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83 カルマの意図


 漆黒の瞳が正面から見据える――カルマの圧倒的な存在感に気圧されて、グランチェスタはゆっくりと頷いた。


「……解った。オードレイ司祭が儀式魔法を使ったのは、事実ということで構わない」


「何だよ、回りくどい言い方だな? 自分は事件と関わりがないって言いたいのか?」


 言葉を選んだ心理を見透かすように、カルマは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「まあ、今はこれで許してやるけど――次は無いからな?」


 漆黒の瞳が放つ無慈悲な視線に晒されながら、グランチェスタは背中に冷たいものを感じていた。


「それじゃあ、キースさん? 後は任せるよ」


 カルマは長椅子に深く座ってキースを促すが――


「ねえ、カミナギ……さすがにやり過ぎじゃない?」


 声に振り向くと、クリスタには珍しく少し困ったような顔をしていた。


「貴方の意図は解るけど……こんな噂が広まったら、貴方を利用しようとする人や、敵が一気に増えるわよ?」


「クリスタさんは俺のことを心配してくれるんだ? でも、そうは言ってもさ? こいつらは言葉だけじゃ納得しなかったよ」


 カルマは苦笑する。


「結局は実際に見せてやるか、力づくで黙らせるかの二択しかないんだよ。もっとも……今回の場合はどちらも大差なかったけどね?」


 圧倒的な魔法の実力を見せつけることで、カルマはこの場を完全に掌握してしまった。

 グランチェスタもレバードも、緊張した顔でカルマの出方を伺っている。


(ホントはもっと裏方に徹して、クリスタさんとキースさんに任せたかったんだけどな)


 クリスタに言われるまでもなく、カルマも派手に力を見せつけるような真似をしたかった訳ではない。


 クリスタとキースだけで解決できるなら、黙って見ていたかったが――そんな選択肢は初めから存在しないし、他のやり方を選んでいたら、もっと多くの血が流れただろう。


 オードレイを捕らえるために転移魔法を使った時点で、こちらが転移魔法を使えることを信じさせない限りは、相手に状況を理解させることができないというジレンマが生まれた。


 だからと言って、転移魔法を使わなければ、そもそもオードレイを捕らえることはできなかったし、時間が経過すればするほど儀式魔法による犠牲者は増えただろう。


 グランチェスタの件も、カルマが転移魔法を使って見せなければ、話は平行線で終わっていた。

 そして緊張した平行線は一歩間違えれば、隠し部屋の連中が雪崩れ込んできての血生臭い乱闘になっていた可能性もある。


 仮にオードレイを廃人にしていなかったら、全てグランチェスタの指示だと証言させて状況を変えることができたかと言えば――そんなことはあり得なかった。


 カルマは別に言い訳をする気などなかったが――催眠術式ヒプノティズムによって知り得たグランチェスタとオードレイの関係は教祖と狂信者であり、少なくともオードレイの方から裏切ることはあり得なかった。


 それが解っていたから――オードレイを壊すことを躊躇わなかったのだ。


 つまり、今カルマたちが置かれている状況は、オードレイを捕らえると選択した時点から規定路線だった。

 しかも、全てはカルマの提案から始まったのだから、カルマ自身は自業自得だと思っているが――反省する気はない。


 リスクなど承知の上だし、そんな暇があるなら現状を解決する方に頭を使う。


「それではグランチェスタ、もう一度君に問おう――」


 キースは真っ直ぐにグランチェスタを見据えた。


「まずは今回オードレイ司祭が起こした事件についてだが――グランチェスタ、君は自身の責任をどう考える?」


「ハイベルト殿。私は『深淵なる正義の学派』の代表として、所属員であるオードレイ司祭の暴走を止められなかったことに責任を感じている――」


 グランチェスタは横目でカルマの反応を伺いながら言葉を選んだ。


「たとえ彼が独断で行った行為だとしても……私には学派の指導者としての責任があると考えている」


 白々しく悲痛な表情を浮かべるグランチェスタに、キースは拳を握りしめる。


「君は……事件はあくまでもオードレイ司祭自身が起こしたことで、君自身は一切関与していないと言いたいようだな?」


「ああ、その通りだ……それが事実だからな」


 そう言い切っても、カルマは何の反応も示さなかった。

 ただ静かに二人の会話を眺めている。


「ならば……これまで王国各地で起きた事件についてはどうなんだ?」


 詭弁を使うグランチェスタを、キースは執拗に問い詰める。


「今回と同様の事件が、すでに王国内で何度も繰り返されて来たことは周知の事実だろう? これらの事件についても、全てオードレイ司祭が行ったと言うのか?」


「ハイベルト殿は何か勘違いしているようだが……貴殿が言う『同様の事件』が過去に起きたという事実はない」


 激情に駆られるキースに対して――グランチェスタは狡猾に計算していた。


(カミナギという男が何を考えているかは解らないが……少なくともハイベルトのようにな安っぼい正義漢では無いようだ。ならば……扱いようはあるか?)


 カルマの視線を意識しながら言葉を続ける。


「貴殿が言っているのは、王国各地で起きている住人消失事件のことであろう? しかし、それが天使召喚の儀式によるものだという証拠はないのだ」


 グランチェスタは抜け抜けと言い、さらに――


「ハイベルト殿、憶測だけでモノを言うのは止めて貰えないか? 確かに私はオードレイ司祭の件では責任を感じているが……世の中の不幸の全てが自分のせいだとは、さすがに考えてはいない」


 まるで自分の方が被害者であるかのように言い放った。


「グランチェスタ……君という男は……」


 キースは怒りを噛みしめながら、グランチェスタを睨みつけるが――勝利を確信した相手には全く響かなかった。


「まあ、そういう奴だとは解っていたけどさ……ホント好き勝手に言うよな?」


 突然口を挟んできたカルマの意図を、グランチェスタは図りかねた。


「カミナギ殿……貴殿は何を……」


「何をじゃない。勘違いしているのはおまえだ、グランチェスタ?」


 カルマは目を細めてグランチェスタを見据える――漆黒の瞳には冷徹な光が宿っていた。


「俺はキースさんに任せたから黙っていただけだ。なのに、おまえは――次は無いって言った筈だよな?」



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