第一話 プロローグ
まったりと更新したりしなかったりします。完結しないかもしれません。
突出した技術を得ること。
何よりも優れること。
感情を捨てること。
それだけで、生きていくことができた。
逆にとれば、それに従うことができなければ生きられなかった。
それでも、嫌になったのは。
やめたくなってしまったのは。
そんな我がままを、受け入れてくれた人がいた。
逃げる手段も、その先も……全て、援助してくれた人だった。
そして彼は、俺に言う。
「もうお前に会うことは、ないだろう」
***
普段は、事務の仕事をしている。
しかし――本業としては、社長直属の特殊部隊、だった。
「天野さん」
名前を呼ばれ、いつものように返事をする。
俺の名前を呼んだ彼は、名を設楽という。設楽みな。彼といったのは、設楽が入社してから二年近く経った今でも性別が不明であるためだ。
「社長があなたを呼んでこいと……お時間は大丈夫ですか?」
心配そうに見上げてくる彼の視線を、受け止めつつかわしつつ。人に見つめられるのは、あまり得意ではないのだ。
「ああ。ありがとう」
設楽に礼を言いつつ、与えられている部屋を後にする。
幾らか移動してたどり着いた部屋の扉を、三回叩く。返事が聞こえてきたところで、声をかけて入室した。
そこには、ゆったりとした空間。小説やドラマなんかで見るような“机”も、そこにはなく。ただ、大きめのソファやティーセットをしまうための棚があるくらいのものだ。ただただ静かな部屋。
「晴さん。忙しい時に、すまないね」
部屋と同じように静かで、ゆったりとした雰囲気を持って話しかけてきたのは、高尾奏多――社長だ。あまり、そういう見た目ではないが。
「いえ。そんなに忙しくなかったので、大丈夫ですよ」
そう答えると、高尾さんはソファに腰掛けた和装の青年を示した。この様子では、新入りといったところだろうか。
案の定、高尾さんは新入りとして青年を紹介した。すっと立ち上がった青年は、はっきりとした、しかし優雅な動きで会釈をする。
「……神田といいます。神田雨月」
「彼は、特殊部隊を希望していてね。今、一人しかいなくて大変だろうから、とりあえず採用したんだ」
高尾さんの採用理由は、いつも変わっている。優秀だからだとか、想いが強いからだとか、そういった一般的な理由では人を雇わない。もし自分が人を欲しがっていれば採用する。そうでなくても、目の前の人が困っているのならば採用する。技術を磨くのはそこからでいい――そんな思想があるらしく、そこだけ聞いていればまるで慈善事業だ。
そのおかげで俺がここに入社できたことは事実なので、それについては何とも言えないが。
「仲間が一人増えるんだな……」
独り言を漏らしつつ、雨月と名乗った青年を見上げる。雨月は俺よりもずっと背が高く、切れ長の目をして整った顔をしていた。
「よろしくな、雨月 !」
雨月の下の名前を堂々を呼んだ俺は、後で知ることとなる――雨月が、俺よりも二つ年上であることを。
しかし今の俺は、そんなことを知らない。