第一章ノ五 白の兄
さてと。
まあ、とにかく、それからしばらく……数百年の時を経て、再び終焉の幕は開いた。
でも、そこにはちゃんと、彼の子孫がいたんだ。
英雄の血を継ぐ子……血に深く刻み込まれた因果は、子孫であっても反応した。
そして、あの時のように。
まるで再現しているかのように、彼は青龍と契約し、終焉と戦うことになるんだ。
でも……今は、数百年も昔じゃない。
そこから、変わっていった。様々な事象がね……
ノースルストへの進路を決めてから、十数日。
「「ヒャッハー!!獲物獲物オオォォォ!!」」
ハイテンションな二人――朱羅と明理である。
今、二人は何をしているかと言うと――狩り、である。
木の棒の先端に鋭く尖らせた石を付けただけの原始的な武器に、付け焼き刃のようなサバイバル知識。
たったそれだけで――二人は、熊を追い詰めていた。
対して、川沿いの手頃な岩に座りながら、木の棒を持ち、じっとしている二人。
青刃と暗理である。が、暗理は青刃の膝を枕代わりにして寝ている。
そして、急に木の棒が曲がる。
「おっ……きたか」
木の棒を強く引き上げると、魚が飛び出してきた。
そう――ただの木の棒ではなく、先端に糸、更に糸の先端に釣り針のような形に仕上げた石をつけた、即席の釣竿。木もある程度は折れにくい物を用いている。
「しかしまあ……本当にミミズなんかで釣れるものなんだな」
釣りの餌には、適当に土を掘って、そこにいたミミズを使っている。
その成果は、既に十匹以上の魚を釣り上げる程であった。
「……まあ、そろそろいいか。暗理」
「……ん……もうちょっとだけ……せーばの膝枕…………」
「………………五分だけ、な」
その後、青刃もついうとうとしてしまい、結局十分ほど経った。
「おー、お帰りー!」
「そっちは大収穫だな、青刃!俺達は熊狩ってきたんだけど、どう焼こうか迷って――」
そこには、見慣れた二人の幼馴染み、赤く燃える薪――そして、熊の死体があった。
「よしお前らそこに正座しろ」
「「え?何でそんなこ」」
「正 座 し ろ」
「「はい」」
口調を強くし、威圧する。すると、すぐに二人が正座する。
「……確かに俺は何でもいいと言った。だがな、それと俺はこうとも言った。『せめて食べれる動物を狩ってこい』と。んで?お前らが狩ってきたのは?」
「「熊ですが何か?」」
何か駄目だったのか、と。わりと本気で不思議そうに。
「お前らにとって熊は食料なのか?」
「「そりゃあ……肉だし」」
肉なら何でもいいのかお前らは。
そう思うも、青刃は非常に面倒くさくなっていた。
「…………よし、わかった。お前らは熊だけ食ってろ」
「「ええ!?」」
「俺は熊など食わん。魚だけで十分だ」
「「青刃さん、せめて野菜が欲しいです!」」
「そこかよ……はあ、そこら辺の草があるだろ」
「「…………ああっ!そういえばそうだ!」」
本当にバカだコイツら。
それで、朱羅と明理は何を始めたかと言うと。
熊を手刀で切り分け(←この時点で既におかしい)、小さくしてから焼き、他は本当にそこら辺の雑草だったり花だったり木の実だったりを食べていた(←ますますおかしい)。あれで腹を壊さないのが、逆に化け物なんじゃないかとすら思う。
もう一方、青刃と暗理は。
「はあ……ほら」
「あーん……はむっ――(もきゅもきゅ)」
(完全に小動物だな、これ…………)
そう思いながら、青刃は焼いた魚を暗理に食べさせる。
そして、自分でも魚を食べる――が。
「味気無いのにも、慣れてきたな」
最初の頃は塩が欲しかったりしたが、最近ではすっかり慣れてしまった。
ガイドブックのようなものを見ながら採っていた、食べられる花や木の実は、自己判断で採れるほどになっていた。
あれから、何日経っただろうか。
「ふう……ご馳走さま」
「……すー…………」
暗理は早速、俺の膝を枕にして寝ていた。今は川沿いにいる。理由がないわけではなく、川沿いなら空がよく見えるからだ。そこから確認できる太陽の位置で方角を確認していたが――
「昼時……確認の仕方がないな」
そう呟きながらも、何となく空を見続けていると――
ガサッ
そう、後ろの茂みから聞こえる。
咄嗟に振り返ろうとするが、暗理が膝にいるせいで急な動きができなかった。
どうか猛獣ではなく、朱羅や明理であってくれと願っていたが――
「はあ、はあー……やっと、出て、これた……」
「…………?」
茂みから飛び出してきたのは、疲れた様子の、白髪で長身の男だった。
その男は、俺と暗理を見るなり、驚いたような顔をして。
「お……?まさか、青刃かぁ!?ハハッ、こんなところで会うなんてな」
そんなことを言い出した。
だが、青刃はその顔に見覚えが無かった。
「……?」
「あー、まあ随分と会ってないしな……俺だよ、光谷!白浜光谷!」
「――はあ!?コウ兄!?」
そして、ようやっと理解する。
白浜光谷――明理の兄で、ずっと前から旅に出ていた。
子供の頃はよく遊んでもらい、その頃から『コウ兄』とよんでいる。
頭の回転が良いものの、運動は明理に劣っていた。言ってしまえば、明理と正反対である。
「よう、やっと分かったか。そっちで寝てんのは暗理かー?相も変わらず仲良しだな!」
「コウ兄は何してんだよ、こんなとこで」
「ああ、あれからいろーんな町を見て回ってきたんだが……道に迷ってな!」
頼りになるにはなるのだが、たまにこういったことがある。
「ところで……お前らがいるってことは、愛しき妹も来ているのだろう!?……ついでに朱羅も」
朱羅はついで。妹が最優先である。
「一応、近くにはいるハズだけど……どこにいるか、までは分からない」
「あー、そっか。まあいいや、百メートル以内に入れば匂いで分かるし」
「子供の頃はよくわからなかったけどさ、それ相当に危険な発言だよな?」
「いいんだよ、兄妹だから。青刃にだって、美海ちゃんがいるだろ?」
確かに大切だが、コウ兄程ではない。
「んで?青刃たちは、こんなところで何してるんだ?」
「ああ。実は――」
「――それで、今は北の玄武の剣を取りに行く予定なんだ」
「へえ、ノースルストか。丁度、俺もそこに向かう予定があったんだ。折角だし、面白いものにでも乗ってくか?」
「……それじゃあ、頼もうかな」
その『面白いもの』が、何かは見当がつかなかったが……早くノースルストに行けると思い、乗る事にする。
その言葉を発した直後だろうか。
「……!」
コウ兄が、急に後ろの森に向かって警戒する。
「コウ兄……?」
「少し、待ってくれ…………来るぞ……!」
その言葉と同時に飛び出したものは――
「――おっ兄ちゃーん!ひっさしぶりー!」
「うおおおおおお会い(愛)たかったぞ!懐かしきマイリトルスイートハアァァァァト!!」
――白く俊敏な生物、明理だった。
そして、飛び出してきた明理を、音速さえ越える程のスピードで捕まえる光谷。
「うーん、よく分かったなぁ我が妹よ~」
「匂いがしたから!」
――ああ、兄が兄なら妹も妹なのだろうな。
そう、青刃は思った。
一通り、光谷が明理を撫で終わった頃。
朱羅も合流し、五人が揃う。
今は川沿いで座り、話をしている。が、明理は光谷の、暗理は青刃の膝枕で睡眠している。
「さて……そんじゃ、近くに町は無いか?」
そんなことを、コウ兄が聞いてきた。心なしか先程よりも表情が輝いている。
それには、青刃が応える。
「町ならどこでもいいのか?」
「おう。そこから通話……って言っても分からないか。まあ……町に着ければ、どうにでもなるからな」
通話、という単語が分からなかったが、特に気にせず、空を見る。
「方角は……まだ昼か」
「方角を確認したいなら、丁度いいものがある。ほら、これ」
そう言って光谷が取り出したものは、円形の中の四方にN、E、S、Wの文字が書かれており、さらに両端が尖り、片側が赤い針のような物が中心に置かれている。
「何だ、これ……?」
そんな疑問を、朱羅が口にする。
「確か……ホーイジシンだの、ラシンバンだの、好きに呼べって言われてた道具だ。これで方角が分かるらしい。Nが北、Eが東、Sが南、Wが西だそうだ。針の赤いほうが、N……北に来るように使うらしい」
「へえ。確かに便利だな……これ持ってたのに迷ったのか?」
その青刃の言葉に、光谷が取り乱す。
「はは……あー、ほら。地図がないと方角がわかってもさ!?」
「はいはい……それにしたって、こんなもん何処で拾ってきたんだ?」
「色々、あってな……今は『ドール』って組織に入ってるんだ」
「ドール?」
聞いたことが無い。何の組織だろうか?
「ああ。組織の『構成員』は、俺含めて24人。そんでもって、全員が全員コードネームで呼ばれて、俺は『プシェリア=ヌル』で通ってる。さらに、俺は24人目……今のところ、最後に入ったって事になってる」
「ふーん……怪しい組織じゃないよな?」
妙に胡散臭く感じた青刃が、質問する。
「大丈夫、むしろ目的だけなら良い組織だぜ?まあ、メンバーが相当……いや、とてつもなく個性的だがな」
「どんなやつがいるんだ?」
「そうだな……最近あったヤツじゃ、虚弱な姉とそれを支える妹っていう微笑ましい姉妹だったり、妙に真面目なヤツだったり、豪快で直線的なヤツとか、かな」
「ん……?」
何か引っ掛かる……今聞いた、それっぽい姉妹を前に見たような……
「へー。そんじゃ、これはその組織の品ってことか!」
その疑問も、朱羅によって吹き飛ばされる。
「ああ。ただ、一部の金属の近くだと機能しなくなるって話だ。他にも、遠隔からの会話が可能な物とかもある。ただ、これはこういった森じゃなくて、町の中とかじゃないと使えないんだ」
「それって……すごく便利じゃないか。俺も『ドール』とやらに入ろうかな……」
朱羅が、勧誘にうまくのせられたような反応を見せる。
「はは、そりゃ俺的には嬉しいが……残念なことに、24人が定員なんだ。ごめんな?」
「そうか……どっちにしても、俺は入れないだろうけどな」
そう青刃が言うが、光谷は察したように返す。
「……ああ、聖剣持ちなら大歓迎だし、組織の目的は『打倒魔王』らしいから、青刃たちの目的にも一応は合ってる。まあ、どっちにしても定員だけどな!」
――?
今、何かまた引っ掛かる言い方をした気が――
「――なあ、コウ兄。『一応は』ってどうゆう――」
「さて、と。長話してる時間もないだろ?そろそろ行くぞ」
そして、青刃の発言を切るように、光谷が言う。
「そうだな!ほら、二人とも起きろー!」
「あ、いや、朱羅ちょっとまて!あと一分!一分だけ!な!?」
コウ兄の考えが簡単に読み取れる発言である。
「……暗理、起きろ。そろそろ行くぞ」
「ん……あと一年…………」
「ほら青刃!暗理ちゃんもこう言ってることだし!?あと一年ぐらい待ってやろうぜ!?」
「一分な」
「一年は待ちすぎだろ」
「……せめて、五分……!」
「さっきは一分だったよな。昔はコウ兄、『男に二言は許されない』なんて言ってたよな。あれは嘘かそうかそうかつまりコウ兄はそうゆうヤツだったのか」
「なんで……覚えてんだよ……畜生……!!」
「……三分だけ、な」
「……!!」
「いいのかよ、青刃?」
「……しかたないだろ」
「そう言って~、実は暗理の柔らかい部分を堪能しようって魂胆じゃあよしまてわかった俺が悪かったから腕の間接を逆方向に曲げるのは流石にアウぐあああああああ!!」
「座ったままでもさ。腕の骨ぐらいナら簡単にオるコトぐライできンダゾォ……?」
煽る朱羅の腕をつかみ、関節を逆方向に捻じ曲げる。
朱羅には、青刃の背後に、禍々しくどす黒いオーラが見えるような気がした。
「我がよm――妹も、少しは大きいんだからな!」
今、自分の妹の事を嫁と言いかけなかったか?
実際のところ、体が小さい割りに胸が大きいことは忘れがちだ。昔からこうだから。
と言うか、今更ながら考えてみると、明理の身長が伸びないのって胸に栄養が行ってるからなんじゃないだろうか。と、少し真面目に考える。
「はあ、はあ……危ねえ、明理に日常的に骨を折られてなかったら、今頃……!」
隣では、逆方向に曲げたはずの間接をもう既にもとに戻している朱羅がいた。
更には。
「うう……もう少し……もう少しだけ……一分だけでも良かったんだ……ウウッ……」
明理が目覚め、体を伸ばしている明理の隣で埋まっている光谷がいた。
それで、暗理はというと。
「すー…………」
うん、一度は起きた。次は肩に寄りかかってきただけで。一度は起きたんだ。
膝枕は終わった。だが、違う。そうじゃない。
「背負っていくか……はあ……」
それとアレだが、背負ってるとダイレクトに柔らかいのが背中に当たる。特に気にならなかったが、背負ってるせいで両手が使えないのを良いことに、朱羅に加えてコウ兄まで煽ってきたので、後でキッチリお仕置きしてやった。
……深夜テンションは、自我がヒャッハーでエキセントリッキーな感じにマジパネェクラスにおかしくなることがわかったので、私は今回はこれd
……スゥヤァァァァァァァァ……