銀色狼は、紅獅子と出会う 続き
「えっ?!」
「酒樽やら大きな荷物を運ぶのに適任だろうが。ついでに、あの場で飲みつぶれた連中、全員、まとめて連れて行くぞ」
確かに10人ぐらいの男達が飲みつぶれ、酒場で眠っている。二日酔いは確実だろう。
「朝食を食べてから動けば、夕方には間に合うだろう・・・ところで、まだ、動けるよな?」
気づけば町はずれのちょっと寂しい人通りの少ない開けた場所、といえば、当然、待っているのは物騒な方々でしっかり武器も手にしている。
「殺気が消せていないんだよ。あんなものを駄々洩れさせていたら、待ち伏せなんてばれるぞ」
気づけば、リィーンはしっかり右手に細剣を握っている。ルティアルも拳を固めて臨戦態勢。
「後片付けは最後まできちんとやりましょう、だな」
「これで全員、かな?」
ルティアルの確認をリィーンは聞き流した。
「聞けば、いいだろう!」
2人とも、相当に飲んだはずなのに、いや、飲んだからこそなのか、理性のタガが若干、外れぎみだ。
「げっ!なんだよ、こいつら!!」
スピードで距離を一気に詰めて間合いを外さずリィーンは細剣を振るい、ルティアルは間隙を縫うように相手を一撃で沈めてしまう。
これが即席のコンビなのか?と思わずにはいられないほど、2人のコンビネーションは見事だった。
「さて、これで全員か?」
リィーンは切っ先を倒れた男の喉元に向けていた。少しでも動けば、容赦なく突くか、切り裂くか、どちらでも可能な状態だ。
「正直にいえば、命は助かるぞ」
淡々と事実をいうリィーンに、男はうなずき、声を出そうとしたができなかった。
「話さなくていい。お前が嘘を言っていることは、分かったからな」
不敵な笑みを浮かべ、男を見据えるリィーンからは周囲を圧倒する気配が漂っている。傍にいるルティアルが冷や汗をかきながら、声をかけた。
「リィーン。人のことは言えないぞ」
2人を囲むようにして、別の集団が姿を見せるが、ルティアルの身体が動くと同時に次々と倒れていく。
「賭けに負けたくはないからな!」
「覚えていたのか?!」
賭けという言葉に反応して、リィーンも細剣を駆使して、囲んだ男達を問答無用で倒していった。
そして、気付けば、
「これで、おわりか?」
「・・・また、引き分けだな」
動くこともできず、倒れたままの男達をどうしようかと考えていたリィーンは、一人の男が手にしている武器を取り上げ、表情を険しくさせた。
「どういうことだ?」
リィーンが手にしているのは、短刀だが刃に何か塗られている。
「毒、か」
「毒って、どうして?!」
ルティアルは驚き、リィーンの手にある短刀を見つめていた。
「・・・この乱闘中、こいつだけ、しつこくお前を狙っていた」
この発言内容は、あの乱闘のなかでリィーンは男達の動きを見分けていた、ということになる。
「リィーン。もしかして、全員の動きを見極めていたのか?!」
「当たり前だろう。そんなことより、こいつに見覚えは?」
「ない!」
きっぱり言うルティアルを見て、リィーンは苦笑するしかなかった。
「どうやら、また、客のようだぜ」
気づけば、2人は別の男達に囲まれていた。
「ったく、もてるのは構わないが・・・今度はかなり厄介だな」
ため息交じりにつぶやいた直後、リィーンの表情は一変した。
「目的は、ルーティか?」
先ほどまで相手にしていた男達とは明らかに違う、鍛えられた男たちが10人、道をふさぐようにして2人を囲んでいた。
「そうなる・・・あと、できれば、加減してほしい」
ルティアルの困惑した表情を見て、リィーンは盛大にため息を漏らした。
「無茶を言ってくれる・・・今までの奴らとは格が違うぞ」
右手の細剣を握り直し、鋭さを増した視線を囲んだ男達に向けていた。
「悪いが、今度ばかりは分が悪い。離脱優先でいいか?」
「おれも、そう思う・・・行くぞ!」
ルティアルが走り出すと同時にリィーンは同じ方向に向かって走り出した。今までとは違う戦法に、囲んでいた男達が一瞬だけひるんだ。
その一瞬が勝負を分けた。
リィーンはルティアルの前へ出ると、右手の細剣を一閃させた。
「ルーティ!!」
リィーンの一閃でひるんだ男達をルティアルが的確に倒していく。
何とか突破できる、と思った瞬間だった。
一人の男がリィーンの前に立ちはだかった。左手にはすでに剣を持っている。
「リィーン!!」
ルティアルが悲鳴に近い声を上げる。
「止まるな!!」
リィーンは走りながら、左手を動かし何かを握っていた。そして、両手を同時に一閃する。
「双剣?!」
男は間合いを取るために身体を引いた。その僅かな隙を2人は逃すわけにはいかなかった。
「勝負!!」
ルティアルはさらに踏み込み、男をさらに退かせる。追い打ちはリィーンの細剣だった。ルティアルの拳と入れ替わるように突き出され、男の右こめかみを掠めた。
「?!」
リィーンと男は同時に驚いた表情を浮かべた。
だが、言葉はなく、リィーンはルティアルと息を合わせ、男の横を駆け抜けていった。
「将軍!!」
「追わなくていい・・・彼女は、味方のようだ」
こめかみの傷に触れた男は、苦笑していた。
「俺に傷を負わせるとは・・・面白い」
黒い瞳が見据えたのは、2人が走り去った方向だった。
「当面、監視だけだな・・・気づかれないように、細心の注意を払え。何かあればすぐに報告を」
無事だった男達に指示を出した後、将軍と呼ばれた男は、負傷した男達を確認した。
「加減はしたようだが・・・しばらくは動けないようだな」
「申し訳ありません。見た目以上に細剣の威力が強く、やられました」
利き手を負傷した男達は応急処置を受けながら、リィーンの剣技を分析していた。
「双剣の使い手だったとは・・・右にも細剣を下げていたのでもしかしたらとは思ったが」
「でも、最初から抜いていなかったのは理由があるのか」
男達は感嘆しながらも、どうすればリィーンを止めることができるのかと意見を交わしている。
「あの速さを止めるのは、至難の業だぞ」
最後のに出した結論に、誰かともなく、ため息が漏れた。