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于吉仙歌  作者: 厠 達三
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9話

 朝、皆が一斉に起き出し、準備を終えると作業場に向けて駆け出した。一様に生き生きしている。兵士の偉そうな訓示が終わると周平が前に出た。最近の恒例になってる。

「さあ、堅苦しい話は終わりだ。今日も一日、頑張り過ぎない程度に頑張ろう。どうせ今日一日でできることなんて知れてるんだ。ただし、監視の目を盗んでサボるときには細心の注意を払え」

 監視の兵士達は立つ瀬がない。が、こんなことが許されるのも、周平が前に出るようになってから目に見えて能率が上がっていたからだ。周平が両手を挙げて手拍子を打つと、皆が応、応、応と声を揃え、元気よく持ち場に散った。そして彼らは歌を歌った。彼らの声は一様に明るい。そしてその歌は、かつて陰化が笑いながら歌っていた歌であった。今、周平は笑いながら皆と一緒にその歌を歌っている。

 あの暴動から半年、無残に破壊された作業場も復旧を果たし、かなり整備も進み、完成形が見えてきたのも皆のモチベーションが上がった一因だろう。だが、周平がリーダーシップを発揮し始めたのが大きかった。かつての周軍鶏の武勇伝に憧れる若者は多かったが、今の周平、いち個人に惹かれる者の方が多くなりつつあった。とはいえ、屯田開発の全体像から見ればほんの一区画のことである。完成の日の目を見ても、更なる開墾作業は続くし、それに加え生産活動も始まる。それでも、彼らには希望があった。昨日よりも今日。今日よりも明日。この屯田開発の一つの実現が、自分達に自信と勇気をもたらすに違いない。周平が前に立ち、声を出し、皆を引っ張り始めてからなにかが変わった。九年前、北海の戦いが終わった頃から、周平には人を寄せ付けまいとする悲愴さが漂っていた。四年前の鉅野沢でも殺気が漲り、人を近付けなかった。曹操に降ってからは生ける屍のようであった。その周平が、少しずつではあったが、皆を牽引し始めたのだ。その歩みは鈍く、不器用なものではあったが、干毒とはまた違った親しみを皆が感じた。この要領の悪い新たなリーダーを皆が支えてやらねばと思ったのだ。

 すると不思議なことが起こり始めた。周平を中心にした青州黄巾の民に連帯感が生まれ、活気が出てきた。それまで続出していた病人、怪我人が目に見えて少なくなっていった。干毒のような医術も、信者を導く教義も持ち合わせていなかったが、周平は干毒の後継者として認知されるようになっていった。

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