第8話 神祖メデューサの瞳
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四千年前の神々と魔族は戦いに明け暮れていた。
初代メデューサもその戦いに参加し、人間に弱点を突かれ、殺害された。
「大メデューサ様は死の間際、瞳に絶大な魔力を封じ込められた。
そして、その目玉はこの城に保管されているのだ」
「そんなものがあるならもっと早く使えばよかったのに」
「過去にご先祖様が試した時は失敗して死亡した。できることなら使わずに済ませたかった」
「そんな危険なものを!あなた病み上がりどころじゃないでしょう?」
せっかく蘇生したのに何を考えているの?
「上手く行けば『石化の蛇眼』が使えるようになるかも知れない。
テュポーンが初代十二支族なら、こちらも初代の力を手に入れるしかない」
戦乱の時代が終わり、戦いのための力が弱まり、魔族は段々人間に近づいている。
それは魔界の俗説だったが、テュポーンの規格外の強さがその説を補強した形だ。
「『手術』の用意を今日中に済ませます。明日まで待って下さい」
「済まないな。連続で」
「いえ、人間界の書物で得た知識を活かせるチャンスです。感謝したいくらいですよ」
アンクは楽しそうに無邪気に笑った。
「なるほど。『手術』か」
次の日になった。フィリップはアンクの準備を手伝っていた。
魔力の乏しい人間の編み出した人体の機能に干渉する「手術」と、魔力を操り、目的を執行する「魔術」の融合がアンクの考えた方法だった。
「神経と大メデューサの瞳を接続し、第三の目として定着させます。
最も拒否反応の起こらない方法です」
「それでうまく行くもんなのかのう?」
「魔法生物を作る魔術の応用です。勝算はあります。ただ…」
「ただ、なんじゃ?」
「この瞳には魔力以上の何かが隠されています」
アンクの手にしているものは石の球体だった。
人間の眼球と同じサイズだが、蛇の瞳のような模様が刻まれている。
「何かとは?」
「この瞳を研究していて、視線を感じることが何度かありました。
この瞳には意志があるのではないか、そんな気がするのです」
かくして、『手術』は始まった。
ウェスタとアンク、フィリップが部屋にはいり、他の者たちは外で待つ。
「中で何をやってるのかしら?」
アイギスは興味深々だった。
「結構大変なことになってるから見るなって、フィリップは言ってたわ」
「ジャンヌも?」
「わたしは場合によっては回復魔法のために呼ぶって。
そう言えばゲイリーさんがいないわね」
「今の内に自分の領地に戻っておくって。取りに行くものもあるって」
「アイギス、あなたも今の内に休んでおきなさい」
「分かったわ。ジャンヌも無理しないでね」
「石化の蛇眼」、それをウェスタが使えるようになれば戦力は飛躍的に上昇するだろう。
とにかく成功を祈るしかない。アイギスはそう思いながら休息することにした。
半日ほどで手術は終わった。
部屋に入ったアイギスはウェスタの姿に心配になった。
眠らされていたウェスタの額には包帯がぐるぐる巻きにされている。
「大丈夫なの?」
「成功しましたよ、安心して下さい」
アンクは清々しい笑顔で言った、が対照的に浮かない顔なのがフィリップだった。
「どうしたの、フィリップ?」
「うむ、アンク殿の言うようにあの瞳は確かに何かあるのう。
移植した目がこっちを見つめて、いや睨んで来た気がする」
「怖いこと言わないでよ」
「意志があるというのもあながち有り得ん話じゃなさそうだわい」
ウェスタはその日の夜まで眠り続けた。そして…
「目が覚めましたか、ウェスタ?」
ウェスタは目覚めると額の包帯を取った。。
そこには確かに第三の目があった。黄色い蛇眼だった。常時蛇の目をしている。
「ああ、大丈夫。しかしまだ移植された瞳は見え………」
その時、ふいにその瞳に激痛が走り、そして…
「ココ…ハ、ドコ…ジャ…?!」
ウェスタの意志に反して口が動き、中央の目が辺りを見回すように動く、さらに。
「グワアアアアアアアアアッ!」
断末魔の雄叫びと共にウェスタの体に異変が、インゲルの反対側、ウェスタの顔の右側面を突き破り、一匹の蛇が現れる。
それは新しい蛇髪だった。