表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
93/446

番外編第四十章 根本的にもう一人の協力者

「ううっ…‥…‥」

「…‥…‥はあ。完全に、黒峯玄の父親にしてやられたな」

玄の父親が帰った後、とぼとぼと歩き、今にも泣きそうな表情で昂の部屋の前に立った麻白の姿のままの綾花に対して、元樹は悔しそうにそうつぶやいた。

その言葉は、全てを物語っていた。

大会の時に、何らかの動きがあることは予想していたのだが、まさか大会前日に玄の父親が昂の家を訪問してくるとは思わなかったのだ。

麻白の姿をした綾花の分身体を実体化させることができる上岡が、今、現在、雅山に憑依していることが、ここに来て裏目に出てしまった。

突然の来訪に、元樹達は急遽、話し合い、綾花が麻白の姿になって応対することで折り合いがついたのだが、やはり、玄の父親は元樹達よりも、一枚上手だったようだ。

「綾。いきなり、麻白になって、黒峯玄の父親と応対してほしいって、言ってしまってごめんな」

「…‥…‥ううん。私の方こそ、うまく応対できなくてごめんね」

真剣な眼差しで視線を床に降ろしながら謝罪してきた元樹に、綾花は元樹と視線を合わせると、顔を真っ赤にしながらおろおろとした態度で謝った。

「許せぬ! 許せぬぞ!!」

そんな中、昂が両拳を突き上げながら地団駄を踏んでわめき散らしていた。

「我は、黒峯蓮馬から綾花ちゃんを護らねばならぬ、ーー護らねばならぬのだ!その我が、何故、黒峯蓮馬の訪問ごときで、こんなにうろたえなくてはならないのだ!」

憤慨に任せて、昂はひとしきり黒峯蓮馬のことを罵った。ひたすら考えつく限りの罵詈雑言を口にし続ける。

「おのれ~、黒峯蓮馬!我が、夏休みの宿題と課題集に追い込まれている時を狙ってやってくるとは!やはり、黒峯蓮馬は侮れないのだ!」

「…‥…‥なら、補習授業をサボるためだけに全国各地を逃げ回るな」

ところ構わず当たり散らす昂に、拓也は呆れたように軽く肩をすくめてみせる。

しかし、元樹は顎に手を当てると、きっぱりと告げた。

「…‥…‥なるほどな。舞波が、補習授業から逃げ回っていることを、黒峯玄の父親は何らかの手段で知ったから、麻白に会いに来たのかもしれないな」

「うむ、確かにな」

「…‥…‥おい」

元樹がふてぶてしい態度でそう答えると、昂は納得したように頷いてみせる。

思わぬ事実を聞いて、呆れたように片手で顔を押さえていた拓也に目配りしてみせると、元樹はさらに続けた。

「それにしても、『誰にも邪魔はさせない』か。黒峯玄の父親は、今まで以上に、綾を麻白にしようと躍起になっているのかもしれない」

「そうなのか?」

困惑したように驚きの表情を浮かべる拓也に、元樹は軽く肩をすくめると手のひらを返したようにこう言った。

「まあ、実際のところ、俺もどういうことなのか分からないけどな」

「…‥…‥そうか。やっぱり、黒峯玄の父親が、明日の大会の時、綾花に何かをしてくるのは間違いなさそうだな」

顎に手を当てて真剣な表情で悩み始めようとした瞬間、不意に拓也は先程の元樹の意味深な言葉を思い出した。

「そういえば、元樹。『対象の相手の姿を変えられる』パワーアップバージョンの魔術を何故、綾花のーー上岡の雅山への憑依が解けたすぐ後に使った方がいいって言ったんだ?」

「ああ」

拓也の疑問を受けて、感情を抑えた声で、元樹は淡々と続ける。

「恐らく、今回も、黒峯玄の父親は、大会が終わった後に綾を狙ってくるはずだ。それに、さすがに今回の魔術は、大会前には使えないからな」

「大会前に使えない?」

呆気に取られた拓也にそう言われても、元樹は気にすることもなくあっさりとした表情で言葉を続けた。

「ああ。『対象の相手の姿を変えられる』魔術のパワーアップバージョンはさ、綾が上岡として振る舞っている時のみ使うことができる魔術だろう。なら、上岡の雅山への憑依が戻らないと使うことができないしな。それに、麻白が突然、消えてしまってもおかしくないように、大会前より、後に使った方がいいと思う」

「なるほどな」

苦々しい表情で、拓也は隣に立っている綾花の方を見遣る。

実際、前回の公式大会では、綾花は大会後に、玄と大輝の協力を得た黒峯玄の父親達の手によって連れさらわれてしまった。

確かに、綾花のーー上岡の雅山への憑依が解けた後に、麻白の姿をした綾花の分身体と入れ替われば、前のように綾花に危険が及ぶことはないだろう。

だが、すぐに思い出したように、拓也は元樹の方に向き直るとため息をついて付け加えた。

「でも、黒峯玄の父親のことだ。そう何度も同じ手を使ってくるとは限らないんじゃないのか?それに、麻白の姿をした綾花の分身体は、綾花の視界に入る範囲内でしか、綾花と違う言動をすることはできないだろう」

「ああ。だから、綾のーー上岡の雅山への憑依が解けて、綾と麻白の姿をした綾の分身体が入れ替わった後も、俺達はしばらく玄達と行動をともにしようと思う。もちろん、綾には『姿を消す魔術』を使って、俺達を尾行してもらいながらな」

「「ーーっ」」

「むっ?」

元樹が再び、客観的方法を提案してきた事実よりも、その方法を提案してきたということに、拓也と綾花はーーそして隣で二人の会話を聞いていた昂は衝撃を受けた。

綾花が、麻白の姿をした綾花の分身体と入れ替わった後も、俺達を尾行するということは、綾花と綾花の分身体との入れ替わりに気づいた黒峯玄の父親が、綾花に気づいて危害を加える可能性が増すことに繋がる。

それに間接的とはいえ、綾花一人に俺達を尾行させるのは危険ではないだろうかーー。

拓也の思考を読み取ったように、元樹は静かに続けた。

「…‥…‥俺は、今回の作戦には、舞波のおばさん以外に別の人物の協力が必要だと思う。だから、明日の大会には、舞波のおばさんとは別に、もう一人、別の人物に協力をお願いをしてきた」

「なっーー」

断固とした意思を強い眼差しにこめて、はっきりと言い切った元樹に、拓也は今度こそ目を見開いた。

咄嗟に、拓也が焦ったように言う。

「はあ?元樹、なに言っているんだ?」

「拓也も分かっているだろう?」

元樹の即座の切り返しに、拓也は元樹が何を告げようとしているのか悟ったように、ぐっと悔しそうに言葉を詰まらせる。

「俺、あれからいろいろと考えてみたんだ。これから先も、俺達だけで綾を護るのは無理があるんじゃないかって」

それにさ、と元樹は言葉を探しながら続けた。

「もし、綾一人が、俺達を尾行していることを黒峯玄の父親に知られたら、今度こそ、本当に連れさらわれてしまうかもしれない。だけど、舞波のおばさんには、俺達がすぐに逃げられるように車で待機してもらう必要があるだろう。なら、別の人物に協力してもらって、綾と一緒に俺達を尾行してもらう」

何のひねりもてらいもない。

そう思ったから口にしただけの言葉。

目を丸くし、驚きの表情を浮かべた拓也を見て、元樹は意味ありげに綾花に視線を向ける。

「…‥…‥元樹くん」

綾花は、予想もしていなかった元樹の言葉に呆然としていた。

元樹は軽く息を吐くと、気まずそうに小首を傾げている綾花の前に立った。

「…‥…‥綾、今回も、すげえ不安にさせることを言ってしまってごめんな。だけど、俺も拓也と舞波と同じで、綾がこれ以上、黒峯玄の父親の策略で傷つくのを見たくない」

「…‥…‥っ」

元樹の強い言葉に、綾花が断ち切れそうな声でつぶやく。

そんな綾花に、元樹は真剣な表情を収めて屈託なく笑うと意味ありげに続ける。

「心配するなよ、綾。今回の作戦では、綾には『宮迫琴音』としてではなく、別の人物に変装してもらう」

「別の人物に?」

意外な提案に、少し困惑気味な綾花に対して、元樹はあくまでも真剣な表情で頷いた。

「ああ。そうすれば、黒峯玄の父親も、まさか尾行している綾が、麻白の心が宿っている『宮迫琴音』だとは思わないだろうしな」

「なるほどな。相手の作戦を逆手に取るわけか」

苦々しい表情で、拓也は隣に立っている綾花の方を見遣る。

確かに、綾花が『宮迫琴音』ではないと知れば、黒峯玄の父親がこれ以上、綾花に危害を加えてくる可能性は減るかもしれない。

だが、しかし、今度は綾花に、麻白のーー宮迫のことを聞いてくるのではないだろうかーー。

「なあ、元樹ーー」

「うむ。心配するな、綾花ちゃん」

拓也がそのことを元樹に伝えようとした矢先、不意に昂の声が聞こえた。

拓也が昂がいる方向に振り向くと、昂は一呼吸置いてから意気揚々にこう告げた。

「再び、我の魔術で黒峯蓮馬を返り討ちにしてくれよう。そして、綾花ちゃんを護ってみせるのだ!」

「…‥…‥舞波くん、ありがとう」

きっぱりと告げられた昂の言葉に、綾花はほっとしたように安堵の表情を浮かべると微かに笑ってみせる。

昂の言葉に綾花が輝くような笑顔を浮かべるのを目撃して、拓也は何かを決意するように、そして付け加えるように言った。

「綾花、何か困ったことがあったら、すぐに駆けつけるからな。黒峯玄の父親には、綾花を渡さない」

「俺も、出来る限りの対策を練ってみるな」

「うん。たっくん、元樹くん、ありがとう」

拓也と元樹の何気ない励ましの言葉に、綾花は嬉しそうに笑ってみせた。

「だけど、元樹。別の人物に協力をお願いしてきたって言っていたけれど、誰に頼んできたんだ?」

「ああ」

拓也の疑問を受けて、感情を抑えた声で、元樹は淡々と続ける。

「1年C組の担任の先生だ」

「なっ!?」

「なにぃーー!!」

元樹のその何気ない言葉を聞いて、拓也が思わず目を見開き、昂は大言壮語に不服そうに声を荒らげた。

「綾には今回、舞波と同じクラスの生徒に変装してもらおうと思っている」

「それって、綾花が俺達の後輩に変装するっていうことなのか?」

目を丸くし、驚きの表情を浮かべた拓也を見て、元樹はばつが悪そうな表情で続ける。

「ああ。実は、舞波のおばさんに今回の作戦を伝えに行った時に、補習授業の件で家庭訪問をしていた先生が来ていてさ。直々に協力をさせてほしいって言ってきてくれたんだ。何でも、補習授業をサボって全国各地を逃げ回っている舞波に話しておきたいことがあるらしい」

「ひいっ!な、なんなのだ!その恐ろしいサプライズはーー!!」

予想もしていなかった衝撃的な事実に、昂はひたすら頭を抱えて絶叫するしかなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
結局、こういう時頭を回してくれるのは元樹ばかりというところが、ストーリー上、とても気になります。元樹が寝返ってしまったら、皆が詰み、となりそうですね。拓也としてはどう動くのか、今後もとても楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ