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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第四十六章 根本的に彼女のルナリア・オルタナティブ④

エキビションマッチの一回戦で、綾花が惜しくも大輝に敗退した後、いきなり二回戦で、玄と対戦することになった拓也は、そこでオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのリーダーの決定的な実力を目の当たりにすることになった。

「ーーくっ!」

玄のキャラが一瞬で間合いを詰めて、拓也のキャラへと斬りかかる。

玄のキャラに一気に距離を詰められた拓也のキャラは後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられた。

さらに玄のキャラは、拓也のキャラが立て直す前を見計らって一振り、二振りと追撃を入れてから離れる。

さっきから、ずっと、この繰り返しだった。

大技を食らったわけではないし、とてつもない連携技を披露されたわけでもない。

なんということもなく基本技のみで相手を撃ちくだしていく玄の姿に、拓也は呆気に取られてしまう。

拓也は何も出来ず、いや、何もしていないというのに体力ゲージを根こそぎ刈り取られた、自身の剣士風のキャラを見ながら唇を噛みしめる。

「…‥…‥強い」

対戦開始早々、拓也のキャラの体力ゲージをいともあっさりと削ってしまった玄に、拓也は愕然とした表情でつぶやいた。

「決まった!」

実況の甲高い声を背景に、観戦していた綾花達はまっすぐ前を見据えた。

「二回戦の勝者は、黒峯玄!言わずと知れた、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのリーダーだ!」

「…‥…‥ううっ、たっくん」

「やっぱり、手強いな」

実況がそう告げると同時に、綾花と元樹の二人が、それぞれ同時に別の言葉を発する。

観戦していた観客達もその瞬間、ヒートアップし、割れんばかりの歓声が巻き起こった。

その時、不意に元樹の携帯が鳴った。

元樹が携帯を確認すると、先程、返事を返した1年C組の担任からのメールの着信があった。

『舞波と合流した。今は舞波の魔術を使って、黒峯さん達から逃げている。瀬生の分身体の魔術が使えるようになったら、舞波の『対象の相手の元に移動できる魔術』を使って、黒峯さん達を攪乱(かくらん)させようと考えている。上岡の憑依が戻ったら、教えてほしい』

その1年C組の担任のメールが、元樹の携帯に届いたのは、エキビションマッチの二回戦である拓也と玄の対戦が終わった直後のことだった。

舞波の魔術を使えば、俺達はここから離脱できるかもしれない。

しかし、そのためには、上岡の雅山への憑依が解けて、綾が『対象の相手の姿を変えられる』パワーアップバージョンの魔術を使えるようにならないといけなかった。

そして、麻白の姿をした綾の分身体と入れ替わった綾が、1年C組の担任の先生と無事に合流するところを見届けなくてはならない。

玄に圧勝された後、元樹から携帯に表示された1年C組の担任のメールをそっと見せられた拓也は、さらに顔を曇らせて言った。

「…‥…‥元樹、どうする?」

「先生が、無事に舞波と合流できたのなら、とりあえず、この場から離脱しようと思う」

「…‥…‥離脱?」

予想外の元樹の言葉に、拓也は少し意表を突かれる。

元樹はつかつかと近寄ってきて、拓也の隣に立つと、ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で言った。

「…‥…‥恐らく、そろそろ、上岡の雅山への憑依が解ける頃だ。麻白の姿をした綾の分身体と入れ替わった綾が、1年C組の担任の先生と無事に合流するのを確認したら、俺達も舞波の魔術で、その場を離脱しなくてはならない」

「…‥…‥そういうことか」

苦々しい表情で、拓也は綾花の方を見遣る。

目下、一番重要になるのは、黒峯玄の父親の行動だ。

黒峯玄の父親の目的は、綾花を麻白にすることだ。

大会会場を封鎖することを発端として、このまま、綾花を自分のもとに留めておくつもりだろう。

それだけは、何としても防がなければならない。

だが、この包囲網では、魔術を使える舞波がいなくては、綾花とともここから逃げ出す手段はないに等しいだろう。

そんな中、これからの対戦について、玄と大輝と一緒に楽しげに話していた綾花が、不意に苦しそうに頭を押さえた。

「ーーっ。ううっ…‥…‥」

立っているのも辛い頭痛の痛みに、綾花は、進のあかりへの憑依が解けたことを悟る。

「麻白!」

「おい、麻白!」

「げ、玄、大輝、大丈夫だよ。いつもの頭痛だから」

玄と大輝が驚愕の表情を浮かべているのを目にして、綾花はぎこちなくそう応じる。

その様子を見て、慌てて駆け寄ってきた拓也と元樹が、幾分、真剣な表情で綾花に声をかけてきた。

「麻白、大丈夫か?」

「麻白、無理するなよ」

「…‥…‥うん。たっくん、友樹、ありがとう」

二人からの励ましの言葉に、綾花はにこっと自然な様子で微笑んでみせた。

しかし、拓也と元樹には、綾花が努めてそうしているかのように思えた。

微笑んでいるのに、どこか辛そうな表情。

懸命に浮かべられた笑み。

それに気がついた拓也と元樹が、綾花に声をかけようと手を伸ばしかけて、

「…‥…‥麻白、無理するな」

と、聞き覚えのある意外な声に遮られた。

「玄」

虚を突かれたように瞬くと、綾花は振り返ってそう言う。

拓也達と同じく、綾花の強気を装った危うい表情に気づいた玄は唇を強く噛みしめてこう告げた。

「友樹が言っていたとおり、魔術で生き返った影響で、たまに頭痛が起こることがあるんだな」

「…‥…‥うん」

その綾花の声に、微妙に落ち込んでいるような色が混じっている気がして、玄は苦笑する。

「…‥…‥麻白、心配するな。俺達も、拓達もそばにいる。だから、無理はするな」

「…‥…‥う、うん」

そう言って嬉しそうに顔を上げる綾花の頭を、玄は優しく撫でてやった。

そして、もう片方の手で、震える小さな手に、玄はそっと力を込める。

「玄、大輝、麻白、俺達の仲間が、魔王と合流したようだ。今から魔王の魔術を使って、警備員達を攪乱させようと考えている。協力してくれないか?」

断固とした意思を強い眼差しにこめて、はっきりと言い切った元樹に、振り返った玄と大輝は目を見開いた。

咄嗟に、大輝が焦ったように言う。

「友樹、大丈夫なのかよ?」

「魔王の魔術を使って、俺達と玄達は、それぞれ別の場所に移動させる。恐らく、麻白が生き返っていられる時間はあとわずかだ。玄達はその間、麻白を護ってほしい」

元樹の提案に、玄と大輝は納得したように頷いてみせる。

「…‥…‥分かった」

「まあ、麻白のためだしな」

「玄、大輝、ありがとう」

綾花がぱあっと顔を輝かせるのを見て、玄と大輝は嬉しそうに顔を見合わせる。

元樹はつかつかと近寄ってきて、綾花の隣に立つと、ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で言った。

「綾、今なら、『対象の相手の姿を変えられる』パワーアップバージョンの魔術を使えそうか?」

元樹の言葉に、綾花は複雑そうな表情で視線を落とすと熟考するように口を閉じる。

少し間を置いた後、綾花は顔を上げると真剣な眼差しでこう言った。

「うん、やってみる」

「あのさ、綾。まだ、頭痛が酷いのなら、もう少し休んでからでも大丈夫だからな」

「ううん。今は痛みも引いてきたから、多分、大丈夫だと思うのーー」

元樹の言葉に綾花がそう答えた途端、麻白の姿をした綾花の表情は先程までのほんわかとした綾花の表情とはうって変わって、進のそれへと変わっていた。

「綾、大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとうな」

元樹があっけらかんとした口調で言ってのけると、綾花はてらいもなく頷いてみせる。

その時、元樹の代わりに、1年C組の担任と連絡を取り合っていた拓也が、必死の表情で言い募った。

「友樹、麻白、玄、大輝。魔王の方は、準備万端みたいだ」

1年C組の担任に了承のメールを送っていたその拓也の言葉が合図だったように、玄と大輝が焦ったように綾花の腕を掴む。

玄と大輝が綾花の腕を掴むのを確認すると、元樹もまた、拓也の手を取る。

「麻白、行くぞ!」

「拓、友樹、頼む!」

玄と大輝の声に応えるように、1年C組の担任の助力のもと、何とか、玄の父親の警備員達から解放されていた昂は、魔術を使うために片手をさっと掲げた。

「むっ!むっ!」

「ーーっ」

そして、咄嗟に使われた二度の昂の魔術によって、玄達と拓也達は驚きの声を上げる綾花とともに、大会会場内から逃げるようにして消えていった。

「ーーなっ?」

綾花と玄達、そして拓也達を、魔術で別々の場所に移動させるという不可解な現象と不自然な昂の行動に、玄の父親達は思わず、目を見開く。

「黒峯蓮馬、もらったのだ!」

その隙を突いて、昂と1年C組の担任は、捕まりそうになっていた警備員達の手を颯爽と振り切った。

「そして、麻白ちゃんは渡さないのだ!」

綾花達をそれぞれ行き先を変えて救い出した昂は、誇らしげにそう言い放つと、綾花達に少し遅れるかたちで、昂と1年C組の担任も、その場から姿を消してしまう。


一拍の静寂の後、


『おっと、これはどういうことだ!『ラグナロック』と、そのチームメンバーである黒峯麻白さんのサポート役の人達が全員、消えてしまったぞ!!』

「はあああああ?なんだ、これ?」

「総当たり戦は、これからだろう?」

虚しく響く実況の声や紛糾する観戦者達の声を聞き流し、周囲に目を配りつつも、玄の父親は厳かな口調で警備員達に指示をする。

「…‥…‥今すぐ、玄達の後を追う」

「はい」

そして、玄の父親と警備員達は、既に姿のない玄達を追って、大会会場を後にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
致し方ないとは言え、せっかくの楽しい観戦が台無しになったお客さん達は気の毒でしたね。なまじ見応えのあるバトルだったたけに、その感情もひとしおでしょうか。ちょっとサスペンスな緊迫感もあり、今回もとても面…
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