第七十章 根本的に彼女は四人分、生きている⑥
「綾花。とにかく、まずは二人を応援しよう」
「……うん」
憂いの帯びた綾花の声に、傍観していた元樹もわずかに真剣さを含んだ調子で穏やかに言葉を紡ぐ。
「心配するなよ、綾。舞波は、これから先生達の応援を受けて、この状況を切り抜けてくれるからな」
「ひいっ! 何を恐ろしいことを言っているのだ!」
その声を聞き留めた昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。
「すまないが、私は今から汐とともに、『これから舞波が起こす不祥事の対処』に回ることになりそうだ。申し訳ないが、舞波達の応援は瀬生達に頼みたい」
「先生、あんまりではないか~!」
1年C組の担任、岩木銀河があくまでも確定事項として淡々と告げると、昂が悲愴な表情で訴えかけるように1年C組の担任を見る。
だが、昂の悲痛な訴えも虚しく、銀河と汐は厳戒態勢に入った。
「何度見ても、不思議な光景だな」
そんな中、元樹が反射的に視線を向けた先には、観客席で困惑の色を示している輝明の姿があった。
そしてその隣で、焔が昂達がいるステージを不敵な笑みを浮かべて見つめている。
「究極連打か。破天荒な奴が使う支離滅裂なゲーム技を一つ一つ見極めてみるのも楽しいかもしれねぇな!」
輝明が示した懸念に、焔は断固たる口調で言い切る。
確信に満ちた言葉は真実。
焔にとって、自分が関心を持つ存在と、非現実の現象に純粋な興味を抱くのは当然のことだった。
「舞波昂と黒峯陽向。どちらが『ラグナロック』のチームメンバーに加わるにしろ、手強い相手であることには変わりない」
「……へえー。どちらが加わるかは分からないが面白いじゃねぇか」
昂の型破りなセリフの解釈。
核心を突く輝明の理念に、焔はそれだけで納得したように表情に笑みを刻む。
主従関係を結んでいる輝明と焔。
それぞれ、個性も指標も考え方も違っていたが、その剽悍さは昂の及ぶところではないように拓也には思えた。
「バトルがどうなるのか、楽しみだな」
その様子を近くで見守っていたあかりはーー進は声を弾ませる。
「なあ、優香。『ラグナロック』のチームメンバーに新しく加わる人は、すごい人みたいだな」
「そうですね」
問いかけるような声でそう言ったのは、『ラ・ピュセル』のチームリーダーの雅山春斗。
そんな彼の言葉に、『ラ・ピュセル』のチームメンバーの一人である天羽優香は軽く頷いてみせた。
「ねえねえ、春斗くん、あかりさん、優香」
そんな中、『ラ・ピュセル』のチームメンバーの一人で、『ゼノグラシア』のチームリーダーでもある今生りこは人懐っこそうな笑みを浮かべると、両拳を前に出して話に飛びついた。




