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14 竜の女王の疑問と怒り


 アクシアの版図では大した情報が得られないと判断して、カルマは外側へと調査範囲を広げることにした。


 この世界の常識や社会的ルールに疎いことは自覚していたから、いきなり大都市に行って襤褸を出すことは避けるべきだと考えた。もし大勢の前で常識やルールから外れた致命的なミスを犯せば、不審者として噂が広まり、今後の活動に支障をきたす可能性があるからだ。


 かといって小さな村では、部外者は閉鎖的な住人に警戒されてしまうだろう……。


 つまり、次に訪れるべき場所は、外部との交流があって異質な者に対する抵抗が少なく、かつ、仮に何かおかしな行動を取っても、噂が一気に広まらない程度の規模のコミュニティだった。


 カルマは魔力感知によって、小さなの魔力の密集度合いから小規模な街に当たりを付けた。あとは認識阻害を発動させて姿を隠しながら、実際に各地を見て回って条件に合う場所を探したのだ。短距離転移による高速移動が可能なカルマには、広大な地域を実地調査することも難しくはなかった。


 そうして絞り込んだ候補地の一つが、宿場町エルダだった。


「……少し、待ってくれぬか? 無論、カルマであれば移動するのは一瞬であろうが……其方が調査を始めたのは二日前の筈だ。何ヵ所調べたかは知らぬが、場所を絞り込むだけでも、余りにも時間が足りぬであろう?」


 単純に人口の密集度合いだけで決めたのであればまだ解るが、カルマは実際に現地を調べて判断したと言う。それも実地調査をしたと言うくらいだから、雰囲気だけで適当に選んだ訳ではないだろう。しかし、たった二日間で、そんなことが可能なのか?


「さすがに、いちいち現地の人間から話を聞くほど時間はなかったけどさ。上空から観察して建物の様子とか、街にいる人種の多様性や年齢構成とか服装の違いとか。あとは一緒に行動する者同士で、どのくらいの差異があるかは確認したよ」


「いや……それだけ調べるにしても、やはり時間が足りぬであろう? たまたま偶然、最初の何ヶ所かでエルダに行き当たったのか?」


「まさか、そんな良い加減なことはしないよ。俺が調べたのは七十二ヵ所だ」


 カルマがエルダを選定するまでに費やした時間は六時間ほどだった。


「おまえは時間が足りないって言うけどさ。街全体を眺めて視覚情報から必要なものを抽出するだけだから、一ヵ所を調べるのに大して時間は掛からないよ。

 俺は魔道技術マナ・テクノロジーで創られた兵器だって言っただろう? 映像から情報を解析するのは得意分野なんだよ」


 カルマが使った言葉の意味が、アクシアには理解できない。しかし、それは些細な問題だった。自分には可能だとカルマが言うのだから、それだけ聞けば十分だ。


「……解った、カルマよ。続けてくれ……」


 そんなアクシアの思考を読み取ってカルマは思う――俺の言うことを無条件に信じるなよ、おまえは共犯者だろう?


 アクシアの知識で理解できる内容ではないが、知識が足りなくても自分の判断基準に照らし合わせて考えることはできる。誰かが言ったというだけで鵜呑みにするのは、自分で考えることを放棄して依存しているだけだ。俺を信じてくれること自体は有難いが――それとこれとは話が別だから。

 

 アクシアには、俺が考えていることを本当の意味で理解して欲しい。そして俺が間違えたら、本気で否定してくれと思っている――俺は自分が完璧だなんて思っていない。完璧だったら、神に操られて世界を滅ぼしたりはしないだろう?


 アクシアに出会うまでは、俺は自分が考える最適の方法で奴らと戦うつもりでいた。だけど、俺とは全く違う価値観を持っているアクシアに会って、理屈では測れない別の強さを感じた――俺にないものをアクシアは持っている。だから共犯者になったんだ。


 だからと言って俺は、アクシアのやり方の全てを肯定する気はない。それじゃ、俺の方が依存するようなものだから。そうじゃなくて、お互いが全く違う価値観を持っているとを理解した上で、相手の考えを自分なりに消化して擦り合わせれば良い。


 価値観が違うからムカつく部分もあるけど、そんなことは承知の上で隣にいるのが共犯者だろう――こんな恥ずかしい台詞をアクシアに言う気はないけど。


「俺にも意味不明なこと言っている自覚はあるんだから、もと突っ込めよな? 例えば――一万体の精霊を使役して、街の人間全員から必要な情報だけを集めさせる。そうして集めた情報を上位精霊に集計させて、俺は報告を聞くだけだ。この方法なら同時作業ができるから時間が短縮できるし、俺自身は手間が掛からないだろう?」


「……うむ、確かに。その方法なら時間も手間も少なくて済むな」


「だろう? さらに俺が全ての精霊に加速魔法ブーストを重ね掛けしたら?」


「……観察するための時間の短縮には限度があるが、それ以外は加速した分だけ短くなるのではないか?」


「正解だ――こうやって自分の尺度に当て嵌めて考えれば、おまえにも理解できるだろう? だから意味不明なときは突っ込んで訊けよ」

 

「確かにそうだな……うむ、よく解ったぞ!!! ありがとう、カルマ!!!」


 アクシアは心底嬉しそうに笑う。基本的には理屈ではなく感情で動くアクシアだが、理屈が理解できない訳ではない。それにカルマのことをもっと知りたいと思っているから、その方法に気づいたことには大きな意味があった。


「じゃあ、そういうことで。エルダを選んだ理由について説明を続けようか?」


 宿場町エルダは南北に走る街道沿いにあり、その街道は北側も南側も大きな都市へと繋がっている。南北それぞれ都市からは、さらに枝分かれするように複数の街道が伸びており、それらの街道は異なる都市へと続く。


 つまり宿場町エルダは、周辺地域一帯を結ぶ交通の要所に位置しており、多数の都市から交易を目的とした商人や、外交を目的とする貴族などが行き交う場所なのだ。


 勿論、大半の者の目的地は別の場所であり、エルダは旅の疲れを癒すために一時訪れるだけの場所に過ぎない。しかし、だからこそカルマにとっては理想的だった。

 

 様々な地域から異なる文化を持つ人々が訪れ、しかも一時を過ごすだけだから、個々の違いに目くじらを立てる者も、他人の事情を詮索する者も少ない筈だ。だから、この世界の常識に疎い者が少々おかしな行動を取ったところで、いちいち噂として広めたりはしないだろう。


「……まあ。そういった理由から、エルダを選んだんだ」


 これで終わりだと締め括ろうとするカルマだったが、アクシアはまだ不満そうな顔をしていた。


「……なあ、カルマよ? まさか、これで説明が終わりという訳ではないであろうな?」


 カルマは思わず首を傾げる。


「何だよ、アクシア? エルダを選んだ理由なら全部説明しただろう? それとも何か? 小さな宿場町というのが、竜族の王の気に召さないとか?」


「そうではない!!! 全くもって説明が不十分であると言っておるのだ!!!」


 アクシアは興奮して拳を握り締めた。


「この町の住人がカルマに見せた態度は、いったい何なのだ? まるで昔からの知り合いのように馴れ馴れしい!!! 其方かエルダを訪れたのは、僅か二日前であろう? 如何なる理由から彼奴等は、あのように振舞うのだ?」


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