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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第3話 決戦イフリート城

 魔界の荒野を大魔王城目指し、進む勇者一行。


 兜代わりの髪飾りに動きやすい戦闘服と短めのマントを身に着けたのは女勇者アイギス。手にした片手剣は勇者の剣で。魔物に対して無類の強さを誇る。

 加えて倒した魔物の力を手に入れる力を持った魔王退治のスペシャリストだ。


 鎧兜で武装した屈強な戦士はゲーゴス。両刃の大戦斧、魔神の戦斧と戦神の鎧は選ばれし勇者の家来にしか扱えない神界の宝具だ。

 勇敢で寡黙な攻守の要である。


 白いヴェールと薄紫の修道服に身を包んだ美しい女僧侶ジャンヌは勇者アイギスの幼なじみで回復魔法では右に出るものはなく、一行の危機を何度となく救って来た。

 女神の加護を受けた勇者一行は彼女の魔法でなら死から蘇生することすらできる。


 杖とローブを身につけた老人は魔法使いフィリップ。やはりその杖は宝具である賢者の杖で絶大な魔力を誇る。

 また知恵者であり、一行に秘策を授けて来た。


 そして、メデューサ族の魔王ウェスタ。ご先祖様のように相手を石に変えるほどではないが、視線で様々な魔力を操る。

 また剣技の達人でもあり、肉弾戦もこなす。


 一行は大魔王城の過程にある魔王城を攻略しなければならない。


「でこいつは本当に信用できるのか」


 と戦士ゲーゴス。

 勇者の一行に魔王が含まれているのはかつてない事態だった。

 単身メデューサ城に向かったアイギスがその魔王と一緒にやってきた時は、操られたのかと疑ったものだった。


「できると思うわ。それに無益な戦いはしたくないの」


「わたしはアイギスを信じますわ」


 女僧侶ジャンヌは特に気にしてない様子だ。


「怪しい動きを見せたらわしの魔法で後ろから狙うからの」


「よろしく頼む」


「頼まないでよ!何言ってんのよ、わたしは嫌」


 メデューサの魔王、ウェスタのただ一本の蛇髪、インゲルが髪の間から顔を出す。


「ひっひっひ。なら仲良くしよう、蛇のお嬢ちゃん」


 残る魔王城は五つ、その一つ目が姿を見せる。


「次の魔王は誰なんだ?」


 先頭を進む戦士ゲーゴスが尋ねる。


「イフリート族のヒートラだ」


 武闘派の魔王の中でも人間を敵視し、大魔王の人間界侵略に賛成していた魔王の筆頭だ。


「彼との戦いは避けられないだろう。配下の魔族もよく訓練されていて、一筋縄ではいかない」


「望むところだ。どうやらさっそく来なすったぜ」


 ゲーゴスは斧を構え直した。

 城が目前のところで魔物の一群が迫って来る。


「包囲作戦のようだがその分、厚みはないようじゃ」


 横に大きく広がった魔物の陣形を眺め、後方のフィリップが言った。


「アイギスを消耗させずに魔王にぶつけたい。ウェスタ殿とアイギスは陣を突っ切ってイフリート城に向かうのじゃ」


「分かったわ!」


 アイギスとウェスタは真っ先に剣を抜いて敵陣に切り込んだ。

 ウェスタは大魔王を倒すと決めた時から同族との戦いをためらうまいと決めてはいたが、やはり気が引けるのに違いはなかった。

 極力「恐慌の蛇眼」の力で魔族の戦意をくじく作戦をとった。

 フィリップの洞察通り包囲陣を抜けるのはたやすかった。

 ちらと後方を見やったが、勇者一行である戦士ゲーゴスと魔法使いフィリップの戦闘力は精強なイフリート軍に全く遅れを取っていなかった。

 僧侶ジャンヌの後方支援あってのものであろうことも容易に想像がついた。


 ウェスタとアイギスがイフリート城に突入する様子を近くの小高い丘から見つめる三つの人影があった。


「あれ普通にメデューサだよね」

「微妙に勇者っぽいのと一緒だったよね」

「逆に大魔王様の予想通りだったよね」


「普通に裏切りじゃん」

「微妙に裏切りじゃん」

「逆に裏切りじゃん」


 影たちは猛スピードで飛び去った。大魔王城の方角へ。


 相手は野戦で決着をつけようとしていたようで城内の戦力はそれほどでもなく、ウェスタとジャンヌはほどなく玉座の間に辿り付いた。


「ごきげんよう、ヒートラ殿」


 ウェスタは玉座に座るイフリートの魔王ヒートラに話し掛けた。


「なんだ、貴様。メデューサか?自城を守っていたのではないのか?」


 魔王ヒートラは半裸の恰幅のいい中年の姿をしている。

 頭髪はないがターバンを巻いており、ターバンからは牛のような角が左右から見えていた。鼻の下とあごに長い黒髭を生やしている。


「はい、守っていました」


「守ってないな。勝手に持ち場を離れておる」


 ヒートラは頬杖を突いたまま、不機嫌そうに言った

 。

「そもそもその女はなんだ?なぜ人間と一緒にここに来た?」


「彼女は勇者アイギス殿です」


「ふん」


 もちろんそんなことは分かっているという雰囲気だ。



「で、何故そんな奴と一緒におる?侵略者の手引きなどしおって、どういうつもりだ?」


「勇者殿が魔界に侵攻する発端は、大魔王が人間界の侵攻を始めたことです」


「女神が勇者を創ったことの方が先だ。女神の魔界侵略の気配に先手を打っただけであろう」


「戦争を止めなければ人間界にも魔界にも長く大きな被害が出ます」


「そもそも人間と魔族は合い入れない。いずれは戦う運命だ」


「和解する余地はある。魔族が人間に近づいていることがその証拠だ。

 人間と争っても魔族に先はない。和解して手を取り合うべきだ」


「人間と天界を相手に戦うのが魔族の伝統よ」


「歴史を好き勝手なタイミングで区切って伝統にするな。

 黎明期の魔界は戦乱の時代だった。

 魔王たちの祖先は大魔王の座を巡って争っていた。

 伝統を重んじているなら大魔王と戦え!」


「屁理屈だ!貴様の言うことは何から何まで屁理屈だ!」


「わたしと協力して大魔王を倒しましょう!悪いようにはしません」


「お前の方こそ考えを改めるのだな。サイクロップスの軍も合流する手はずになっておる」


 魔王サイクロップス、イフリートに劣らぬ屈強さと長身を誇る武勇に秀でた魔王で、鍛冶を得意とし、武具の扱いにも精通する強力な魔王だ。

 イフリート城の次に向かう魔王城の城主だ。

 ヒートラはさすがに座して敵を待っていただけではなく、他の魔王との連携作戦を考えていたようだ。


「わたしが大魔王になって魔界も人間界も自由で平和にして見せる!」


「若造の言うことなど!」


 屈強な魔神が炎を纏う。煙なき炎から生まれたという魔王イフリートの本領発揮だ。

 交渉は決裂したということだった。インゲルはかぶりを振った。


「駄目だったようね。援軍も来るって言うじゃない」


「サイクロップスを待つまでもない。メデューサの若造と小娘の勇者などワシ一人で充分よ!」


「その気勢を挫く!」


 ウェスタの瞳が蛇のそれに変化する。「恐慌の蛇眼」だ。


「賢しいわっ!」


 視線の魔力は間違いなくヒートラに触れたが恐慌した気配はない。


「貴様のような若輩の睨みが効いてたまるか!」


 怒声と共に炎の帯、火炎流が飛んでくる。


「本当に効かないわねえ」


「魔力が防御壁の役目を果たしている。気迫の差と言ってもいい」


「のんきに言ってないで、その気迫を見せなさいよ」


「だったらわたしが!」


 アイギスの手から水流が迸り、ヒートラの火炎流を打ち消す。


「ハイドラの技を使うだと?」


 ヒートラもウェスタ同様アイギスのこの能力に驚いたようだった。


「だがハイドラほどには使いこなせておらんな!」


 水流と火炎流の応酬は火炎流に分があるようだった。

 ヒートラから玉座の間一面に広がる火炎はアイギスの水流では止められない。


「そもそもわしは力はハイドラにも勝っておる!」


「一旦逃れよう!」


 ウェスタはアイギスと手を引いて走った。玉座の間の端の柱の影に隠れた。

 柱の裏まではイフリートの炎は届かなかった。


「彼も自分の能力で城を破壊したくはないだろう。柱の影なら防げると思っていた」


「でもここに隠れていても仕方がないわ。なんとかしないと」


 話している間にも熱気がこもって来る。

 熱気はイフリートにとっては苦にならない。

 これは戦闘において大きなアドバンテージとなった。


「わたしが囮になろう。その隙に斬りかかるんだ」


「でもそんなことをしたらあなたが!」


「見たところ逃げ切れない攻撃ではない」


 実際に柱の影までは逃げおおせた。


「一面に広がる炎は熱気のためのもので大した威力はない。

 そして威力の高い火炎流は一発ずつしか使ってこない。

 わたしに向かって火炎流を放って来た時がチャンスだ」


 アイギスに秘策がある訳ではない。この方法でいくしかなかった。


「死なないでよ」


「ああ!わたしにはまだやることがある」


 ウェスタは柱の影から飛び出し、ヒートラに斬りかかって行った。

 ヒートラの手から火炎流が放たれる。今だ!とウェスタはアイギスに合図を送ろうとした。が…


「馬鹿めが!そう来ると思っておったわ」


 火炎流はウェスタを狙ってはいなかった。アイビスの隠れる柱に向かって行き、しかも曲線の動きで柱の裏に回り込んで行く。


「曲がるだと!?」


「戦いの年季が違うわ、小僧!」


 自身も後ろに飛び退き、ウェスタの攻撃にも備えている。

 曲線の動きをここまで見せず隙を作らせる作戦だった。まんまと乗せられてしまったのだった。


「このままでは、アイビス!」


 その時、ウェスタがアイビスを凝視して、アイビスも彼の方を向いた。

 とっさのことだったが、二人の目が合った。

 すると、アイビスの体が魔力の光に包まれた。そこに火炎流が直撃する。

 爆音が轟く。


「まずは一人……何っ!?」


 直撃したはずの火炎流から女勇者が飛び出して来る。


「たぁぁぁ―――っ!」


 そのままアイギスはヒートラを袈裟斬りに切り裂いた。


「ばかなっ!直撃したはずっ…」


 ヒートラが倒れると彼のまとっていた炎も消えた。


「あなたが炎を防いでくれたの?ウェスタ」


 アイギスのまとった光もほどなく消えた。ウェスタと目の合った瞬間現れた光だった。


「とっさに思い付いた。わたしも初めてでうまくいくか分からなかった。

 ただ視線で呪いを飛ばせるなら、加護や祝福だって飛ばせると思ったんだ」


「祝福?ふふ、本当に魔王らしくないのね」


「おかしいかな?」


「ううん、あなたのいいところだと思うわ」


 はにかむウェスタにアイギスは屈託のない笑顔を見せた。

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