第六十六章 根本的に彼女は四人分、生きている②
本来なら本腰を入れて、更なる昂の調査へと乗り出したいところだが、今は『エキシビションマッチ戦』の騒動の後始末が残っている。
ならば、と文哉は持ってきたノートパソコンを起動させた。
いずれにせよ、賽は投げられた。
舞波昂くんのバトルを間近で見られるのだからな。
そうすれば、私は黒峯蓮馬以上の魔術の使い手になれるはずだ。
文哉は観客席で事後書類を手際よく捌きながら、己の信念を頑なに信じていた。
「どうやら、黒峯文哉さんが抱えている問題は、今回のバトルを目の当たりにすることで、解決に向かいそうですね」
その様子を傍観していた夕薙が真剣な声音でつぶやく。
「舞波昂くんと黒峯陽向くん。どちらが勝利するのか、気になりますね~」
その意図を把握にした文月は声を華やかせた。
「もっとも、僕達の目的は魔術の分家、阿南家の当主の息子、阿南輝明くんのスカウトーー勧誘ですけれどね」
「えへへ……、そうですね~」
魔術の深淵を覗くような夕薙の言葉に、文月が上機嫌にはにかんだ。
「私達の所属するゲーム会社は、魔術の本家、由良家が経営者として関わっています。だけど、そのゲーム会社のプロゲーマーになるためには、ゲームと魔術、どちらの実力も必要になるんですよ~」
文月達の所属するゲーム会社は、魔術の本家、由良家の者が経営者だ。
そのゲーム会社のプロゲーマーは全て、魔術の使い手である。
そのゲーム会社のプロゲーマーになるためには、ゲームと魔術、どちらの実力も必要になる。
だからこそ、文月達が、ゲームの実力者であり、未知の魔力を秘めている輝明に目を向けるのは必然だった。
「なるほどな。そういう魂胆か。だから、執拗に輝明をスカウトしようとしていたんだな」
今後、魔術の本家の者達がスカウトするために、輝明の前に立ちはだかる。
その事実を噛みしめた焔は、まるで長き、永き封印から解き放たれたように、両手を広げて天井を仰いだ。
「輝明、絶対に勝てよ。輝明は俺が唯一、認めた仕えるべき主君なんだからよ。魔術の面でもゲームの面でも、あいつらより弱かったら話にならないぜ!」
焔は心中で主君である輝明に忠誠を誓いながらも、その表情は凶悪に笑っていた。
「全てを覆すんだろう? なら、輝明、俺にーー世界にその全てを見せてみろよ。てめえはなんせ、俺が唯一、認めた主君、『アポカリウスの王』なんだからよ」
焔は不敵に笑う。
自身が掲げた理想を成すその日を夢見てーー。
主従関係を結んでいる二人が交わした誓い。
その宣誓はまもなく芽吹かせる事になるだろう。
その時、焔は何者かの視線を感じた。




