プロローグ「設定の終わり 」
ぼちぼち書いていきます。
1
ここは終わりゆく世界、小説の中の世界。ここにいる人々はそのことを知っており、自身の運命を自覚している。小説が完結してしまった時点でもう登場人物の人生は終わってしまう。そしてこの世界の主人公の立ち位置にいるグランは、この世界、つまりは小説の中では最後の最後、ラスボスをたおしてまった場面にいた。この時点でグランは人生の終わりを迎える直前だ。小説の終わりはその中にいる登場人物の人生の終着点だ。
「これで終わったんだ!」
喜ばしげに、誇らしげに言う「台詞」だ、しかしこれはグランが実際に言いたいことではなく、設定されたものであった 。
「これでおわってしまうのか…」
この言葉こそがグランの本心である。
この後、宴会がありこの世界の人々は平和となった世界で喜びに満ちて幕を閉じる…という設定だ。
いよいよ最後の一行に差し掛かる、これで世界は終わってしまうのだ。皆が覚悟を決めた「もう最後だ」最後の一文字を読み終える。これで終わりだ。誰もがそう思ったしかし次の瞬間空が一瞬光ったような気がした。そして世界が終わ…らなかった。
2
一瞬の静寂の後、世界中がざわめき出す。ハッピーエンドで終わるはずであった世界がまだ続いているのだ。何故かはわからない、だが人々はまだ生きていた。人々は喜びに溢れた。作られた設定の上を歩き続けていたのだから、咲いてそこから自由になったのだから。
設定の宴会は終わり、本物の宴会が始まる。皆狂ったように喜び、はしゃぎ、泣くものもいた。その中にいた特に目立ちもしない小説の設定では「主人公グランが3番目に立ち寄るま町で商人をやっていた」という以外の特徴がない、物語に何も影響しなかったただの人間種、セリがこの物語の主人公となる少年だ。
3
騒ぎが治るには数日かかった、セリ達はいつも通り…つまりは小説の設定での持ち場に戻っていた。それ以外に行き場がなかったからだ。隣には商人仲間設定だったヒスイがいた。彼は小説が完結し設定による縛りがなくなっても友人でいてくれたのだ、正直有難いと思った。が、再開した時にはとても驚かされた。かなりイメージが変わっていたからだ無口なおとなしい性格だと思っていたのだが、実際はよく喋る明るい感じの性格だった。
「いや〜スッゲェ祭りだったなーセ〜リ」
「あぁ、そうでしたね。でもあれは祭りというよりもただ騒ぎあっていただけに見えますが…」
「オィオィ設定ないのに敬語かよーつまんねーなー」
「いゃいゃ自ですし…」
正直まだ今の彼にはまだ慣れきっていない。セリ自身はあまり設定と本当の性格に大差なかったことも1つの原因でもあった。
「しかし驚いたなー世界が続くとは」
「そうですねそれには同感です」
「俺ってば終わると思ってたもんで心の中ではなきわめいてたぜー」
「ははは…」
実はセリもそうだった。
「で…話は変わるけどよーこれからどうするよ」
「明日の食料のことですか」
セリとヒスイは今食料不足だ明日の分もない。
「それだけじゃねーよ」
「それだけじゃない…ですか?」
「あぁ、俺たちは自由になったんだ。決められたレールの上を歩かなくてもいーんだ。ここらも最近治安悪くなってきてるって言われてるしな」
確かにそうだった、設定上三つ目の町ここアルノマでは元モブキャラ達が徒党を組んで悪業を企んでいるとか噂されていた。
「しかし僕達にどうこうできる問題ではないでしょう」
「まぁ、そうなんだろーけどなー」
物語が終わり、いくつか分かったことがあった、一つ目は設定と本当の性格に差があることだ。設定上仲が良かったものでも仲良くしてくれるのかが分からない。二つ目は自由になったことで治安が悪くなったことだ。縛られた生活で鬱憤がたまっていたのだろう。最後に三つ目は設定の能力がそのまま受け継がれていることだ。
「僕ら商人レベルの力では頑張ってバウム一体狩れる程度ですよ」
バウムとは最弱の獣種である。
小説の世界の設定をそのまま受け継いだこの世界には種族があり、セリ達人間種の他に、知能を持つ種族は神種、天人種、魔人種、獣人種がいて、知能を持たない種族には獣種と、それの上位互換に当たる魔力を持つ獣種、魔獣種が存在する。そして知能を持つ種族は、人間種、獣人種、魔人種、天人種、神種の順に強くなる。単に魔力を持って生まれてくる子の数と肉体的能力の差である。
「まったく不平等な世の中だなー」
「でも、そんなことより問題はやはり今後の生活でしょう」
「耳が痛いねーまったくよー」
設定がなくなったために今は生きていくためにどうすれば良いか途方に暮れているところだ。
「何度も言いますが、商人では成り立ちませんよ。もう売り買いで生活できる状況ではないですし、僕ら商人には自力で食料を調達する力もないんですから。」
「そんなのわかってらー」
「明日は冒険者設定だった人たちの狩猟のサポートをしておこぼれをもらうしかなさそうですね…」
「まぁ、それしかねーよな」
不満げに答えるヒスイ、どうやらあまり冒険者というものが好きではないようだった。
そんな不憫な2人の夜だった。