第7話 再び魔界へ
魔界に戻った勇者一行と、カエルになったメデューサ族、ウェスタ、人間の姿になった蛇髪、インゲルの向かった先はメデューサ城だった。
ウェスタの遺体はメデューサ城に安置されていた。
「遅かったですね」
スフィンクス族の少年、アンクはすでに復活の儀式の用意を済ませて待っていた。
「ごめんなさいね、わたしはさっさと帰ろうとしてたのよ」
インゲルはきっぱりと弁明した。
「お詫びといっては何だけど、人間界のお土産ならあるわ」
そう言うとインゲルは老婦人にプレゼントされたケーキを差し出した。
元々は老婦人にプレゼントしたものだったが。
「甘過ぎです。わたしはもっとビターな方が好みです」
一口食べたアンクはそういった。]
「あら、趣味がおばあちゃんぽいのね」
「さっそくウェスタを復活させましょう。
遺体が腐敗しても復活できますが、回復はそれだけ遅くなります」
「そうだな、鮮度が落ちるのうまくないな」
ウェスタの遺体が安置された地下室へ向かう。
魔方陣の上にウェスタが寝かされていた。
「インゲル、ウェスタに触れるのです」
インゲルは緊張した面持ちでウェスタの左の頬に触れた。
さすがに自分の死体を目の当たりにするのは気分のいいものではない。
インゲルは根本から千切れていていたが、ウェスタの身体も彼女にとっては見慣れた自分の身体だ。
左の頬にふれるとインゲルの身体が光に包まれ、姿を消した。
同時にウェスタの切断された蛇髪の根本にその光が移動して行く。
元通りの蛇髪が姿を取り戻すと、アイギスの手に収まっていたカエルも光に変わっていく。
そして、光がウェスタの中に入っていった。
ウェスタはゆっくりと目を開いた。顔はみるみる血色を取り戻していく。
「分かりますか?ウェスタ」
アンクが問いかける。
手を動かし、腕を動かし、膝を立ててみる。
「ああ、上手くいったようだな。ありがとう」
「どうやらそうのようね」
インゲルも体を動くことを確認した。
「本当に生き返ったのね!」
そして、アイギスも駆け寄って来た。
「心配させやがって」
ゲイリーも、やれやれと言った表情で見守っている。
「みんな心配をかけて済まなかったな」
ウェスタは体を起こし、立ち上がる。
最初は少しふらついたが、五体満足なようだ。
ウェスタは蘇生した。
「アンク、魔界の状況を教えてくれ」
「テュポーンの暴走が止まりません」
アンクの話はほとんどテュポーンに関することだった。
ウェスタはメデューサ領や自分に加担したサイクロップス領への侵攻を心配していたが、それどころではなかったようだ。
「ヘルヘイムの壁が破られました」
ヘルヘイムの壁とは大魔王城周辺の都市部を囲む巨大な防壁だ。
「と、言うことは市街地でも被害が?」
「はい、わたしとリヴァイアサン、ベヒモスの領地で被害が出ています。
特にリヴァイアサン領の被害が甚大です」
「大魔王は何をしている?」
「バロールとヨトゥンがテュポーン討伐に失敗し、敗走しました」
バロールとヨトゥンは大魔王の腹心で魔王でありながら領地は持たず、大魔王城を守備している。
バロールは見るものを死に追いやる「致死の凶眼」を持つ。
武芸にも通じ、大鎌を操る
現魔王ザデンは「死神」の異名を持つ。
ヨトゥンは「霜の巨人」と言われる屈強な戦士の一族で、吹雪を起こす。
現魔王ヘルセーはそれを魔力で制御する、文武両道の才媛だ。
自分の蛇眼が通用しなかったことで予感はしていたが、バロールの「致死の凶眼」も効果がなかったようだ。
「ヘルセーの吹雪も効果がなかったのか」
「足止めはできましたが、凍結させるには至りませんでした」
「初代十二支族ってのはやっぱやばいな」
ゲイリーも驚きを隠せなかった。自分たちも歯が立たなかったが、あれでも城を出たばかりで本調子ではなかったのかも知れない。
「ああ、大魔王はテュポーンを甘く見過ぎたな」
「このまま奴が大魔王を倒してくれんもんかのう?」
魔法使いフィリップが言ったが、
「いえ、市街地に被害が出ているなら放置する訳にはいかない」
「どうせ攻め込むところじゃろう?」
「それとこれとは話が別です。」
しばらく思案していたウェスタだったが、
「今がその時か…」
決意をして立ち上がった。
「アンク、また頼めるか?」
「ええ。元々、わたしはこのために来たのですよ?」
「一体何をするつもりなの?」
アイギスは尋ねた。この期に及んでまだ策があるというのか。
「大メデューサ様の瞳をわたしに埋め込む」
ウェスタは言った。
「大メデューサ?」
「初代のメデューサ、神祖メデューサ様のことだ」