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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第四十三章 根本的に彼女のルナリア・オルタナティブ①

「さあ、お待たせしました!ただいまから、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦決勝を開始します!」

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会の会場で、実況がマイクを片手にそう口にすると、観客達はこれまでにないテンションでヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。

「まずは、前回の大会の優勝チームである『ラグナロック』!そして対するのは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、前回の大会の準優勝チームである『クライン・ラビリンス』だ!」

「おおっ、『ラグナロック』、『クライン・ラビリンス』、やっぱり、つええええ!」

「今回は、どっちが優勝するんだろうな」

場を盛り上げる実況の声と紛糾する観客達の甲高い声を背景に、綾花のーー麻白のサポート役に徹していた拓也はまっすぐ前を見据えた。

「…‥…‥すごいな」

「…‥…‥どちらのチームも、決勝戦まであっという間に勝ってしまったな」

決勝のステージで、バトルが始まるのを今か今かと待ち構えている二チームを前にして、拓也と元樹の二人が、それぞれ同時に別の言葉を発する。

「確か、『クライン・ラビリンス』って、玄達、『ラグナロック』に匹敵するチームだったよな」

「ああ。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、前回の大会の準優勝チームだ。このチームのリーダーである阿南(あなん)輝明(てるあき)は、玄達や兄貴も一目置いているしな」

拓也の疑問に、元樹は記憶の糸を辿るように目を閉じた。

「なっ、そうなのか!」

「ああ」

やや驚いたように声を上げた拓也に、元樹は少し逡巡してから答えた。

「兄貴も、阿南輝明は油断できない相手だと言っていたからな」

ぞんざいにつぶやく元樹を横目に、拓也は視線を落とすと元樹にだけ聞こえる声で静かに告げる。

「そういえば、今回も舞波は、遠くから俺達と黒峯玄の父親達の様子を探っているのか?」

「ああ。今回も舞波に頼んで、遠くから俺達と黒峯玄の父親達の様子を探ってもらっていたんだが、何でも無断で大会参加チーム用の入口ゲートの方を通り抜けようとしたみたいでさ。大会会場の個室で長時間、大会スタッフ達の事情聴取を受けてしまっているらしい」

「…‥…‥それで、ずっと、舞波の姿が見当たらなかったんだな」

元樹の言葉に、額に手を当てて呆れたように肩をすくめると、拓也は弱りきった表情で言った。

「黒峯玄の父親の目的は、綾を黒峯麻白にすることだ。上岡の雅山への憑依が解けて、綾が『対象の相手の姿を変えられる』パワーアップバージョンの魔術が使えるようになるまで、俺達で綾を護っていくしかない」

「…‥…‥ああ」

押し殺すような拓也の声に、元樹は軽く肩をすくめてみせた。

「心配するなよ、拓也。綾をーー麻白をすぐに護れるように、俺達はこうして、麻白のサポート役としてステージの後ろに控えさせてもらっているんだからな」

「そうだな」

元樹の言葉に、拓也は真剣な眼差しで決勝のステージに立つ綾花を見遣ると、どこか照れくさそうな笑みを浮かべる。

そして、拓也達が決勝戦のステージが映し出されているドームの巨大なモニターに視線を向けたのと同時に、決勝戦開始のアナウンスが流れたのだった。






決勝戦のステージは、西洋風の雰囲気を全面に醸し出した巨大な宮殿だった。

夜空を切り裂く月光が、対峙する二つのチームを照らしている。

『ラグナロック』対『クライン・ラビリンス』。

待ちわびていたであろうそのカードに、観客達がこれまでにない盛り上がりを見せていた。

玄のキャラの大剣と輝明のキャラの刀のつばぜり合いは一瞬で終わり、カキンと高い音を響かせて離れた二人のキャラは、そこから脅威的な剣戟の応酬を見せた。

正面からの瞬接。

迷いのない美しい輝明のキャラの一刀に、さしもの玄のキャラもぎりぎりのところで大剣を受ける。

刀と大剣がぶつかり合う度に散るダメージエフェクト。

連携技による大技は、互いにきっちり打ち消し合う連携技の大技で処理された。

それは、玄と輝明が互いの技を完璧に対応してみせたことを否応なく観戦者に伝え、ただただ驚嘆させる。

ぴりっと張り詰めた緊張感が溢れる中、観戦していた拓也はおもむろに、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦、決勝の綾花達の対戦チーム、『クライン・ラビリンス』についてのことをネット上で検索してみる。そして、表示された『最強のチーム』という評価の高さを見ながら、こっそりとため息をつく。

「俺は『クライン・ラビリンス』についてよく知らないけれど、あの玄達と互角に渡り合えるなんて、すごいチームなんだな」

「ああ。兄貴も、阿南輝明は油断できない相手だと言っていたからな」

似たような言い回しに眉をひそめ、直前に見たネット上の『クライン・ラビリンス』の内容を再考し、拓也は目を見開く。

「それって、あの阿南輝明の固有スキルのことか?」

「ああ。通常、連携技は複数使えるが、必殺の連携技は一つしか使えない。だが、阿南輝明は固有スキルを使用することで一度だけ、別の必殺の連携技を使うことができる」

『クライン・ラビリンス』が、『最強のチーム』だと言われている。

その理由を慎重に見定めて、拓也はあえて軽く言う。

「確か、すごい必殺の連携技なんだよな」

「ああ。阿南輝明が、固有スキルを使うことによって使用できる必殺の連携技は反則的な威力だ。例え、兄貴でも、単純に正面から相対したら、とても防ぎきれるものじゃない」

「そんなに、強力な必殺の連携技なのか」

元樹の言葉に、拓也はこの間のドームの公式の大会の後に、綾花から教えてもらった、初めて『クライン・ラビリンス』と対戦した際の話を思い出す。

あの綾花がーー雅山に憑依した上岡が、初めて対戦した時は手も足も出なかったチーム。

そして、『ラグナロック』と同様に、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式内で、最強チームだという呼び声もあるチームか。

「…‥…‥麻白、玄、大輝」

沈みかけた思考から顔を上げ、現実につぶやいた拓也は、改めて盛り上がる決勝のステージに視線を向ける。

夜空を切り裂く月光の先で、美しくも禍々しい天使の羽根がついたロッドが振る舞われる。

月の光の先にいるのは、アンティークグリーンのミニドレスを着た少女だ。

アホ毛を揺らしながら、麻白の姿をした綾花は小柄な身体にあるまじき膂力で、その少女キャラを操作していた。

「玄、大輝!」

綾花はそう叫ぶと、玄のキャラの下へ駆けつけようとして、こちらの行く手を阻むように大鎌を構えた『クライン・ラビリンス』のチームメンバーの一人、高野(たかの)花菜(かな)のキャラに眉をひそめる。

「黒峯麻白、あなたの相手は私と言ったはず」

「ーーっ、花菜!」

決意の宣言と同時に、花菜のキャラは巨大な鎌を綾花のキャラに振りかざした。

花菜のキャラと対峙することになった綾花のキャラは、手にしたロッドで一撃を受け止めるも、予想以上の衝撃によろめく。

そんな中、元樹は綾花の方へ視線だけ向けて、世間話でもするような口調で言った。

「まあ、麻白の固有スキルも、反則的なスキルだけどな」

「…‥…‥確かにな」

憂いの帯びた元樹の声に、拓也もわずかに真剣さを含んだ調子で穏やかに言葉を紡ぐ。

ふとその時、元樹は大会会場の入口ゲートの端に、見覚えのある警備員達の姿を目にする。

「…‥…‥拓也。どうやら、黒峯玄の父親に先手を取られたみたいだ」

「元樹、どういうことだ?」

拓也が意味を計りかねて元樹を見ると、元樹は悔やむように唇を噛みしめた。

「既に大会会場の入口ゲートは、黒峯玄の父親の警備員達によって封鎖されているみたいだ。少なくとも、黒峯玄の父親は、俺達をこの大会会場から出すつもりはなさそうだな」

「なっーー」

元樹の思いもよらない言葉に、拓也は不意をうたれように目を瞬く。

戸惑う拓也に、元樹は深々とため息をついて続ける。

「俺は先生に連絡して、事情聴取を受けている舞波の確保をお願いしようと思っている。拓は、ここから逃げられそうな場所を探してくれないか?」

「わ、分かった」

元樹の言葉に思わず、そう頷くと、拓也は不意に玄の父親から告げられた、ある言葉を思い出した。


『…‥…‥麻白。麻白が望む未来をーー私達が望む未来を必ず、私は手にしてみせる。誰にも邪魔はさせない。例え、それが麻白の友人だったとしても』


麻白達が望む未来か…‥…‥。

大会会場の入口ゲート付近に配置されている玄の父親の警備員達を見て、嫌な予感が拓也の胸をよぎった。

綾花達の決勝戦が終わるまでに、黒峯玄の父親の警備員達の包囲網をかいくぐり、ここから抜け出す方法を探せるだろうかーー。

この上なく熱いバトルが繰り広げられている決勝戦のステージを見つめながら、拓也は漠然と消しようもない不安を感じていたのだった。

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― 新着の感想 ―
ゲームの緊迫した戦いもさることながら、現実についても気の抜けない拓也たちの緊迫感もよく伝わってきました。機が熟してきた、という感じがします。今回もとても面白かったです。
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