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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第9話 四千年の時を超えて

「ワシヲ…トリ…込んだものが、いるのか…?」


 鎌首を持ち上げた蛇髪から低い女性の声が聞こえる。


「わしを蘇らせた…のは何者じゃ」


 蛇髪はウェスタの顔を覗き込み、言った。


「わたしはウェスタ、あなたの子孫です。はじめまして、初代メデューサ様」


「うむ。やっと復活できたわい」


「魔力だけではなく、魂を封じ込めていたということですか」


 アンクは予感が的中し、納得した。

 ウェスタは中央の目に送られる膨大な魔力を感じた。同時にその目に視力が宿ったことも感じていた。

 蛇髪が現れた時は右側面に激痛が走ったが、もう回復していて痛みはなかった。

 確かにその瞳には意志があった。神祖メデューサの魂が宿っていた。


「何故わしを蘇らせた?」


「大魔王を倒してわたしが大魔王になろうと思っています。

 力をお貸し下さい」


「大魔王を倒すじゃと?わしはルシファー様と戦う気はないぞ」


「もうルシファーは亡くなりました。大魔王はすでに八十五代目です。」


「ほう、もうそれほどになるか、今の大魔王はどういう奴なんじゃ?」


「現大魔王ブラムは吸血鬼です」


「吸血鬼?それは何なのじゃ?十二支族ですらないのか」


「魔族との契約により、不老不死と化した人間のことです」


「人間???!!」


 大メデューサは鎌首を持ち上げ叫んだ。よほど驚愕したようだった。


「大魔王が人間じゃと!」


「元人間です」


「人間に支配されているじゃと!情けない!情けないのう!」


 大メデューサは激高していた。


「以前は人間界を支配する大魔王もいましたが、今や人間に敗れる大魔王も珍しくはありません」


「最近は勇者というシステムが編み出され、なおさらですね」


「なんじゃそれは?勇者?」


「女神の加護を受けた魔族の天敵です」


「そんな奴がいるのか」


「あ、わたしそうです」


 アイギスが恐る恐る手を上げた。


「まずはこやつを殺せばいいのか?」


「待って下さい!ご先祖様!彼女は味方です!」


「ああ?魔族の天敵が味方で、大魔王を倒すじゃと?

 貴様は何をやっておるんじゃ、いかれておるのか?」


 大メデューサは体をのたくらせて苛立ちを表現した。


「わしの末裔がこんなザマとは!貴様から石にしてやる!」


「落ち着いて下さいな、ご先祖様」


 インゲルが話し掛けたが、


「黙れ!たかが髪の毛風情が!わしに話し掛けるなど百年早いわ!」


「あんたも今は髪の毛でしょ!大体あなたも人間に負けたんじゃないの?」


「何じゃと!」


「何よ!」


 蛇髪同士のケンカが始まってしまった。


「ご先祖様」


 ウェスタは静かに言った。


「わたしは今人間の勇者と共に大魔王と戦っています。

 それはご先祖様には納得できないかも知れません。

 ですが戦乱の時代から四千年を経て、魔界も平和と自由を手に入れつつあります。

 そして、わたしはその後は人間界と交流する時代になると思っています。

 しかし、大魔王は人間界への侵攻を決意しました。

 それを食い止めるためにわたしが大魔王になりたいのです」


「平和と自由?魔界がか?」


「そうです。そしてゆくゆくは人間界ともです」


「お前が個人的に大魔王が嫌いなだけではないのか?

 勇者なんて奴を恒常的に送り込んで来る人間と戦うことがおかしいとも思えんな。

 大魔王になりたいのは構わん。

 しかし、平和だの自由だの言葉で飾り立てる奴は信用できん」


 そう言ってウェスタを見据える大メデューサの目だが、すでに怒りの色はない。

 ウェスタはその瞳に宿った鋭い洞察に気付いた。


「わたしが嫌っているのは大魔王ではありません」


 インゲルは察しているのか何も言わず目を閉じていた。


「平和を望むのはきっと父親への反発です」


「お父さん?」


 アイギスは初耳だ。ウェスタがメデューサ族の当主なら父親はもういないのだろう。


「今の大魔王ブラムは元人間のせいか即位後もしばらくは反抗されました。

 十年前の反乱を最後に彼の治世は安定していきましたが、その最後の反乱に父は参加しました」


「ほう、野心のある奴じゃのう」


「いえ、戦力として要請されたのを引き受けたのです。大魔王と剣の勝負がしたかったのです。

 剣技に自信を持っていて、好戦的だったからブラムと戦おうとしたのです。そして、敗北して死亡した。

 わたしはそのせいで若くしてメデューサ城を継ぎました」


 十歳で当主となったウェスタだが、もちろんすぐに統治ができるはずもなく、周囲に助けられながら、魔王として領主となったのは十六歳、多感な時期を苦労して過ごしたのだった。


「わたしは父の死に意義があったとは思えないのです」


「ふむ、それで平和という訳か。

 わしも初めはルシファー様と敵対していた。

 しかし、仲間たちと結託してルシファー様に下ることを決めた。

 好き勝手に暴れてもキリがないからじゃ」


「それでは」


「わしがこの時代のことを知らないのは事実じゃ。

 まずは貴様らのやろうとしていることを確認させてもらおう」


「ありがとうございます」


「じゃが、父親をそう悪し様に言うな。

 父親も自由に生きただけじゃ。

 貴様の言う自由とはその性質を受け継いでいるがゆえじゃ。

 それだけは覚えておけ」


「そうでしょうか」


「確かにあなたお父様に似てるとこあると思うわ」


 とインゲル。


「言い出すと聞かないところとかね」


「そうか、そうかもな」


 若くしてメデューサ領を継ぎ、恨みもした父親だが、実は似た者同士だったのかも知れない。


「まず倒さなければならないのはテュポーンだな」


「今のテュポーンはどんな奴じゃ?」


「テュポーンは四千年前のままです。そのまま生き続けています」


「ほう!」


 大メデューサは嬉しそうだった。


「昔はよく遊んでやったわ」


「あ、遊んで…?」


「子犬のようなもんじゃ」


「えぇ、子犬?」


 死闘を繰り広げたアイギスは首を傾げた。

 山のような巨体しか知らないが、昔は小さかったのだろうか。


「市街地にも被害が出ています。倒さなければなりません

 石化させることは可能でしょうか?」


「テュポーンなら心配いらん。手なずけてやるわい」


 彼女にとっては唯一の昔の知り合いということになる。

 懐かしいということなのかも知れない。

 目下の最大の問題だったが、予想外の快諾を得たのだった。


「よう、戻ったぜ。そっちも上手くいったみたいだな」


 翌日、ゲイリーが戻って来た。


「三つ目になって、蛇の髪の毛も増えたんだな」


「こやつは誰じゃ?」


「サイクロップスのゲイリー。よろしくな」


「ゲイリー、そのひと四千年前のご先祖様だからね」


 インゲルはなれなれしいゲイリーに指摘しておいた。

 機嫌を損ねて彼を石に変えられでもしたら大変だ。


「ウェスタ、防具を作っておいたぜ」


 どうやらゲイリーはこのために自城に戻ったようだった。

 それは胸当てと手甲と脛当てだった。コートとキュロットの上から付けられ、動きを制限しないように作られていた。


「あとはこれだ」


 青いマントだった。


「守りの魔法が込められている。一回くらいならテュポーンの攻撃に耐えてくれるはずだぜ」


「助かる、ゲイリー」


 ウェスタのために防具とマントを用意したゲイリーだったが、他にも用意したものがあった。


「ゲーゴスの兄貴、この盾、打ち直しておいたぜ」


 手渡されたのはテュポーンの熱線で焼かれ原形を留めぬほどにグニャグニャになったはずの戦神の盾だった。

 施されていた意匠まで完全に復元している。


「お前が直したのか?」


「どうよ。俺もなかなかやるもんだろう?」


 ゲイリーは顎髭を撫で付けながら得意そうだ。


「ふっ…」


 ゲイリーの知る限りでは初めて見るゲーゴスの笑顔だった。


「ただ見た目直ったけど、なんつうかオーラ的な部分は再現できなかったぜ」


「光の女神の加護を魔王に再現されてたまるか。ジャンヌ、頼んだ」


「分かったわ」


 僧侶ジャンヌが盾を受け取り、聖水を注ぎ、祈りを捧げると女神の加護は復活した。


 大メデューサの瞳を埋め込み、蛇髪が増え、防具とマントを身に付け、テュポーンとの再戦に向かう魔王ウェスタ。

 この戦闘はウェスタと彼の始めた戦いに大きな転機を与えることになるのであった。

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