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82 カルマのやり方


 キースに怒鳴りつけられたグランチェスタは――相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。


「ハイベルト殿も何を言い出すかと思えば……信徒を犠牲にして天使を召喚? 馬鹿げたことを! 私には全く覚えの無いことだ」


 グランチェスタは蔑むようにキースを見る。


「謂れのない罪を問われて、私としては甚だ遺憾ではあるが……そこまで言うからには、私が罪を犯したという証拠を持ち合わせているのであろうな?」


 キースは毅然とした顔で応えた。


「君が組織する『深淵なる正義の学派』所属のフェルド・オードレイ司祭が、王国辺境の村で村人を犠牲にする天使召喚の儀式魔法を発動させた。我々はその現場を押さえて、オードレイを捉えて来たのだ」


 そう言うと、グランチェスタたちの背後で重いモノが落ちるような音がした。


「な……」


 振り向いたグランチェスタの言葉を失わせたのは、床に踞るオードレイの姿だった。


「オードレイ殿、如何された?」


 レバードが駆け寄って抱き起こすが――オードレイが正気でないことは、誰の目にも明らかだった。


「儀式魔法は不発に終わったが……村人を犠牲にしようとした罪が、それで消えるものではない」


 キースは目を細めて詰問するが――グランチェスタは別のことを考えていた。

 辺境で任務に就いている筈のオードレイが、どうして此処にいるのか?


「……確かにオードレイ司祭は、辺境を巡礼する任に就いていた。その地で彼が独断(・・)によって天使召喚を試みた可能性までは否定できまい。しかし……一つ大きな疑問が残る」


 グランチェスタは己の常識の中から、疑問に対する答えを探し出そうとした。


「オードレイ司祭から『伝言メッセージ』で最後に報告を受けたのは二日前だ。つまり……ハイベルト殿が言うことが事実ならば、貴殿は僅か二日で彼を辺境から王都まで連れて来たことになるが……勿論、そんなことは不可能だ!」


 辺境から王都までは、どれ程急いで馬を走らせたとしても二週間は掛かる。


「つまり……こう考える方が妥当だろう? オードレイ司祭は辺境に行く前に何者かに捕えられた。そして、その者に強要されて私に偽りの『伝言メッセージ』を送っていたのだ。だから、彼が天使召喚を行うなど不可能だ!」


 グランチェスタの側近を手懐けた策士は、どうやら今回の件を計画的に進めていたようだ。オードレイを捕えたのもその一環であり、その最終目的はグランチェスタの失脚にある――と彼自身は考えていた。


 キースは顔をしかめる。


「グランチェスタ、君は私が嘘をついていると疑っているようだが……」


「いや、そうではない!」


 キースの言葉を遮って、グランチェスタは再び薄笑いを浮かべた。


「私だけではなく、ハイベルト殿も騙されていると言っているのだ」


 人が良い()()のキースが筋書きを書いたとは思えない。おそらく急進派の誰かが、キースを利用したと考えるべきだろう。大方、オードレイが天使を召喚したなどと、カミナギという男にでも吹き込まれたのではないか――


 このようにグランチェスタは全く的外れの予測を立てた訳だが――カルマという常識外の存在が関わっていることを知らないのだから、当然の帰結だとも言える。


 クリスタは自分が転移魔法を使えることを秘匿しているから、極少数の者しかその事実を知らない。

 また、そもそも転移魔法の使い手は稀少であり、グランチェスタが知る限り、クロムウェル王国には唯一人しかいないのだ。


 そのような状況で、時間的な問題を転移魔法で解決したと考える方が非現実的であり、グランチェスタのように全てが陰謀だと疑う方が、よほど現実的な考え方たった。


(自分の頭だけで答えを導き出そうとすると、そういう結論になるよな? まあ、人の言葉を鵜呑みにするよりは、よほどマシだとは思うけどね)


 カルマはグランチェスタという人間を多少なりとも評価をしていた。立場さえ異なれば、それなりに面白い奴だとは思う。


(だけど……このままじゃ話が変な方向に進みそうだからな。こいつにも現実を教えてやるか?)


 カルマが横目でキースを見ると、彼の方もこちらを見ていた――どうやら同じことを考えているらしい。


 カルマは苦笑して頷くと、グランチェスタの方を見た。


「グランチェスタ殿? 貴方は勘違いをしているようですが……私もハイベルト殿もオードレイ司祭が儀式魔法を発動させた現場を、実際に見ているんですよ?」


 細かい突っ込みで話が中断しないように、カルマは口調を選んだ。


 その効果もあってか言葉や態度に対する突っ込みはなかったが――グランチェスタはあからさまに馬鹿にした顔をする。


「貴殿は天使を召喚したところを実際に見たと言うのかね? ならば聞くが、儀式魔法を行った辺境からたった二日で、どうやって王都まで戻って来たと言うのだ?」


 鼻で笑うグランチェスタに、カルマは何食わぬ顔で応える。


「嫌だなあ、想像力のない人は……そんなの私が転移魔法を使ったに決まっているでしょう?」


 アッサリと『転移魔法』を使ったと言ったカルマに――グランチェスタは呆れて果てたという顔をする。


「嘘をつくにしても、もう少しマシな嘘をついたらどうだ? 貴殿は魔法についてまるで疎いようだな……『転移魔法』を使える者など王国全土を探しても、王宮魔術士長のコーネリアス師以外にはおるまい? それを自分が使ったなどと……馬鹿馬鹿しい!」


 グランチェスタの態度にも、カルマは別に腹を立ててはいなかった。

 どちらかというと反応が余りにも予想通りで、詰まらないなと思っていた。


「やっぱり……そう来るよなあ? 解ったよ。今見せてやるから」


 カルマがしたり顔で笑うと――六人は応接セットごと、天使召喚の儀式魔法が行われた村へと転移した。


 突然変化した周囲の光景に、グランチェスタは呆然とする。


「私は……幻術を見ているのか?」


「そう思うなら、隠し部屋に隠れている奴らを呼んでみたらどうだよ?」


 揶揄うように笑うカルマに、グランチェスタは苛立った――最早カルマの言葉遣いなどを気に掛ける余裕などない。


「五月蠅い! 貴様などに言われなくても……」


 歯軋りしながら立ち上がると、しきりに周囲を見回す。


「誰か、誰かおらぬか! 私を魔法でたぶらかすこの狼藉者を捕らえよ!」


 しかし――暫く待っても応えるものは居なかった。

 吹きつける風も、土の匂いも、ここが現実の村であることを物語っている。


「カミナギ……よもやこのような真似をして、唯で済むと思ってはあおるまいな?」


 レパードの方がグランチェスタよりも、よほど現実を受け止めていた。

 状況的に考えれば、カルマはグランチェスタとレバードを王都から拉致してきたことになる。


 レバードの灰色の目が睨むが――カルマは強かな笑みを返した。


「いや、俺はお前たちに現実を見せただけだよ。そんな面倒なことをする気はないからさ――ほらね?」


 村に転移したときと同じように唐突に魔法が発動し、彼らはオストレア聖堂に戻っていた。


 展開の早さについて行けず、グランチェスタとレパードは呆然とする。


「さてと……また後から説明するのも面倒だから先に言っておくけどさ? 最初の転移魔法と同時に結界を発動させたから、誰もこの部屋に入って来ることはできないよ」


 しれっと爽やかな顔でカルマが告げた。


「な……何だと!」


 実際に二度も転移をさせられたことで――グランチェスタのカルマを見る目は明らかに変わっていた。王宮魔術士長コーネリアスすら凌ぐであろう圧倒的な実力に、グランチェスタは畏怖の念すら覚えていた。


「カミナギ殿……貴殿はいったい……」


 しかし――カルマにとっては、そんなことはどうでも良かった。


「おまえたちが『防音』しか発動しないから、転移魔法を発動したら隠し部屋の奴らにバレバレだろう? ここに戻ったときに奴らと鉢合わせになるのも馬鹿らしいから、先手を打たせて貰っただけだよ?」


 何なら試してみろよとカルマは挑発するが――今この場に彼らが居合わせていないことが何よりの証拠だった。


「それじゃあ、話を戻すとするか? 俺たちは儀式魔法を発動させたオードレイを捕えて、転移魔法で王都に連れて来た。ここまではお互い同意ということで良いんだよな?」


 漆黒の瞳は念押しするように、グランチェスタを見据えた。



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