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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第1話 魔王と勇者の邂逅

 これは神と魔が人と共にある世界の物語。


 大魔王の侵略により人間界は征服されかかる。

 しかし、女神の加護を受けた勇者一行により大魔王は敗走、魔界に撤退。

 人間界と魔界を分ける結界のある人間界の大魔王城、通称「結界城」は勇者に明け渡される。


 さらに勇者は魔界に逃げ込んだ大魔王にとどめを刺すべく魔界に進出する。

勇者一行はその圧倒的な武力で破竹の進撃を続ける。

 魔界十二支族の治める魔王城は次々陥落、勇者一行は六つ目の魔王城、メデューサ城に迫っていた。



 これは大魔王配下、メデューサ城城主魔王ウェスタの物語、二つの世界と二つの正義の物語。


「ウェスタ様っ!」


 メデューサ城玉座の間に子鬼が踊り込む。


「ヒドラ城陥落とのこと!」


「そうか、ご苦労」


「ご苦労さま」


 玉座からは男と女の声がしたが玉座に座るのは青年が一人。

 長い銀髪と雪のような白い肌。

 魔界王族らしいレースの付いたコート。

 キュロットを纏った美しい青年だけだ。

 しかし銀髪がひとりでに動くとその間から小さな蛇が姿を見せる。

女の声はその蛇からだ。


 青年ウェスタは魔界十二支族の一人メデューサを先祖に持つ「魔王」である。

 四千年前の神祖、大メデューサは全ての髪が蛇でその絶大な魔力で見るものを石に変えたと言う。

 しかし、長い歴史でその力は弱まり、ウェスタの蛇髪は一体のみで、視線の力もせいぜい見たものを恐怖ですくませる事くらいしかできない。


「なおヒドラ城に安置されていた鏡の盾も勇者に強奪された模様!」


「ハイドラはそんなものを!?まるでわたしを倒すために持っていたようじゃないか」


「おあつらえ向きね」


 鏡の盾とはメデューサ族の視線、蛇眼を跳ね返すまじないのほどこされた盾。

 神祖大メデューサが敗死するきっかけとなった忌まわしい盾のことだ。

 それがよりにもよって隣国で保管されていた上に、勇者の手に渡ってしまったという。


「インゲル、ハイドラはわたしを倒す気だったのだろうか」


「意外と嫌われてたのかも」


 インゲルとは蛇髪の名だ。女性の人格を持っている。

 頭髪と一緒に出現した、ウェスタにとっては妹のような存在だ。

 専用のカチューシャには花飾りも付いている。


 さらに魔界の赤黒い空から、羽を持った悪魔が玉座の間に舞い降りた。


「大魔王様のご命令です。この城で勇者を迎え撃てとのこと」


「援軍は?」


「家臣一同一丸となって死守せよとのこと」


「あい分かった。そなたは飛行の疲れを癒すがいい」


「援軍もなし、わたし達に死ねってことかしら」


 インゲルが悪態をつく。


「死守せよとはそういうことだろう。大魔王様も人間界で負った手傷が完治していない」


「時間稼ぎしろって?」


 だから人間界を攻めるなと言ったのに、とは口に出さなかった。

 勇者が魔界にまで攻め込んで来ているのだから、どの道避けられない戦いだったのかも知れない。

 ウェスタの心の動きを察知してかインゲルもそれ以上の悪態はつかなかった。


 やるだけのことはやらなければならない。

 勇者一行はたった四人だが、恐るべき戦闘力を持つ。

 魔物の軍勢をもってしても歯が立たないという。

 絶望的な戦に家臣を巻き込むことが慙愧の念に堪えなかったが、布陣の指揮を済ませる。


 そして戦闘が始まった。

 怒号と剣戟の音が鳴り響いたがすぐに止んだ。

 玉座の間の扉が開く。


「魔王ウェスタ、覚悟!」


 剣を突き出し宣戦布告したのは黒い短髪の凛とした顔立ちの少女だった。

 兜代わりの髪飾りに動きやすい戦闘服と短めのマントは神々の加護が施され、見た目とは裏腹の防御性能を誇る。

 女勇者アイギス、魔界からの大魔王の侵攻からほどなくして現れ、3人の仲間と共に大魔王の地上の拠点を次々と攻略。

 ついに結界城を攻略、そのまま大魔王を追って魔界にも進出した。


 片手には剣があったが、もう片手には光り輝く盾があった。「鏡の盾」に間違いないだろう。


「勇者殿、あなた一人なのか」


「仲間は他の城に向かったわ。鏡の盾は一つしかないからね。わたし一人で相手をするわ」


「そうか、確かにその盾は厄介だ。だが戦うしかあるまい」


 ウェスタは玉座を立った。そして精神を集中するとその双眸に変化が起こる。その瞳は人のものではなくなり、獰猛な獣が獲物を射抜くのに似た鋭い眼光を宿す。

 メデューサ族の蛇眼の発動の合図だ。

 それに気付いた女勇者は「鏡の盾」を前方にかざした。見た目の変化はないが、盾にかすかな衝撃を覚える。

 すると、すでに人の瞳に戻っていたウェスタの表情がみるみるこわばっている。


 女勇者の姿が何倍にも大きく見える。その鋭い剣が今にも自分に振り下ろされそうな気がして、いても立ってもいられない。

 間違いなくメデューサ族の「恐慌の蛇眼」の効果だ。


「自分から受けに来るなんて。何を考えているの?」


「我ながらこれはなかなかきつい。だが…」


 再びウェスタの瞳が蛇眼に変わる。そして鏡の盾に視線が送られ、それは再び目の前の魔王に跳ね返る。


「またっ?」


 次の瞬間、ウェスタの恐慌は消え、逆に精神が高揚して来る。自信に満ち溢れ、勝利の確信すら感じる。

「恐慌の蛇眼」と正反対の「鼓舞の蛇眼」の効果だ。


「いいな!これで戦える」


「先に鏡見て済ませておいてちょうだいな」


「いや、せっかくだ、鏡の盾の力を見ててみたかった」


「あらそう」


 そしてウェスタも剣を抜いた。


「さあそろそろ始めるか」


どちらかと言えば優男の顔立ちだったウェスタだが、今は好戦的にすら見える。そして蛇を模したメデューサ族独特の剣技の構えをした後……


「はぁっ!」


コートがなびき、ウェスタは斬り込んだ。

アイギスが勇者の剣で受けた剣の一撃は鋭かった。恐慌しているものの攻撃とは到底思われない。


「こんなこともできるなんて…。さすがは魔王。視線を封じただけでは勝てないようね」


 この一撃でウェスタの剣技の才を見抜いたアイギスはそれでも慌てる様子はなかった。

 女勇者は間合いを少し離すと、精神を集中する。魔法の詠唱に似ていたがそうではなかった。


「だったらこれでもくらいなさい!」


 アイギスが片手を付き出すとそこから水流が噴出する。

 ウェスタはそれには見覚えがあった。


「ハイドラの技だと!」


 それは隣国の城主、すでに勇者に打ち取られた八つ首の竜ハイドラの得意技だ。


「何故君がハイドラの技をっ?」


「勇者の力よ。わたしは倒した魔物の力を自分のものにできる」


「それが勇者の力だって?」


 勇者の力とは天界の神々の加護により魔族が苦手とする神聖な武具を扱う能力ではなかったか。

 過去に大魔王と対峙した勇者はそうだったはずだ。

 目の前の女勇者の能力はむしろ…


「覚悟なさい、魔王」


「いや、待ってくれ」


 ウェスタは剣を収めようとした。


「戦うのはわたしの本意ではない。剣を収めてくれないか?」


 ところが…


「お前は嘘つきだッ!」


 アイギスは激高のままに詰め寄り、剣を振り下ろした。ウェスタは受け止めたがその気迫に圧倒されてしまう。


「ハンス村にお前がいたことは知っている。魔王軍の襲撃で全滅した村だ」


「あの村を…、知っているのか!」


 後ずさるウェスタにアイギスから火球が放たれる。

 結界城に生息する火竜から会得した灼熱の炎だ。

 かわしたウェスタにすかさず詰め寄るアイギス。剣と剣がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。


「やれやれ、争いは好まないが倒される訳にはいかないな」


「メデューサの魔王、貴様だけは許さない!」


 こうしてメデューサ族の魔王ウェスタと女勇者アイギスは邂逅し、二つの世界の物語が動き出す。

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