと入っていく。

 俺は大慌てで駆けだすが、3歩も歩く前に派手に転んでしまう。


「いてててて、スキル発動したままだった」


 俺が狩人のステータスを元の場所に移すと、スキルの効果が消えてくれた。

 俺は立ち上がって駆け出そうとしたが、頭上のステータスバーを見て、足を止めた。


「ちょっと待てよ・・・」


 俺はステータスバーをスクロールしながら品定めをしていく。

 その中の1つ、それを眼にして、俺はスクロールする手を止める。


「・・・ニンジャ。こいつなら早く走れるか?」


【ステータス:ニンジャ】


 ニンジャへと変わった俺は、草原を疾風の如く駆け抜けた。


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