第六十五章 根本的に彼女は四人分、生きている①
『ラグナロック』の新たなチームメンバーの座を賭けたバトル。
その意図を察した瞬間、魔術の本家の者達の纏う空気が一変した。
このバトルを目撃することで、ずっと不透明だった昂の存在理由が判明するかもしれないと判断したからだ。
「舞波昂くんは何故、魔術を使える者として存在している。その答えを私達、魔術の家系の者達は知る必要がある」
文哉は観客席で、その答えを求めるように意識を高める。
正しさを問うたことがある。
それを愚かだと一蹴されたことがある。
文哉は昂の存在を脳裏に浮かべつつ、情報収集のための作業をこなしていく。
「……もう間もなくだ。このバトルは間違いなく、魔術の本家にとっての糧となる。そしてーー」
魔術の知識の使い手、黒峯蓮馬。
魔術の知識という特異な力を持つ彼は、黒峯家の中でも特筆した存在だった。
分かっている。
彼に悪意はなく、それを称える人々にも悪意はなく、全てはただの符合に過ぎないのだと。
それでも、嗚呼。
「……私は、黒峯蓮馬以上の魔術の使い手になりたい」
黒峯家の家系の一人で在りたくなくて、自分という個人を識ってもらいたくて。
しかし、天性の才に秀でるものは弛まぬ努力だけだった。
嗚呼、何故、届かない。
何故、私は彼に敵わない?
何故、私の願いは叶わない?
絶望と屈辱が津波のように押し寄せて視界を染める。
刹那思い出されるのは遠い昔。
地上の星空の下、今は亡き母の聲。
『文哉、あなたには才能があります。黒峯家の名に恥じないように強く生きるのですよ』
――それが、記憶に残る原風景。
私が落ちこぼれであった、最後の記録。
奇跡を乞うだけの幼子であったのはいつまでだったろうか。
虐げられた日々を知っていたから、文哉は只人から抜け出そうと邁進し続けた。
「だからこそ、舞波昂くんが何故、魔術を使える者として存在しているのか知りたい。そうすれば、私は黒峯蓮馬以上の魔術の使い手になれるはずだ」
文哉は申し合わせたように、隣の文月達と目を合わせた。
論理感、死生感、善悪。
文哉が抱く感情はある意味、自尊心によるものが強い。
平凡である事が罪だった。
非凡を望まない事が罪だった。
だからこそ、文哉はそんな理不尽な運命に叛逆できる力を願う。
誰かに押し付けられた不条理を撥ね退けるほどの力を求める。
文哉が強くなったのは玄の父親と比肩する力を求めたため、或いは凌駕しうる執着を、玄の父親に抱いているために他ならない。




